ツドナ
日記をまとめたものです。
2024/04/10 水なんて、何にもなれないじゃないか。どんな形にでもなれるという水のように、僕は柔軟に生きてきた。どんな器にだって収まってみせた。しかしどうだ、僕はどうなった。いいように使われて、何者にもなれていないじゃないか。水なんて何よりも柔らかいだけで決まった形なんて持てず、ただ無力に流れることしかできないんだ。 湯気の中をくぐって湯船に浸かる。その温かさにため息が出る。なんとなく手のひらを見る。昔、これは幸運を掴む手相なんだって言われたんだけどな。おかしい
2024/03/25 君に染まりたかった。でも僕は透明じゃなかった。君の鮮やかな色は僕の淡い色と混ざると汚くなる。汚してしまうんだ。一緒にはいられない。 吐き気と耳鳴り。布団を被って膝を抱える。脳にこびりついた君の姿と、声と、香りと。忘れたいのに忘れたくない。全て抱きしめて沈んでしまいたい。固く目を瞑って、眠ろうとする。頭がクラクラする。 ああ、君のものにしてほしかった。君が離さなければ僕は気づかなかった。簡単に染まれた。僕らは混ざり合えない。でも混ざった気ではいられ
2024/01/24 雪が降つている 大口を開けると、 いくらか冷たいのが舞い込んできた ああ、雪だ 薄目で見たら埃にしか見えないような そんな下らない粒だが、 嬉嬉としてはしゃぎ回つていた あの時に降つていたものは 確かにこれだ 手のひらを空に向ける 寒さが肌を焼き、 雪がそれに塩を塗る 純粋な気持ちで雪に触れていた 小さな私はもういない 大人になつたと言えば聞こえはいいが、 どうにも 何かを失つたような気がしてならない 私は傘を差した
2023/12/25 僕にサンタさんは来なかった。
2023/12/24 「調子に乗ってホールケーキ買っちゃったけど、二人で食べきれるかなあ」 「……」 「まあなんとかなるっしょ。ねえ、電気消してよ」 「……うん」 「よし、じゃあ火つけまーす」 「……あの」 「なに」 「せっかくでっかいホールケーキ買ってきて、珈琲も淹れて、ろうそくも用意して、準備してくれたところ悪いんだけどさ」 「なんだよ」 「さっきカップ麺食べたからあんま食えそうにない」 「は?」 「いやまじでごめん、僕たち金ないし、ケーキ買ってく
2023/12/23 さっきまで気持ちよく晴れていたのに、急に分厚い雲が空を覆った。しかし家に傘を取りに帰っていたら乗らなきゃいけない電車を逃してしまいそうで、仕方なくこのまま待ち合わせ場所に向かうことにした。間に合うギリギリの時間に出たことを後悔する。 黒い空は今にも雨を降らしそうで、銃口を突きつけられているような不快感を覚えた。もっとも実際に銃口を突きつけられた経験などないが。 しばらく電車に揺られ、目的地に着いて時計を見ると、約束の時間まであと数分猶予があっ
2023/12/22 雪は生きている。……らしい。寒くなると小さな白い生き物が積もる程大量に降ってくるなんて、とてもじゃないが信じられない。しかし友人は胸を張って雪は生き物だと言うのだ。僕はそれを嘘だと突っぱねられないでいた。なんせ僕は雪を見たことがない。 目を覚まして枕元のスマホを手に取ると、友人からラインが来ていた。 『外出てみろ 雪だぞ』 僕は布団から這い出てダウンジャケットを羽織り、玄関の扉を開ける。その先には、真っ白な世界が広がっていた。見慣れたはずの
2023/12/21 ねえ、どうしよう。何にも書きたくないよ。気力がないよ。 なんでかな。今朝遅刻しそうになって本気で走ったからかな。その疲れが出たのかな。走ったのに結局遅刻したからかな。 ああ、なんてことだ。少しも力が湧かない。なんとかして「いつもと同じ」をなぞっているけれど、かなり限界。早く寝たい。とにかく早く寝たい。早く寝かせてほしい。 とはいえ、こんな適当な文章では読んでくれている人に失礼だろう。失礼っていうか、読んでて面白くないよね。 仕方ない。
2023/12/20 「心が死ぬ時っていつだと思う?」 「体が死んだ時かな」 「ロマンがないなぁー」 「はいはい悪かったねロマンに欠けて」 「私は、心が死ぬのは音楽を楽しめなくなった時だと思うの」 「それは君が特別音楽が好きだからじゃないか? ロマンの有無は僕には判断しかねるけど、普遍性がないね。却下」 「待て待て解説を聞いてくれよ。あのね、音楽ってのはただの音じゃないんだ。音楽には必ず暗いとか明るいとかいう印象が付いてきて、映像を伴うんだ」 「映像……?」
2023/12/19 誰しも苦い思い出の一つや二つを持っているだろう。例に漏れず僕も持っている。苦くてたまらない。 棒の先を液に浸らせて、反対側を咥える。ゆっくりと丁寧に息を吹き込んで、大きなシャボン玉を作る。シャボン玉は棒を離れて宙に浮かんだ。ふわふわと漂う。僕はその球の中に、昨日の出来事を描いてみた。電車で乗り過ごして知らない場所に行ってしまった少し苦い思い出。細かく思い出してしまって、ため息が出る。しかしシャボン玉がパッと割れた時、その苦い気持ちは消え去ったよう
2023/12/18 「笑う門にはなんとやらって言うだろ?」 「『福来る』な」 「んなことわかってんだよ。で、実際には笑ったからといって福が舞い降りる訳ではないじゃん。たまたまいいことが起こったなんてのはあるかもしれないけど、直接的な因果関係はないよな」 「笑って気分が良くなったことを福として捉えればいいんじゃない?」 「ロマンがない」 「別にいいだろうがよそれで幸せなら。じゃあ君は何が言いたいの」 「笑ったらその度にちゃんと福が欲しい」 「はー、なんとわがま
2023/12/17 全てが意味のないことのように思えた。きっとまた気のせいだ。きっとまた、世界の楽しさを思い出して、この暗い気分は見えなくなるんだ。でも、今こうして苦しさに呑み込まれているのは確かで、「近いうちに元通りになるから大丈夫」なんて思えたとしても気が楽になる訳ではない。 じゃあ、どうするのか。どうすれば安心して眠りにつくことができるのか。今日に満足して明日に期待するには、何をすればいいのか。正直に言おう。全然わからない。 身体的な睡眠欲はある。でも、眠
2023/12/16 「全てが思い通りにいったらつまらない、思い通りにいかないことがある方が面白い、ってよく言うじゃん」 「まあ、よく言うね。僕にはかなり無理がある理論に思えるけど」 「そう、そうなんだよ。無理があるんだよ。だって思い通りにいった方が面白いに決まってるじゃん。『こうだったら面白いな』って思ったことがその通りになるんならそうに越したことないんだから」 「んー、同感なんだけどさ、なんで急にそんなことを話し出すの。今の今まで昼飯どうするかって話をしてたじゃん
2023/12/15 自分の部屋で仰向けになる。大の字に手足を広げて、ひたすら天井を眺める。今僕にできることはこれだけだ。 酷い吐き気によって動こうにも動けないので、このまま時間が過ぎるのを待つことにした。とはいえ暇だ。空想にふけろう。白い天井をキャンバスにして、空を描いてみる。「空」想だけにね。 ああ、いい天気だ。青い空に雲が浮かんでいる。雲は柔らかいんだろうか。触り心地がかなり気になる。僕は手を伸ばす。雲に触れたらいいのにな。なんて思っていると、白い塊が僕の顔
2023/12/14 棒アイスを食べた。残った木の棒を念入りに見て、「あたり」の文字がないことを確認する。よかった、ない。このアイスははずれだ。 僕は木の棒に、マッキーで自分の名前を書く。できるだけ丁寧に、綺麗に書く。なかなかいい出来だ。 近所の公園に出掛ける。かなりでかい公園で、中に森がある。僕はそこに分け入り、人目に付かない場所にしゃがみ込んだ。土を集めて盛る。小さな丘ができた。それに、さっきの棒を刺す。 僕はここに、僕の片割れを埋めていくことにした。いわ
2023/12/13 以前よりも嫌いなものが増えた。それはおそらく単に年を重ねたからではない。理由は見当がついている。 朝食を食べる。ご飯ではなくパンだ。ある時からパンに変えた。ご飯が嫌いになったんだ。君がご飯を嫌いだったから。 家を出る。雨が降っているので傘を差した。じめじめとした空気の中、歩きだす。僕は雨が嫌いだ。君が嫌いだったから。 バス停に着いて、バスを待つ。朝の通勤の時間帯だからか、どんどんと人が並び始める。二分後、バスが来たので乗り込む。人がぎゅう