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『ともぐい(著:河崎秋子)』〜『老人と海』×『ロッキー』×『血と骨』

※ネタバレします。

【内容】
明治の北海道を舞台に、猟師の熊爪と他所の領地からやってきた熊との対決を描いた第170回直木賞受賞作。


【感想】
この小説の印象は、以下のようなものでした。

『老人と海』(山版)×『ロッキーシリーズ』(人間vs熊)×『血と骨』(終盤展開)

要するに、老漁師と巨大な魚との壮絶な闘いを描いた『老人と海』のような孤独な男と獣との対決を軸に、ボクシング映画『ロッキー』シリーズのような逆境からの成長、そして『血と骨』のような人間の業を描いた作品でした。

無口な主人公である猟師は、広大な自然の中で、一匹の熊との死闘を繰り広げます。男臭く、力強い言葉で描かれたこの対決は、まさに『老人と海』のような孤独な男の闘いを彷彿とさせていると感じました。主人公のある種スポ漫画的な粘り強さと、初回の対戦で完膚なきまでやられた熊が目の前で別の熊に倒される展開など、ちょっとロッキーシリーズのような展開だと感じました。
こうした展開は、最近の少年漫画でよく見られる、主人公が目標としていた敵がより強大な敵に倒され、主人公が新たな目標へと向かうというパターンを想起させます。
そういえば、宮崎駿監督も『もののけ姫』の制作中に、このような物語の構造について言及していました。主人公が目標とする敵が、より強大な敵によって倒されるという展開は、物語に勢いをつけ、読者に更なる期待を与える効果があると言えるでしょう。

しかし、この小説の最も特徴的な点は、物語の後半にあります。熊との死闘を描いたロッキーシリーズのような展開の後、物語はスピンオフのように急転直下、予想外の展開を迎えます。それは、まるで近年の配信ドラマのように、物語が一気に蛇行していくような展開。特に、主人公が他の女性と関わるようになる様子は、小説『血と骨』で描かれた、主人公が強い女性に翻弄される様子を彷彿とさせます。
この現代的な要素が、この小説を単なる復古的な作品ではなく、新たな解釈を加えた作品へと昇華させているといった評価を受けたのだと感じました。

https://www.shinchosha.co.jp/book/355341/

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