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政府支出で経済は成長できるのか?

こんにちは。今回は政府支出と経済成長・GDPの関係性についての記事です。
昨今の日本では経済政策について激しい議論が交わされており、その解決策の一つとして、一部の評論家や議員が''政府支出で公共投資や給付金を拡大して経済成長させる''という経済政策が挙げられます。その政府支出と経済成長についての関係や効果について解説します。

財政政策と経済成長

GDPの構成

まず最初にGDPの構成についてです。''GDP(国内総生産)''とは、一定期間内に国内で産み出された物やサービスの付加価値の合計のことである。一定期間内に国全体でどれくらい生産され、売られたかということです。このGDPが一定期間でどれぐらい大きくなったのかを示す数値を「経済成長」という。経済成長には生産数量に市場価格をかけて生産されたものの価値を算出し、すべて合計する「名目GDP」と、その物価変動を除いた「実質GDP」があります。通常、経済成長率は物価を除いた実質ベースで考えます。何故ならば、こう高インフラの国が高成長率になってしまいます。物価変動を除いた実質ベースの方が実際に生産や消費された数値を物価の影響を受けずに調べます。

GDPの算出にはこのような計算式が使われています。
GDPは民間消費と民間投資、政府支出、交易を足して、GDPを表します。

GDP=民間消費+民間投資+政府支出+交易(輸出-輸入)


財政政策について

政府による経済政策は大きく2つあり、それは「財政政策」と「金融政策」です。これらは経済政策で最も重要な柱です。つまり財政政策は経済政策をする際に必要不可欠な存在です。さて、財政政策による経済政策とは、主に政府の歳出や歳入を通じて総需要や貨幣の循環をコントロールすることです。例えば、政府支出で公共事業を拡大し需要不足を解消をしたり、減税や給付金で消費者の消費喚起を起こさせることを目指します。 

このように、財政政策による政府支出の拡大によって、需要不足や失業問題を解決し、景気回復や経済成長を目指します。
三橋・池戸系の評論家や政治家は財政出動による政府支出拡大で経済成長の拡大を提唱しています。[GDPの構成]で示したGDPの計算式を見てみると、政府支出を拡大すれば経済成長に繋がるようにみえます。しかし、政府支出で経済成長を目指すのなら「乗数効果」が大きいことが前提です。

政府支出でGDPは増えるのか

乗数効果とは

「乗数効果」とは、政府支出や民間支出による公共・民間投資の支出が経済全体に与える影響が、その直接的な支出だけでなく、それが間接的に再循環することで、更なる経済効果を引き起こすということです。例えば、政府が1兆円規模の公共投資をするとします。政府に投資された建設業は仕事が増え、その分のGDPが増えます。その効果だけではなく、従業員の政府からの給料で財とサービスに消費したりすれば、その分の民間消費が増えて、間接的に1兆円分のGDPが増えます。直接間接の合計で2兆円分の経済効果生み出しました。GDPが追加で2兆円増えれば、政府支出の乗数は2となる。乗数効果が大きければ大きほど、政府支出を増やせば、支出分以上の経済効果が生まれます。

このように乗数効果があるほど間接的にGDPが増えるとわかりました。しかし現在の乗数効果は乏しく、政府支出しても大きな経済効果は生まれないのです。
『内閣府 中期モデル』によれば、1977年の乗数効果は1年目で1.81、2年目3.29、3年目3.66であり、20世紀日本の乗数効果は大きいものでした。政府が1兆円分の政府支出をすれば3年目で約3兆円分の経済効果が生まれるのです。だが、2018年の乗数効果は1年目で1.05、2年目0.91、3年目0.69となっており、20世紀の乗数効果と比べてかなり低い水準になっています。乗数効果が1以下だと、公共投資してもほとんど変化はありません。例えば、0.5だと元の値の半分しか増加せず、効果がほとんど感じられません。

乗数効果は何故低いのか

では何故、乗数効果が低くなったのでしょうか?それは日本が労働不足と完全雇用の国だからです。
現在の日本では少子高齢化問題に苦しめられており、少子高齢化による人口減少によって、労働不足が深刻化しています。またそれと同時に日本は低失業率の国であり、2019年12月時点での失業率は2.2です。

完全雇用は国と地域や学者によって基準が異なりますが、一般的な基準は5%以下であり、日本はその条件を達成しています。つまり政府がいくら公的投資で増やして雇用を増やしても、雇用が余っているこの国では大した効果は期待できないのです。乗数効果は不完全雇用を前提としている。不況時には失業率が高くなり、総需要が不足します。また不況時には乗数効果が大きくなる傾向になるため、公共投資をして総需要の不足を補えば経済効果は大きくなります。しかし、雇用や需要が余っていて、大した不況でもない日本では公共投資をしても乗数効果は少なくなり、大した経済効果は得られません。

財政出動すれば経済復活するという珍説

相関と因果

日本の乗数効果は少なく、公共投資の効果が少ないとわかりました。だが、ある一部の三橋・池戸系の評論家や政治家達はこのようなグラフを出します。

33ヵ国の財政支出伸び率とGDP成長率の分布(1997年〜2015年)-島倉原氏「緊縮財政国の経済は停滞し、積極財政国の経済は繁栄する」表現者クライテリオン2018年7月号より転載。

このグラフを見ると、政府支出の伸び率が大きくなるほど、GDP成長率が伸びる印象を抱きます。彼らは、政府支出を増加すれば、市場に需要や雇用が増え、企業や個人が消費や投資が増えると主張します。つまり政府支出を増やせば自動的に経済成長するとことです。また、GDPが増えれば国債の比率も下がり、財政問題も改善するとも主張しています。彼らのこの理論を「現代貨幣理論(MMT)」に基ついで発言しています。MMTとはポスト・ケインズ派経済学から生まれた理論であり、独自通貨を持つ国は債務返済のための自国通貨発行額に制約を受けないため、借金・国債発行をいくらしても財政破綻は起きないと説く経済理論です。
だが、前の章で主張しましたが、日本は失業者や乗数効果が小さい為、いくら無限に政府支出しても効果は生まれません。

そもそも、これはあくまでこれは因果関係であり、必ずしも政府支出から経済成長を生み出すというのを表しておらず、経済成長で政府支出が増えた可能性もあります。経済学や統計学を研究する上で大事なのは相関か因果なのか、厳密に考えて区別します。彼らは‘’政府支出→経済成長‘’と主張していますが、経済成長→政府収入→政府支出になることにもなる。彼らは一つのグラフを因果関係と強く結びつけて、人々に向けて発言します。何も考えずにグラフを見ればこのような主張は受け入れられるかもしれません。だが、多少の経済学の知識がある方でも安易に強い因果関係をすぐには認めません。まず経済学者や評論家は因果か相関なのかを考えます。AからBになるのか、それともBからAになるのかを研究し、結論付けます。

MMTや積極的財政を支持している人達は、経済成長と政府支出の関係性を強く主張するが、政府収入(税収)と経済成長の関係性も充分強くなる。
デービット・アトキンソン氏が制作した税収と経済成長の関係をグラフ化にた図表があります。

税収と経済成長率の関係性(1972年〜2019年)−デービット・アトキンソン氏「日本を惑わす「そう見えるでしょう経済学」の盲点」東洋経済新聞より転載。

このグラフを見れば分かりますが、税収と経済成長の関係性が強いことが分かります。最近の世界各国の財政状況では、財政赤字問題が深刻化し財政健全化が重大になっています。ですので、税収と経済成長の関係性は強いのです。“政府支出→経済成長“と同じ理論でいけば、“税収・増税→経済成長“という関係性も成立できます。しかし、どっからどう見てもこの関係性はもちろんないでしょう。

この統計データで大切なことは、「政府支出で経済成長するのか」それとも「経済成長してから政府支出がされるのか」をよく考えなければなりません。因果なのか相関なのかを考えるを放置すれば経済の動向を確認できません。

政府支出・国債発行をしても経済成長できていない日本

次は実際に経済成長と政府支出のデータをそれぞれ見て、経済成長と政府支出が関係しているのかを確認してみましょう。
まず最初に名目GDPと実質GDPの推移のグラフです。

日本の名目GDP(自国通貨)の推移−世界経済のネタ帳より転載
日本の実質GDP(自国通貨)の推移−世界経済のネタ帳より転載

次は対GDP比政府歳出の推移です。

日本の歳出(対GDP比)の推移−世界経済のネタ帳より転載

これらのグラフ見て見れば、歳出は時々上がったり下がったりしていますが、GDPはその変動を受けていません。名目も実質も政府歳出の影響はないとわかります。
また、国債発行の推移を見てみると、昭和40(1965)年か令和5(2023)年まで、国債残高は増加傾向であります。

普通国債残高の累増(1965年〜2023年)−財務省より転載

先程掲載した名目・実質GDP推移のグラフと国債発行額の推移を見てみれば、国債発行額は大きく増加しているものの、実質も名目も基本的に横ばいです。
「国債発行すればGDPが増加する!」という主張もしている彼らですが、実際に見てみると国債発行してもGDPは増えていません。

政府支出をしても賃金は上がらない

三橋・池戸系の評論家や政治家達は「政府支出を拡大すれば賃金が上がる!」と主張しています。しかしそれは誤りです。まず賃金とは政府が決めるものではありません。企業の労働生産性や労働分配率、労働市場によって決まります。政府支出による公共投資はあくまで、需要不足や高失業率の対応策として、雇用を創出し、需要や雇用の不足の問題を解消するための政策です。つまり、公共投資は雇用を生み出す政策であり、賃金には無関係です。政府による給料給付は限界があるので、政府支出による賃上げはできません。

日本の賃金が低いのは事実です。一人当たりの名目賃金・実質賃金の推移を見れば、やはり他国と比べれば、他国では順調に賃上げができているが、日本の名目賃金・実質賃金は横ばいになっている。

一人当たり名目賃金・実質賃金の推移(1991年〜2020年)−内閣府より転載

賃金が低い理由は労働生産性と労働分配率の低さです。先程も言いましたが、賃金は労働生産性と労働分配率によって決まるものです。労働生産性の上昇により労働者 1 人が生み出す付加価値が増加すれば、労働分配率を一定とした場合、そ の付加価値の増加分の一部を労働者の賃金に分配されるため、労働生産性の上昇とともに、労働者の賃金は増加することになります。

賃金を上げるためには、労働生産性を拡大をするしかありません。昔は長時間労働や人口中心で依存していましたが、現在では労働時間や人口両方とも減少しています。経済協力開発機構(OECD)の2021年の調査によると、日本の労働時間は年間1607時間で、OECDの44カ国中、27位となっています。1791時間のアメリカやOECDの44カ国の平均労働時間を下回っています。

各国の労働時間−OECDより転載

昭和時代では2000時間以上の労働時間だったが、現在ではOECDの平均以下となっている。日本の人口に関しては、少子高齢化で人口減少が止まらず続いています。1億人以下の水準になるのは決して遠くありません。人口減少により労働不足が深刻化し、日本のGDPに大きく影響しています。今の労働時間や労働人口だけでは企業の利益は上げられません。
では、次に世界主要国の労働生産性を比べたグラフを見てみましょう。

労働生産性の国際比較(2019年)−総務省より転載

世界主要国と比べたら、日本の労働生産性は低いことがわかります。アメリカが13.3万ドルに対して、日本は7.6万ドルしかありません。
また、日本生産性本部によれば、2021年のOECD加盟国の中で日本の一人当たりの労働生産性はOECD加盟38カ国中29位でした。また時間当たりの労働性もOECD加盟38カ国中27位という結果になりました。

このように日本の労働生産性は低いことがわかり、日本の労働問題で重要な課題の一つです。

経済は人口と生産性によって決まります。人口を増加すれば、量的に経済が大きくなりますが、一人当たりの豊かさは大きくなりません。一方生産性が向上すれば一人一人の経済活動能力が上がって、一人当たりの豊かさは増えます。
日本は人口が減少し、労働生産性が低く、高齢化による社会保障の増加による保険料や税金の負担が増えています。日本は人口だけで経済を支えることができないので、労働生産性を向上する必要があります。

日本の労働生産性を向上させるには雇用流動性、規制改革、人材投資、研究投資、設備投資が必要です。日本経済が他国に追い抜かれるのは投資の少なさと規制の不公平、産業・企業移転の難しさです。
人材や研究に投資すれば労働者の技術力が上がりイノベーションが起こり労働生産性が上がります。例えば教育・研究機関の設備の投資(※教育無償化は論外)や職業訓練場の拡充、労働専門学校の拡充などです。
また、日本は規制が複雑で規制の数が大量です。その結果、企業の開発や調査が難しくなり、時間の遅れや資金の増加することにより、労働者の研究開発やイノベーションをするのが難しくなります。もちろん安全対策の為に適切で簡素的な法整備は必要ですが、日本の規制は単に多いだけで複雑です。
労働者が次の企業や産業の転職が難しいのも問題です。日本の転職状況は転職すれば、不利な条件で働かせる結果になります。また、日本は解雇が難しい国なので、企業が“窓際社員“の解雇や整理解雇をすることがでず、企業の生産性は上がることができません。それらの結果、企業は雇用のリスクを回避するために、採用や募集を慎重になり、様々な人材を雇用することができなくなるのです。

消費税と経済成長は関係ない

MMTを掲げる三橋・池戸系の人達は、歳出拡大による財政出動だけではなく、歳入削減による消費税減税を掲げています。彼らは「消費税を減税して経済成長を上げよう!」と主張をしています。しかし、それは全く的外れです。
消費税減税を主張する人はMMT系の人達だけではなく、与野党の一般的な政治家や評論家が「消費税減税」を唱えています。世界では170カ国以上の国が消費税(付加価値税)を導入しています。日本は1989(平成元)年に導入され、そして現在の消費税率は10%です。この税率は世界的に比べればとても低い水準です。

消費税(付加価値税)はフランスで初めて導入された以降、世界中で消費税(付加価値税)を導入していく国や地域が増加し、現在では170カ国以上が導入しています。世界中で消費税(付加価値税)が導入されていますが、それでも世界中のデータを見てみると、消費税関係なく経済成長や賃金が増加しております。そもそも消費税ぐらいで国内の需要が大きく変化しません。

また、「消費税減税で低所得者を救う!」と主張していますが、いくら消費税を減税したぐらいでは低所得者の救済にはなりません。低所得者は元々所得や経済活動能力が少なく、消費税減税をしても所得が最初からない低所得者は大した効果は得られません。低所得者を救うのなら所得税・社会保険料の引き下げて手取り金額を増やしたり、職業訓練所で労働教育を受け技術力を伸ばして、機会構築や経済活動能力を伸ばす方が、遥かに救済になります。ですので、「消費税減税をすれば経済成長する!」という幻想はやめるべきです。

無謀なバラマキはやめよう

日本の政府支出の内容は決して正しくありません。ほとんどの支出は高齢者福祉が中心的で、また生産性やイノベーションをまともにやらないゾンビ企業に対する浪費な補助金を出しています。日本のMMT系の評論家や政治家は乗数効果が低いにも関わらず公共投資や給付金の拡大を掲げています。

社会保障費の予算額は高齢化の影響のため、ずっと右肩上がりです。特に高齢者に対する予算の割合が1番大きいです。また、それと同時に社会保障への政府移転支出が増えたことにより社会保険料が増加しているため、現役労働者への家計が圧迫しています。そんな社会保障でも限界を迎え、社会保障を受けるメリットが徐々になくなっています。現在では現役労働者の人口が減少し、今生きる現役労働者で保険料や年金を支えるのは困難になり、接続ができななっています。将来的に今と同じ水準で社会保障を受けられるのはほぼ不可能です。こんな状況下で更に社会保障を削減せず維持し続けるのは理解に欠けます。

またゾンビ企業への補助金も問題になっています。「企業を支援して倒産を防ぐ!」とは良い発想に思えます。しかし、それは企業の利益が補助金頼りになっていまい、まともな生産性やイノベーションを行わないゾンビ企業が生まれることになります。大半の消費者に支持されず、本来なら倒産するはずだった企業が補助金によって生き返り、まともに市場競争に参加せず、国民の血税で飯を食うのはとても生産的ではありません。公共財なら理解できますが、公共財でもない企業しかもゾンビ企業に支援をするのはいかがなものかと思います。
自由市場が機能している欧米諸国や中国では、消費者に支持されず市場に負けた企業は倒産し、消費者から支持を得て市場競争に勝ったベンチャー企業が台頭し、更なる消費者獲得のためイノベーションを行います。特に福祉国家で有名なスウェーデンでは、倒産危機にあったボルボという自動車大手企業を一切助けず、市場経済から追い出しました。大手企業を倒産させた代わりに、新たな大手企業が台頭し、世界的なの企業まで成長させている。スウェーデンはバラマキ国の日本と違い市場競争で負けた弱い企業は救済しない路線をとっている。
また昔の日本でも、高度経済成長期を支えた自動車、ゲーム、家電製品、精密機械には補助金はほとんど出しておらず、逆に多額の補助金が出たソフトウェア、航空宇宙、化学は失敗に終わりました。このように政府支出による補助金はあんまり効果がないことがわかりました。

日本は政府支出で補助金をバラマキをしていますが、経済成長はしていませんし、賃金も増えていません。本来なら人材投資や研究開発投資、設備投資などの“生産的政府支出“をし、労働者の技術力を向上させ、労働生産性を高めなければなりませんが、日本は他国と比べれば生産的政府支出は少なく、老人福祉や補助金をばら撒いているだけです。日本は老人福祉費の自己負担を上げ削減し、補助金もカットすべきです。MMTを掲げる三橋・池戸系の人達は、今までのバラマキ支援や需要性がない公共投資をやめて、よく財政・市場・人口状況を把握し、民間の競争が妨げないように考慮して、しっかりとした財政政策を行うのが大切です。

以上。



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