エルメス - 軽やかさの工房
私はエルメスのギャラリーが好きで、これまで何度かその展覧会にお邪魔したことを投稿している。
とても独創的で、24日間続いた会期では毎日ピアニスト向井山朋子氏の異なる演奏がされた、2019年の展覧会 -
それぞれ素晴らしく、その思いから投稿せずにいられずにしてしまったものが多いのだが、今回も心から感動してしまったイベントだった。あれらはまさにエルメスのエスプリ(esprit / 精神、ウィット)がなければできない代物で、見終わった今も、かつてないほど感動と尊敬の念が止まない。
軽やかさの工房
"軽やかさの工房 - La Fabrique de la légèreté" と銘打たれた今回のイベント。参加して初めて人数を限定していた理由が理解できた - それは通常の展覧会形式ではなく、シアター形式のためだった。
彼らが全6幕を演じるという形式で、テーマは "ペガサスと6つの軽やかさを探す旅"。“旅” がタイトルに入っているのは、エルメスは馬具から始まったメゾン(ブランド)で、彼らが好んで使うキーワードということもあるだろう。何ともエルメスらしい遊び心に満ちたコピーに、ワクワクが止まらない。
SCÈNE Ⅰ 反転した世界
ダンスカンパニーのメンバーの一人の、"はじめ!" という日本語の掛け声から始まった第一幕は、演者たちがペガサスの伝説を "手" を使って演じる、という意外性に満ちたものだった。来場者全員が見えるように高い位置にモニターが設置されているが、流されているのはビデオではなく "ライブ"。彼らの “手” が、設置された 牧場を模した"小舞台" の中で、軽やかに舞う。
この意外性と、彼らの流暢でコミカルな演技、テーマにぴったりと沿うような軽やかな音楽、想像だにできなかった舞台に、来場者のほとんどは驚かされたことだろう。私は…その意外性と素晴らしさに圧倒され、この混濁した気持ちに、感動してつい泣きそうになってしまったほどだった。そして彼らの “手” を使った演技は6幕を通して続いていく。
SCÈNE Ⅱ 渡り手袋の飛翔
お分かりだろうか。白い手袋をした “手” が、優雅な音楽とともにまるで “人のように歩いて” いる。第一幕と同様、画像上部はモニターで、下部では舞台で演者がライブで演技をしている。美しく優雅な動きと試み。
エルメスのこの素晴らしい世界を、言葉にしようとする方が野暮というものだ。それでもなお、私はこの感動を伝えたくて記事を書いてしまっている。
SCÈNE Ⅲ サーカス
各幕のタイトルにも、エルメスの豊かな発想力を感じさせる。夢と、まるで子どものような遊び心に、洗練された文化を載せた彼らのエスプリ。
SCÈNE Ⅳ だまし絵
エルメスが販売しているものは決して安くはない高級品ばかり。そして生活必需品でもない。基本は子どもが対象でもない。けれど彼らの展覧会は、いつも大人ばかりでなく子どもたちも楽しめるもの。彼らが商業活動を行いながら同時に共有したいもの、それは彼らの精神の中枢にある、この愉快で遊び心溢れるエスプリ - なのかもしれない。
SCÈNE Ⅴ 四つの鞄のオペラ
私のお気に入りの一つ。この軽快で愛すべきウィットがたまらない。
エルメス公式のReelはこちらから -
https://www.instagram.com/tv/CeOpDyVq-sa/?igshid=YmMyMTA2M2Y=
SCÈNE Ⅵ 無重力
最終幕(第6幕)は、ダンスカンパニーの真骨頂、本領発揮の場面だっただろう。彼らの優雅な動きと、エルメス、そして演者たちの創造性に、もはや白旗をあげる他なかったこの6幕。彼らの世界観はこれ以上ないほどの創造性と、子どものような素直さを持った無邪気な遊び心に溢れていて、そして洗練されていた。
この彼らの豊かな世界の中では、私たちもひと時、その想像力を働かせて一緒に遊ぶことができる。そしてその楽しさといったらない。彼らはいつも私たちをこれでもかと裏切り、エルメスの機知に富んだ美しい世界に連れて行ってくれるからだ。Bravo, Hermès!
こんな素晴らしい機会をくださったエルメスと彼らのノブレス・オブリージュに、この場をお借りして心から感謝を申し述べたい。ありがとうございました。
※ 挿入されている写真及び画像、動画コンテンツはすべて筆者の撮影によるものです。
※ 2022年9月1日追記
WWD JAPANで本イベントの解説記事を見つけたので、参考までにリンクを貼っておきます。
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