マガジンのカバー画像

おはなし

11
おはなしです。私抜きで創作はできないと、グザヴィエドランさんが言っていました。じゃあこれは、私です。
運営しているクリエイター

記事一覧

動けなくなっちゃってさ

都内ラジオブース。中年の男性タレント、中年の男性作家が向かい合わせで座っている。作家は相槌も担っているから、2人ともマイクが入っている。男性タレントが口を開く。

タ「ほら僕、前別れたでしょ?あー、知らない方に一応言うと、先月にね、離婚をしまして。これが見事なね、不和離婚。」

作「wwww」

タ「おい、笑いすぎだって笑笑」

タ「まあそれで、妻はもう家を出てるので1人でこう、広い部屋に住んでま

もっとみる
ばらんす

ばらんす

〈女がベンチで寝ている。一人の駅員がツカツカと音を立てて女に近づく。〉
駅員「お客さん、お客さん」
〈女、全く起きない。〉
駅員「お客さん!お客さん!」
〈女それでも起きない。〉
駅員「お客さん、もう終電終わってますよ!」
女 「うるせえ〜!」
駅員「うるせえって、ちょっと困りますって、おきてください」
女 「きしょいんだよハゲ!!」
〈女、立ち上がって駅員に絡む。〉
女 「あ?ほら、おい、ハゲ!

もっとみる

青の時間の中で

晴れている。青色のハチマキを巻いた男子高校生が3人(正面から3人に正対して見て右にこうちゃん、真ん中に谷崎、左にいっちー)、並んでいる。3人の足には同じ濃さの青色をした紐が結ばれている。土のグラウンド。一周が200メートル程のトラックを作ることができる広さがある。
周りにはまばらに人がいるが、3人は、今ここには自分たち3人しかいないと、無意識に感じている。
3人は、真っ直ぐ立てば、60メートルほど

もっとみる
便利と窮屈に押されて

便利と窮屈に押されて

 私はいつも、丁寧に首を動かす。自由に気のまま動かすわけにはいかない、そういう「時代」であるからだ。
 新しい機種のスマホが生まれる度、「またたいそうなものができたなぁ。」と何度も感心してきたが、このネッコンなんて技術は、どの時の感動も遥かに超えてきた。右に首を動かせば、様々なアプリを表示したあの「スマホ」の画面がそのまま目の前に出てくる。人はやはり変化を嫌う生物だ。使い慣れたあの画面をということ

もっとみる
ゴドマストールの生、せい

ゴドマストールの生、せい

 人間がもつアンテナは大まかに5つほどだと言う。目と、耳と、鼻と、舌と、肌にあるらしい。でもなぜか人間は、5つも持っているくせに人間は、自分の内側には鈍感である。ワキガは人に言われないと気付かないし、過労死する人だっている。
 ゴドマストールは、誰の体の中にも住んでいる。(便宜上、この文章の中ではゴドマストールと呼ぶが、それは私の中にいるその生物につけた名前であって、他の人の中にいるその生物はオリ

もっとみる
風の通り道

風の通り道

登場人物 
都立高校、3年1組の教室、朝

相田優子が1人、座っている。
首を左に向けて、窓の外を見ている。



亜美が入ってくる。優子を一回見る。自席に荷物を置いて、同じドアから出ていく。

少しして、圭一郎と智幸が、会話しながら入ってくる。真ん中あたりの椅子に圭一郎が座り、智幸はその右隣の椅子に座る。圭一郎は智幸の方を向いている。智幸は前を向いて、首だけを圭一郎に向ける。

すぐ後を先生が

もっとみる
休日午前10時のアラーム

休日午前10時のアラーム

「ぺけぺけぺけぺけ、ぺけぺけぺけぺけ」
頭の上あたりで目覚ましのアラームが鳴った。手を伸ばして止める。メガネを取ろうとしたら、誰かが先に取って行った。目をこすって見てみると、メガネをした私が立ち上がって伸びをしている。私は戸惑いもせず、横たわって見た。
 彼女は部屋を出て、洗面所に向かって顔を洗い、コンタクトをつけて、トイレを済ませたようだ。音がするから、わかる。台所へ行って、バナナと牛乳をすりつ

もっとみる
登校

登校

正樹「あの線を越えたら天国だとして、お前は行く?」
優也「行くかな。どうだろう。」
正樹「俺は行く。」
優也「どうして?」
正樹「天国っていいとこらしい。」
優也「僕もそう聞いてるけど、わざわざ行くようなとこかな。」
正樹「例えば、ソーダとコーラがあって、お前はどっちを選ぶ?」
優也「ソーダ。」
正樹「わざわざ選ぶようなものかな。」
優也「ほほう。」
正樹「例えば、お母さんとお父さんがいて、お前は

もっとみる
インマニエルエマニエル今煮える 改

インマニエルエマニエル今煮える 改

女「私、貧乏性で、目的の駅で降りるのと、一駅前で降りるのとで、交通費が変わるなら、一駅前で降りて歩くんですよ。」
男「はあ。誰でもそうするんじゃないですか。」
女「違うんです。絶対にそうするんです。疲れていても、次の予定に遅れていても、そうしなければならないような気持ちになって、絶対にそうするんです。」
男「なるほど。」
女「バイト先から家に帰ってくる時がちょうどそれで。いつも2キロくらい歩いて。

もっとみる
冬と蜂蜜

冬と蜂蜜

アキの部屋。ひとり暮らしにちょうどいい部屋。1K、6.4畳。窓は空いている。
アキとマナが、無造作にひかれた布団の上に横たわっている。長辺に垂直に寝転んでいる。布団の短辺に平行な位置にある窓のほうを見ている。窓側から、アキ、マナの順。アキは毛布を丸めて枕のように使っている。アキは仰向けで、首だけを窓に向け、マナは体ごと窓に向いている。

アキ「青いね、空。」
マナ「あー青いかも。」
アキ「なんかさ

もっとみる
こんにちは

こんにちは

夕方。部屋は暗いので、薄明るい空が窓の外に見える。シングルベッドの上、窓側から亜希、春子の順で寝転がっている。亜希の右腕に春子が頭を乗せている。二人とも左を向いて、窓の方を向いている。

亜希「イングロリアスバスターズでさ。」
春子「この前見たやつ?」
亜希「そう。ブラピのやつ。」
春子「うん。」
亜希「あの悪い奴のさ、おでこのところに、ブラピが、ナイフでハーケンクロイツ彫るでしょ?」
春子「うん

もっとみる