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ゴドマストールの生、せい

 人間がもつアンテナは大まかに5つほどだと言う。目と、耳と、鼻と、舌と、肌にあるらしい。でもなぜか人間は、5つも持っているくせに人間は、自分の内側には鈍感である。ワキガは人に言われないと気付かないし、過労死する人だっている。
 ゴドマストールは、誰の体の中にも住んでいる。(便宜上、この文章の中ではゴドマストールと呼ぶが、それは私の中にいるその生物につけた名前であって、他の人の中にいるその生物はオリャンタイタンボであるかもしれないし、金次郎であるかもしれない。)ゴドマストールはまるで人間のように、一匹一匹全く違う。姉の中にいるゴドマストールと友人の中にいるゴドマストールは、姉と友人が違うように、違うのである。しかし、私たちが人間である故に、ゴドマストールに気づく人は100人に1人程度らしい。私はゴドマストールに気づく1%の人間のうちのひとりである。
 ゴドマストールは透けているが、あるとわかる程度には濃い色をしている。人間やその他の生物のように、その種としての身体の作りの、スタンダードな形というのを持っていない。ある人は自分のは丸だというし、またある人は、自分のは星形だという。私の中にいるゴドマストールは、自由に形を変える。時には粒子となって鼻をツーンとさせるし、ある時は信号となって気をおかしくさせる。あるいは虫となって全身を這いずり、かゆくさせる。ゴドマストールは突然暴れ出す。緊張が解けた時、恋人とうまく関われない時、充実感を抱いて布団に入った時、暴れ出すタイミングは大体この辺りであることはわかっている。それと、ゴドマストールは記憶力がいいようで、以前暴れた場所を覚えている。新宿駅東口から徒歩9分の劇場の裏口、バイト先の洗い場、救急車の中、以前暴れた場所はそのくらい。そこに近づけば、暴れ出す。
 ゴドマストールは喋れないから、人を困らせることでしか意思表示できない。赤ん坊のようなもので、本人に悪気はない。それでも、1%の人間のその生を幾ばくか阻害しているのだから、許されないはずである。ゴドマストールはなぜいるのか、私にとって明日の夕飯より気になるが、それは1%の人間たちにしか許されない詮索なので、分かるのは何年先も先になるだろうと思う。



(フランツ・カフカ「家父の気がかり」を元にして。)

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いつか
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