開けばそこに
2023/12/07
人差し指の第二関節でボタンを押して、待つ。四階から降りてきたエレベーターに、乗る。鏡で軽く前髪を整えてから壁にもたれかかる。エレベーターが動き出した。
僕はこの中でいつも、エレベーターから出た時に何に出くわしたら一番怖いかを考える。熊だろうか、殺人鬼だろうか。殺人鬼だとしたら、持っているものはナイフがいいかチェーンソーがいいか。そうやって時間を潰す。毎回出る結論はこうだ。一番怖いのは、見たことのないもの。
人よりも大きいといいだろう。足が必要以上に多いといいだろう。真っ黒な体をしているといいだろう。目が複数あって、毒々しい赤色をしているといいだろう。得体のしれない液体が滴っているといいだろう。この世の理の外にあるもの。結局それが一番の恐怖を生む。
僕は壁から離れて、身構える。
「ドアが開きます」
重そうなドアが、ゆっくりと開き始める。
「八階です」
目に入ったのは黒い、大きな何か。毛むくじゃらで、足が四本ある。
「なーんだ熊か」
僕は胸をなでおろした。
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