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雪を踏む

2023/12/22

 雪は生きている。……らしい。寒くなると小さな白い生き物が積もる程大量に降ってくるなんて、とてもじゃないが信じられない。しかし友人は胸を張って雪は生き物だと言うのだ。僕はそれを嘘だと突っぱねられないでいた。なんせ僕は雪を見たことがない。
 目を覚まして枕元のスマホを手に取ると、友人からラインが来ていた。
『外出てみろ 雪だぞ』
 僕は布団から這い出てダウンジャケットを羽織り、玄関の扉を開ける。その先には、真っ白な世界が広がっていた。見慣れたはずの景色が、積もった雪で全く違うものに見える。そしてこれらが全て、生き物。
 外に出てみようとするが、どうも躊躇われる。どうにも一歩が踏み出せない。
「おじさんなにしてるの?」
 家の前の道路に、ランドセルを背負った女の子が立っていた。
「初めて雪を見るもんだから、びっくりしてて」
「……へんなの」
 まあそうだよな。普通は雪なんてありふれたものだもんな。
「おじさんも歩いてみなよ、雪の上。ぎゅむぎゅむして面白いよ」
「ぎゅむぎゅむ……」
「ほら、踏んでみなって」
 ええい、ままよ。僕は右足で雪を踏む。ぎゅむ、と沈む。その感覚は確かに、生き物を殺したような手ごたえがあった。雪が生き物なのだとしたら僕は今、いったいいくつの命を踏んだんだろう。恐ろしくって体が震えた。
「震えてる。寒いの? あたしのカイロあげる」
 投げられたカイロは僕の目の前に落ちた。左足でまた雪を踏んで、手を伸ばしてカイロを拾う。
「じゃあね」
 少女は雪を踏みしめて、平然とした顔で歩いていった。

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