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金木犀の香り
母は花が好きだ。
ホームの玄関先に金木犀の香りが、およそ苦手な方には咽るように
匂い立っている。
庭には白、ピンク、濃いピンク、三色のコスモス、名の分からぬ花々。
秋の日差しの中、母を連れ外に出る。
以前、車椅子に乗った母は
「まぁ、綺麗。」と顔綻ばせ、花を手で掴もうとした。
今年の秋は母の反応が薄い。
金木犀の香りが、こんなに風に乗り、貴女とわたしを包んで満たしてくれているというのに。
コスモス、好きだったでしょう?
花を喜ぶ母を観て喜ぶのは、わたしの自己満足なのだ。
実際、母が言葉にせずとも感じたように見えずとも、
この季節、母と見た全てを記憶にとどめよう。母はこの時点で精一杯に
彼女らしく生きているのだ。知らぬはわたしの技量不足、感性の鈍化だ。
お母さん、金木犀・・しばらく嗅ぎましょうね。
ほら、部屋に戻れば、香りがついて来たわ。
不肖の娘、ややアンニュイに溺れる日々なりき。
秋の所為なのかわたしが弱ったのか
ああ、どうだっていい。
(父母生前覚書)