シェア
ツドナ
2024年4月11日 08:43
2024/04/10 水なんて、何にもなれないじゃないか。どんな形にでもなれるという水のように、僕は柔軟に生きてきた。どんな器にだって収まってみせた。しかしどうだ、僕はどうなった。いいように使われて、何者にもなれていないじゃないか。水なんて何よりも柔らかいだけで決まった形なんて持てず、ただ無力に流れることしかできないんだ。 湯気の中をくぐって湯船に浸かる。その温かさにため息が出る。なんとな
2024年3月26日 13:37
2024/03/25 君に染まりたかった。でも僕は透明じゃなかった。君の鮮やかな色は僕の淡い色と混ざると汚くなる。汚してしまうんだ。一緒にはいられない。 吐き気と耳鳴り。布団を被って膝を抱える。脳にこびりついた君の姿と、声と、香りと。忘れたいのに忘れたくない。全て抱きしめて沈んでしまいたい。固く目を瞑って、眠ろうとする。頭がクラクラする。 ああ、君のものにしてほしかった。君が離さなければ僕
2023年12月25日 17:00
2023/12/24「調子に乗ってホールケーキ買っちゃったけど、二人で食べきれるかなあ」 「……」 「まあなんとかなるっしょ。ねえ、電気消してよ」 「……うん」 「よし、じゃあ火つけまーす」 「……あの」 「なに」 「せっかくでっかいホールケーキ買ってきて、珈琲も淹れて、ろうそくも用意して、準備してくれたところ悪いんだけどさ」 「なんだよ」 「さっきカップ麺食べたからあんま食
2023年12月24日 20:10
2023/12/23 さっきまで気持ちよく晴れていたのに、急に分厚い雲が空を覆った。しかし家に傘を取りに帰っていたら乗らなきゃいけない電車を逃してしまいそうで、仕方なくこのまま待ち合わせ場所に向かうことにした。間に合うギリギリの時間に出たことを後悔する。 黒い空は今にも雨を降らしそうで、銃口を突きつけられているような不快感を覚えた。もっとも実際に銃口を突きつけられた経験などないが。 し
2023年12月23日 17:00
2023/12/22 雪は生きている。……らしい。寒くなると小さな白い生き物が積もる程大量に降ってくるなんて、とてもじゃないが信じられない。しかし友人は胸を張って雪は生き物だと言うのだ。僕はそれを嘘だと突っぱねられないでいた。なんせ僕は雪を見たことがない。 目を覚まして枕元のスマホを手に取ると、友人からラインが来ていた。 『外出てみろ 雪だぞ』 僕は布団から這い出てダウンジャケットを
2023年12月21日 17:00
2023/12/20「心が死ぬ時っていつだと思う?」 「体が死んだ時かな」 「ロマンがないなぁー」 「はいはい悪かったねロマンに欠けて」 「私は、心が死ぬのは音楽を楽しめなくなった時だと思うの」 「それは君が特別音楽が好きだからじゃないか? ロマンの有無は僕には判断しかねるけど、普遍性がないね。却下」 「待て待て解説を聞いてくれよ。あのね、音楽ってのはただの音じゃないんだ。音楽には
2023年12月20日 17:00
2023/12/19 誰しも苦い思い出の一つや二つを持っているだろう。例に漏れず僕も持っている。苦くてたまらない。 棒の先を液に浸らせて、反対側を咥える。ゆっくりと丁寧に息を吹き込んで、大きなシャボン玉を作る。シャボン玉は棒を離れて宙に浮かんだ。ふわふわと漂う。僕はその球の中に、昨日の出来事を描いてみた。電車で乗り過ごして知らない場所に行ってしまった少し苦い思い出。細かく思い出してしまって
2023年12月19日 17:00
2023/12/18「笑う門にはなんとやらって言うだろ?」 「『福来る』な」 「んなことわかってんだよ。で、実際には笑ったからといって福が舞い降りる訳ではないじゃん。たまたまいいことが起こったなんてのはあるかもしれないけど、直接的な因果関係はないよな」 「笑って気分が良くなったことを福として捉えればいいんじゃない?」 「ロマンがない」 「別にいいだろうがよそれで幸せなら。じゃあ君は何
2023年12月16日 21:00
2023/12/15 自分の部屋で仰向けになる。大の字に手足を広げて、ひたすら天井を眺める。今僕にできることはこれだけだ。 酷い吐き気によって動こうにも動けないので、このまま時間が過ぎるのを待つことにした。とはいえ暇だ。空想にふけろう。白い天井をキャンバスにして、空を描いてみる。「空」想だけにね。 ああ、いい天気だ。青い空に雲が浮かんでいる。雲は柔らかいんだろうか。触り心地がかなり気に
2023年12月8日 17:00
2023/12/07 人差し指の第二関節でボタンを押して、待つ。四階から降りてきたエレベーターに、乗る。鏡で軽く前髪を整えてから壁にもたれかかる。エレベーターが動き出した。 僕はこの中でいつも、エレベーターから出た時に何に出くわしたら一番怖いかを考える。熊だろうか、殺人鬼だろうか。殺人鬼だとしたら、持っているものはナイフがいいかチェーンソーがいいか。そうやって時間を潰す。毎回出る結論はこう
2023年12月17日 17:00
2023/12/16「全てが思い通りにいったらつまらない、思い通りにいかないことがある方が面白い、ってよく言うじゃん」 「まあ、よく言うね。僕にはかなり無理がある理論に思えるけど」 「そう、そうなんだよ。無理があるんだよ。だって思い通りにいった方が面白いに決まってるじゃん。『こうだったら面白いな』って思ったことがその通りになるんならそうに越したことないんだから」 「んー、同感なんだけどさ
2023年12月15日 17:00
2023/12/14 棒アイスを食べた。残った木の棒を念入りに見て、「あたり」の文字がないことを確認する。よかった、ない。このアイスははずれだ。 僕は木の棒に、マッキーで自分の名前を書く。できるだけ丁寧に、綺麗に書く。なかなかいい出来だ。 近所の公園に出掛ける。かなりでかい公園で、中に森がある。僕はそこに分け入り、人目に付かない場所にしゃがみ込んだ。土を集めて盛る。小さな丘ができた。そ
2023年12月14日 17:00
2023/12/13 以前よりも嫌いなものが増えた。それはおそらく単に年を重ねたからではない。理由は見当がついている。 朝食を食べる。ご飯ではなくパンだ。ある時からパンに変えた。ご飯が嫌いになったんだ。君がご飯を嫌いだったから。 家を出る。雨が降っているので傘を差した。じめじめとした空気の中、歩きだす。僕は雨が嫌いだ。君が嫌いだったから。 バス停に着いて、バスを待つ。朝の通勤の時間
2023年12月13日 18:30
2023/12/12 段ボールから「にゃあ」と声が聞こえる。道端に捨てられた猫。漫画の中でなら何度も見たことがあるが、現実世界で出くわすのは初めてだ。 まだ仔猫なのだろうか。この角度からは見えないほどに小さい。それでも必死に鳴き声を上げて、その存在を周りに知らせようとしている。 僕は辺りを見回す。飼い主のような人も、拾ってくれそうな人も見当たらない。ここには僕と仔猫しかいない。 こ