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本棚の奥の「シリウス文書」⑤ 創作小説全6話

第一話はこちらから



パパとヨギー

グルテンフリーカフェBUddaでの会話は続く。
「見て感じている空間と言語と自我の作る空間、2つの世界を人間は持っている。感じる空間があった上でそこから言語が世界を作っていくのが本来の在り方だが、今の人間ははじめから最後まで言語と自我の世界しかないと思ってる。自分が生まれる前からも死んだあともな。」裕和は続ける。
「つまりTERUTERU、お前は言語の世界で生きていてその中の平面画面の更にその中の物語に入り込んでしまっているということだ。」
TERUTERUは目をパチクリさせた。

「人間の意識は素粒子で出来ている。無意識側がフェルミオン。物質側がボゾンだ。俺達のいる3次元は実は4次元の一部分だ。お前はヨガと瞑想をずっと続けてるからわかるだろう?主体である魂が焦点を合わせた世界に人々は自我を入れ込みそこで暮らしている。焦点を全体に合わせればもう4次元だ。それが素粒子構造だ。素粒子の中なんだよ。お前がこの記事のヘッダーに貼った画像を見てみろ。左の幾何学模様を花に例えれば、ひとひらの花びらが3次元の言語空間。花全体が4次元空間、そしてそれが素粒子だ。全て意識なんだ。素粒子なんだ。有名な二重スリット実験は観測者の意識が観測されているだけだ。観測者の意識が波となって現れている。または粒子となって現れている。意識は素粒子だからな。とんでもない誤解が起きているんだ。素粒子の中で素粒子を観測している気になっているだけだ。」
「証明は出来るのか?」
「今は出来ない。しかし、これを正規機関で発表することで研究者も増えるし発禁処分になったシリウス文書2013やファイル形式になった更新記録のシリウス文書を庶民のもとに取り戻すことが出来るはずだ。名も無き庶民が声を上げてアカデミズムをひっくり返すんだ。3次元の中に入り込んだ意識をさらにメタバースなんて疑似世界に入れ込んだこんな狂った世の中を終わらせねば。地下ネットワークで繋がった仲間も少なからずはいるんだ。」
TERUTERUは頭で困惑しながらも胸はドキドキと高鳴っていた。人間の自我はAIに乗っ取られ魂の存在まで忘れ去られようとしていた。AIやコンピュータ、メタバースの世界も3次元空間のさらにその中に作られた世界だ。
「素粒子革命か・・・」
「ああ、素粒子革命2039だ。」
裕和はニコリと笑う。
「科学や政治がこれを認めて研究が進めば無意識の世界、そこでの物質、元素生成、精神と物質の反復、現象化が全て明らかになっていく」
「フリーエネルギーか・・・」
「人類は漸く無駄な争いから手を引く時が来る。今俺達のいる瞬間は無意識の世界から現象化している。瞬間瞬間を生み出すとんでもないエネルギーが無意識側にあるということだ。ずっと人間が続けてきた奪い合いが終わるんだ。」
「出来るかな。」
「やるんだ。」
裕和は力強く拳を握る。
「魂は、霊の世界はある。それが素粒子なんだ。俺たち人間は素粒子の中で生きている。素粒子の中で死にながら生きていると言ってもいいくらいだ。そして素粒子自体なんだ。」
裕和の熱いエネルギーを浴びてTERUTERUは不思議なものを見るような包まれるような、逆に包み込むような感覚に襲われたが何も言わなかった。

「さあ、今日の夕刻、発表だ。
そろそろ行くか。わざわざ会いに来てくれてありがとう。お前と話が出来て嬉しかったよ。」
裕和とTERUTERUは力強く相手の手を握った。
お互いの身体の奥底にある魂を交差させるように。


次回最終回⑥つづく








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