共通テストで漏らすは恥だが役に立つ。涙が笑いに変わったあの日のこと〜我が家の受験の物語
寒い日にはあの日のことを思い出す。
Voicy音声配信でも是非お聴きください♪
去年の今頃は次男が大学共通テストの直前に毎日、
過敏性腸症候群でお腹の痛みに苦しんでいた。
我が家は今まで5回の受験を体験した。
長男の中学、高校、大学受験と
次男の高校、大学受験の5回。
長男と次男は3歳違いなので
コロナ禍ではW受験だった。
昨年は次男の最後の大学受験で冬になると、俄かに緊張感が漂い始めたが、私はあることを思い出していた。
心の奥深くに閉まっていたあの時のことを。
身体の芯で憶えているが消し去りたい記憶。
私は人生で一度だけ失禁したことがある。
それは忘れもしない18歳の寒い冬。当時の共通テスト、センター試験の数学の時間だった。
試験当日、私は極度の緊張に襲われていたものの、最初の科目の数学には一番自信があった。
それが2問目でつまづき、まさかと思考が停止した。
気づくと予想以上に時間を掛けてしまい時計を見て完全にペース配分を間違えたことに愕然とした。
すると人間の脳は不思議なものでドンドン追い詰まって働かなくなる。
更に指先が痺れてきて、尿意も強くなり耐え難くなっていき思考が朦朧としてきた。
最後の数問まで辿り着いた時には数分しか時間が残っていなかった。
目標の国立大学はある点数以上取らないと2次試験に進めない「足切り」ラインがあり1科目も落とせない。
どうしよう。
尿意も爆発しそうだ。
トイレに行く時間もない。
間に合わない間に合わない間に合わない。
どうしようやばいやばいどうしようどうしようやばいやばいやばい。
あっ!
はっ!と気づいた瞬間、私は全てを解放してしまっていた。
一瞬のできごとだった。
人生で初めておしっこを漏らしてしまった。
それも公共の場。
しかも人生で一番大事だと思っていた試験本番に。
何てことをしてしまった! と思ったが1問でも終わらせねばと集中することだけを意識した。
無理だった。
あえなく試験時間は終わった。
最後の数問は間に合わなかった。
休憩時、濡れた椅子を周囲に悟られぬようティッシュで拭き、個室トイレに駆け込み、パンツを脱ぎ、ハンカチにくるみ、ポケットに入れて、顔面蒼白のまま試験会場に戻った。
まさかのノーパン受験である。
その後の科目は開き直ったからか、焦ることなく試験を終えることができたが正直家に着くまでの記憶がない。
家に着いた時に私はすさまじい喪失感に覆われていた。
母に気づかれないようにパンツをすすいで服と服の間に挟んで洗濯機に入れたことを覚えている。
「どうだった?」と母に聴かれた時に思わず涙が溢れそうになり「ま、まあ」と俯いて外に出て
ひとしきり泣いた。
人生であんなに泣いたことはないくらいに。
これが私の人生唯一の失禁体験である。
その後足切りは逃れたものの目標の国立大に落ちて、唯一受かった私大に入った。
この経験には後日談がある。
9年前、私の長男が中学受験に臨んだ時のことだ。
彼が夢見ていた学校への1校受験で極度の緊張だったと思う。
そして試験本番に何の因果か算数でつまづき大誤算の失敗をした。
合格発表日、私と妻は長男の志望校への想いからどうにか受かっていて欲しいと祈っていた。
彼が学校から帰る前にWEB通知が来て2人でおそるおそるパソコンを開いた。
彼の受験番号は無かった。
妻は黙ったままぽろぽろと涙し、私も妻を慰めているうちに涙が溢れた。
長男には自身で見たいから結果は言わないで欲しいと言われていた。
妻は泣き腫らした顔を見せまいと化粧し直して表情を繕おうとしていた。
彼が帰ってきた。
一直線にパソコンの前に座り結果通知を開いた。
自分の番号を探そうと食い入るように画面を見て「やっぱり駄目だった」と小声で呟いた。
必死に現実を受け止めようとしている長男の表情を見て胸が詰まった。
それからまもなく、学校から帰ってきた次男が明るさいっぱいに「どうだった!?」と飛び込んできた。
首を振った妻の姿を見て彼は今にも泣きそうな表情で俯いた。
暫く沈黙が続いた後、私は大学の試験本番におしっこを漏らした話をし始めた。
最初、長男はこわばった表情のまま私を見ていた。
でも私はできるだけ明るく話して
最後に「パパもまさかノーパンで受験すると思わなかったけどな!」といったら長男は初めてぷっと噴き出すように笑った。
その後「どうしても行きたい大学だったけど、もしその大学に行ってたらママには会えてなかった。お前たちも生まれてなかったんだよ」という話をした。
「だから今思うとパパはおしっこ漏らして本当に良かった。〇〇(息子の名)も今、凄く悔しくて辛いと思うけど人生何が自分にとって財産になるかわからない。この1年の頑張りは絶対に活きてくる。本当によく頑張ったよ!」と伝えると
「うん」と彼は涙を浮かべて頷いた。
その時、小学3年の次男が「なんでパパがママと出会わないと僕たちは生まれなかったの? ママのお腹から生まれるから関係ないじゃん」とぽつりと呟いた。
長男はにやりと笑った。
私は「それはまた今度ね」とごまかした。
妻も泣きながら笑った。
その夜、妻が用意していた焼き肉を皆で言葉少なに食べた情景が心に残っている。
なぜ今更この話をしたくなったか私にはよくわからない。
ただ打ち明け話をすることによって普段は抑えている感情が解放され成仏される感覚がある。
恥ずかしさを超えてスッキリと楽になった。
長い間、受験で漏らしたことはトラウマだったけどあの時咄嗟に長男を笑わせる話題となったのだから、今では本当に良かったと心から思う。
それから5年が経ち、今から4年前にまた試練の年がやってきた。
しかも長男が大学受験、次男が高校受験というコロナと共に迎えるW受験だった。
長男は第一志望に受かり、次男は受からなかった。
次男は過敏性腸症候群で苦しんでいた。
お腹が痛くてトイレから5時間出れない日も続いた。
試験本番に2度受けれなかった。
繊細なのは親譲りかもしれない。
パパに似ちゃってごめん。
心で何度もそう呟いた。
でも彼は弱音を吐かなかった。
最後まで諦めなかった。
この年、妻はよく泣いた。
でも受験はいつか終わる。
やがて春になった。
家族一緒に乗り越えた。
次男は病欠の追加試験で受かった高校に行った。
でも、1学期でやはり過敏性腸症候群で通えなくなり、その高校を辞め、オンライン授業の高校に通って、昨年に次男の大学受験に臨んだ。
でも、どうなろうとも人生万事塞翁が馬。
受験で成功しようが失敗しようが人生にどう作用するかなんてわからない。
我が家最後の受験で決めたことはただひとつ。
ただ息子から溢れるすべての感情を
ぜんぶ丸ごと受け止める。
それだけを思っていた。
そして、次男は第二志望の大学に受かり、
我が家の9年に渡る受験は終わった。
受験生の皆さん、
支える親御さん、
寒くて辛い日があると思います。
泣きたいくらい辛い夜も。
でも、家族で包む愛さえあれば
きっと誰にも春が来る。
そう信じています。
寒い日々が続きますので体と心をあったかくして
ファイティン!
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