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日記;父母覚書

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脳内出血で倒れた父と認知症の母。もう亡くなりましたが、日記にしたためていたメモを公開
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懐古_冬

懐古_冬

今思えば、何たる無謀!

アイゼンなど履かず、祖父もわたしも兄も

雪山を登ったのだ。

前に書いたっけ。

「ほら、じーちゃんのベルトに掴まれ」と、

足元滑り何度も雪ん子になるわたしに

祖父は、ズボンのベルトを外し、先っぽを持たせた。

「絶対に離さないからな」と

祖父の言葉。

「うん!」と、安堵してベルトに捕まり山道登る。

途中、下山する集団に

「小さいお孫さん連れで、この道は無理

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林檎を絞る祖母

林檎を絞る祖母

風邪を引いたなら、祖母が林檎をその萎れた小さな手で、おろし金で絞り、

日本手ぬぐいだか、キレイな布巾だかに、絞り絞り、最後の芯付近まで絞り、

その後、ぎゅっと布を巾着状にまとめ、林檎ジュースを作って飲ませてくれた。

ふと、今日、いや、もう昨日。

食欲不振、発熱した家族にと、果物売り場を物色。

林檎は高かった。

で、林檎百%なるジュースが今は在るのだった。うんと楽で、うんと安い。

栄養

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父母生前覚書

父母生前覚書

実際のところ夏を越したらもう無理だろうと覚悟していました。

主治医曰く

「全く嚥下が出来ません。機能的には出来る筈なのですが、それが出来なくなっていますので、点滴のみに頼っている状態。胃ロウか、喉切開で栄養摂取するかという

選択、或いは、このまま自然に任せるという選択、どちらかでしょう。

手術は・・正直進められません、お母さんの体力がもたないでしょう」

退院前、そう言われました。決断しな

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湖畔

湖畔

_亡き義父母の会話_

湖畔の宿・・往年の大女優(私は盛りを知らないのですが〉高峰三枝子様が、歌われたとか。

当時、舅が、「俺は、この人が好きだ」と・・つい、無用心に呟いた事がありまして、

そう、高峰三枝子様は、年齢に似合わず、豊満な胸をお持ちで、入浴シーンなど、CMを観たような♪

姑が、怜悧な標準語で、一言(姑は東京下町生まれですw〉

「あら、貴女は、こんな女性がお好みでしたか。悪う御座

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父の手/生前覚書

父の手/生前覚書

母が食べ物をこぼすと、早朝、父より電話あり。

母に似合うエプロン(涎掛け)を持参せよとの指示にて、

何とか、好きそうな赤い小花模様の

ビニール状エプロンを選ぶ。

大層、似合った。母、鏡観て微笑む。

昼食時、ホームの介護主任さんに、外すよう言われる。

「専用のエプロンを皆つけていますから」と。

父、激怒。

「此処はルールルールか!持って来たモノを付けさせぬとはどういう事か!」

すっ

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入院中のメモ

入院中のメモ

「白い三角巾はあまりに病人っぽい」と・・娘が100均で購入したというバンダナを二枚縫い、

それはそれは素敵なonly1の三角巾を持って来てくれる。

夜、消灯時間のあとは長い。

緊急病棟ゆえに痛みを訴える方、術後の方、重篤な方多し。

一番好きな77歳のご婦人。夜中に「たすけてください。もう痛いのは厭です。

自尊心を粉々に壊されるのも厭!

何故?何故、あの方達は意地悪するのでしょうか。

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いつもの石段:秋

いつもの石段:秋

もう少し、色付いているでしょうか。

うらぶれ荒み絶望という、またぞろ私の求める域に到達しかけた頃

この、原風景たるわたしの記憶が

祖父の棲む地が

祖母の声が

まだだよ、と押し戻す。

父と同じじゃないか。

オヤジ、迎えに来て下さい!と泣く父・・

似て来た自分を痛感する。

おじいちゃん・・まだ、駄目?

はい、弱音吐いて醜悪に這いつくばってでも

生きます。頑張って、ソチラで、褒めて

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父母生前覚書

父母生前覚書

くわっ!と、その目を見開き

”お前は!”と、怒声を発せよ

入道雲の如く

大岩の如く

圧倒的な畏怖を

わたしに味あわせよ

事の推移

 わたし自身の風邪にて一週間訪れなかった間

 父は隔離室に入れられ点滴を受け

 頬削ぎ落ち目は窪み

 久し振りに会う父は死に行く人の如く変貌遂げていた

 お父さん!と声を掛けても眠ったまま

 「何も食べないからです。」介護士が憎憎しげに答える

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父母生前:覚書

父母生前:覚書

それでも母は父を覚えているのだ。
多くを忘れようと、母が口にする
「一番大事な人を忘れるわけがなかろうもん」

母の大手術ののち、車椅子で近付いた父が
「おい、オレが誰かわかるか!?」の問いに
即答した母であった。既に三年前・・

認知症という病は、特効薬が無い。が、症状を遅らせることは出来るのだ。それを助ける薬もあるにはあるが、何といっても、周囲の言葉や働きかけ、母の表情を察知し
喜んでいるとわ

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石

つげ義春の「無能の人」、映画化もされたから知ってる方も多いかと
思います。

主人公は石を売って歩くんですね、いつも川原で石を集めてる。

ふと、私の父も兄も石を収集してた事を思い出しました。

放蕩三昧の若き日の父は、ここで書けない程のエピソード沢山あり。
宝石だって何だって買えた当時の父が、何より大事にしていたものが
沢山の石でした。

その石を父が母に「これ、凄いだろ」と見せたそうな。

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父よ母よ

父よ母よ

あと二ヶ月で、父、奇跡の生還より丸三年経過する。

脳出血で高次脳機能障害となった父は、リハビリを続けるも未だ歩けない。

当初あった言語障害は回復。

父の入院時より、母の認知症は悪化した。

父母の三年は、私にとっても、新しい三年でありました。

尊大で倣岸不遜が服着て歩いているような、巨躯の父は

その肉体のみ半分になり。伊達男たる父は、全てのスーツ、ネクタイ、手を通すことも着ることも

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金木犀の香り

金木犀の香り

母は花が好きだ。

ホームの玄関先に金木犀の香りが、およそ苦手な方には咽るように

匂い立っている。

庭には白、ピンク、濃いピンク、三色のコスモス、名の分からぬ花々。

秋の日差しの中、母を連れ外に出る。

以前、車椅子に乗った母は

「まぁ、綺麗。」と顔綻ばせ、花を手で掴もうとした。

今年の秋は母の反応が薄い。

金木犀の香りが、こんなに風に乗り、貴女とわたしを包んで満たしてくれているという

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父母生前覚書

父母生前覚書

緊急搬送後、しばらくナース室の前に母は移されていました。

サービスステイション、見守りや検査、点滴、他、治療必要な方が入る場所。

血圧、体温、他、一応安定ということで、本来ならば本日21日に、従来の父との部屋に

戻すという医師、看護士さんのお達しあり。

が、何しろ、父がうるさい。

「夫婦を別々にするヤツが居るか~!夜、お前たちは、ずっとA子の様子を見れるんか?

俺が寝ずの番をする。早く

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母;生前覚書

母;生前覚書

゙お母さん、お誕生日おめでとう!

ぇっと・・何歳になったんだっけ?”

「38歳よ。

わたしは、38歳から年を取らないの。」

遠い昔の記憶、母の名言。

洋装も和装も似合った母の並外れた美貌。

小中学校の保護者会、校長先生筆頭に男性教師達が色めき立ち

母を観に来ていたと、後に知る。

そんな騒動を・・我が兄は恥じ入っていたのだった。

昨日ホームで見た母の明朗さ、思いがけず観た闊達さー

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