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ショートショート(オリジナル)

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自作のショートショート作品です。~2000字くらいのものを載せていくつもり。
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雨傘と日傘

雨傘と日傘

 ショートショート作家、田丸雅智さんの作品『雨傘科』。先日、このショートショートをお題にした俳句コンテスト「ショートショート『雨傘科』を読んで一句」が開催されました。
 作句にあたり、俳句を作るつもりが、派生的にショートショートが一遍出来てしまったので公開します。『雨傘科』の二次創作みたいなものですね。ぜひ、原作をご一読の上読んでやっていただければと思います。

 「雨傘科」に入院することになった

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Don’t cry,my hero.

Don’t cry,my hero.

 幼なじみのナナちゃんは、小さい頃から「女の子らしさ」とは無縁の子だった。髪はいつもショートカット。おままごとは嫌い、サッカーが大好き。スカートは絶対履かない。
 お遊戯会で「アンパンマン体操」を踊った時は、他の女の子がみんなメロンパンナやドキンちゃんのお面を作る中、一人だけアンパンマンのお面を作った。お絵かきが下手なナナちゃんのアンパンマンは、紫色の顔に黄色のほっぺをして、まるでナスのおばけみた

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怪盗

怪盗

「しかしこのご時世に『犯行予告』とはな。馬鹿にしやがって」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ先輩。確かに、今どき変装が得意で神出鬼没の怪盗、なんて、冗談にも程がありますよねぇ」
「まさか都内で三件も被害が出てるとはな。警察のメンツ丸つぶれだ」

 私の背後で、二人の男が話し込んでいる。どうやら、この二人は刑事であるらしい。「先輩」と呼ばれた低い声の男は、四十路の半ばといったところか。もう一人は若い

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「初めての」

「初めての」

 今日もまた、クラスメイトの女の子たちが「あの日」の話をしている。
 「あの日」というのはもちろん、月に一度やって来る、女の子特有の「例の一週間」のことだ。
 例えば、女の子の一人が、朝から浮かない顔をしているとする。どうしたの、と問うと、彼女はひそひそとこう言うのだ。
「今日『あの日』でさ。お腹痛いんだ……」
 そんな時は、できる限り痛ましそうな顔をして、「大変だね」とか「辛いよね、アレ」とか言

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可愛くない女

可愛くない女

『女の子がやってはいけない一番悲しいことは、男性のために頭の悪いふりをすることです』

 あるハリウッド女優の有名な言葉だ。
 私は今まさに、その「一番悲しいこと」をやっている。目の前の、この男の子に。

「ハル君って、映画、詳しいんだね。私、そんなの全然知らなかったよ」
 サークルの飲み会で、私は彼に言った。
 ポイントは、相手の目をじっと見つめること。お店の間接照明が、潤んだ瞳を効果的に演出し

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4分18秒の冒険

4分18秒の冒険


「だからさあ、頼むよ、ハトリちゃん。出よ? せっかく当たったんだからさあ」
 ササキ・アラタは大げさに私を拝んだ。
 私のデスクの上に、一枚のハガキがある。
「『シング・フォー・ザ・ドリーム』出場決定のお知らせ」
 それは、出場者が歌唱力を競う、歌手志望者の登竜門として有名なテレビ番組だった。その番組に、どうやらこの私が、出場する権利を得たらしい。
「バカ言わないでよ、何勝手なことしてくれてん

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エンドレス(ちくま800字文学賞応募作品)

エンドレス(ちくま800字文学賞応募作品)

「PDCAって、ご存じですか」

男は僕に尋ねた。

「ええ、まあ」

それは、サラリーマンの僕には馴染み深い言葉だった。
PLAN(計画)、DO(実行)、CHECK(評価)、ACTION(改善)。
日々の業務においてこれを実践し、円滑に遂行する。ビジネスの基本だ。
しかし、目の前の男の言う「PDCA」は、ちょっと違うらしい。

「簡単にご説明しますね。まず、PROMISE(契約)。貴方と私

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犬泥棒(ちくま800字文学賞応募作品)

犬泥棒(ちくま800字文学賞応募作品)

 犬は防犯に役立つ。そう思う者は多いだろう。犬の使命とは、飼い主を守ることだ。怪しい者には吠え、勇敢に飛びかかる。

 俺は泥棒だ。普通、泥棒は犬のいる家を避ける。だが、俺は違う。俺は、どんな犬でも手懐けることができるのだ。

 その夜、俺はとある豪邸の前に立っていた。立派な門柱の隅に、小さな逆三角の印がある。仲間がつけた「犬がいる」というサインだ。玄関の防犯カメラは、明らかにダミー。俺は、屋敷を

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密着取材(ちくま800字文学賞応募作品)

密着取材(ちくま800字文学賞応募作品)

アカデミー賞受賞監督・西園寺怜子に密着し、ドキュメンタリー番組を作る。その企画は、怜子が新作映画の制作を発表した日から始まった。

私は番組のプロデューサーとして、当初から怜子と接していた。
怜子は、世間のイメージそのままの、気難しい職人のような女だった。
自分にも他人にも厳しく、演技の指導には一切手を抜かない。スタッフや俳優と口論になることも珍しくなかった。

「私は悪役なのよ。人間、追い詰めら

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山手線の守護者たち(ちくま800字文学賞応募作品)

山手線の守護者たち(ちくま800字文学賞応募作品)

「狛犬ポジション」――電車のドアの両脇の「あの場所」のことだ。
毎日満員電車で通勤する僕は、この場所の快適さをよく知っていた。
しかし、この場所がネットで話題となり、名前が付き、そこを他人に譲る行為が賞賛されるようになった時、僕は決意した。

僕は、このポジションを守る。そして、ここを真に必要とする人に使ってもらうのだ。それは確かな偉業に違いない。

僕は毎日、できる限りポジションを確保し、必要な

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紙飛行機とんだ(ショートショート)

紙飛行機とんだ(ショートショート)

その国は「自由」を持たない国だった。
自分の意見や考えを、自由に表明する。
異なる文化や価値観に触れ、互いに学び合う。
そんな当たり前のことが、人々には許されていなかった。
特に、国の方針に逆らうような活動は厳しい取り締まりを受け、抵抗する者は投獄された。たとえ国が間違ったことをしたとしても、人々はただ、従うほかなかった。

そんなある日、街に突如として、ある数字が現れた。

「0824」

誰が

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