マガジンのカバー画像

「光る君へ」と高校古典あれこれ

16
高校で教えていた経験を活かして、教科書で出会う平安の人々と比較しながら感想を書いています。毎週月曜日更新予定。
運営しているクリエイター

記事一覧

「光る君へ」第44回「望月の夜」ソウルメイト

「光る君へ」第44回「望月の夜」ソウルメイト

まひろと道長って、青島と室井みたいだ、とずっと思っていた。

「踊る大捜査線」シリーズ再放送の見過ぎ、というわけではない。

青島は、「あんたは上にいろ、俺には俺の仕事がある、あんたにはあんたの仕事がある。」と室井に言うのだが、それは「正しいことをしたかったら偉くなれ」という和久さんの言葉を室井に託したということ。

まさにこれって、まひろが道長に言う、

と同じではないか!

まひろと道長がソウ

もっとみる
「光る君へ」第43回「輝きののちに」暴走する道長?

「光る君へ」第43回「輝きののちに」暴走する道長?

前回、宇治川で輝く川面のもと、まひろに弱音を吐き、涙した道長は、カタルシスがすんだからかすっかり回復し、もはや暴走しているように見える。

妍子が出産するも女児だったことにあからさまにがっかりし、内裏の火事を理由に三条天皇に譲位を迫る。

大鏡によれば、桓算という僧侶がもののけとなって、左右の翼で三条天皇の目を覆っていてその羽を動かすときには少しだけ見えるのだ、と書いてある。

実は、かなり昔、児

もっとみる
「光る君へ」第42回「川辺の誓い」ともに生きるということ

「光る君へ」第42回「川辺の誓い」ともに生きるということ

「民のためによき政をする」というまひろとの約束を果たそうとしている道長だが、彼の周囲の者たちは全く幸せそうではない。

顕信が突如出家してしまい、錯乱状態の明子。
立后の儀の参列者がたったの4名であった藤原娍子の憂いを帯びた表情。
大勢の公卿の参列のもと、妍子の内裏参入を成し遂げた道長も心から喜んではいない。
その後、毎晩のように宴を催して酒を煽る妍子もまた寂しそうである。
まひろもまた、一条天皇

もっとみる
「光る君へ」第41回「揺らぎ」まひろは何を思う?

「光る君へ」第41回「揺らぎ」まひろは何を思う?

行成、よく言った!

道長の敦康親王に対する仕打ちに対し、これまでこらえていた怒りを一気に爆発させた行成。本当、その通りだよ。道長、おかしいぞ。

そもそも、父親として娘の身を案じているというより、国母としての対面を傷つけられるのではないかという政治的な恐れでしかない。
これでは彰子も可哀想だ。

若い頃から行成は道長推しで、全力で道長を支えてきた友だったというのに、

と言った時の道長の冷たい視

もっとみる
「光る君へ」第40回「君を置きて」一条帝の死と道長の変貌

「光る君へ」第40回「君を置きて」一条帝の死と道長の変貌

源氏物語の朗読会。

読まれているのは33帖「藤裏葉」。
紅葉が盛りの頃、光源氏の邸宅である六条院に冷泉帝(光源氏と藤壺宮の密通によって生まれた子)をお迎えし、華やかに宴を催す場面。
そこで光源氏と冷泉帝が瓜二つに見えると語られる。そこに控えていた中納言(夕霧…光源氏の息子)もまたこの二人とそっくりだと語られる。

冷泉帝と夕霧は腹違いの兄弟なのだから、似ていて当然なのだ。

ここで、道長は「不実

もっとみる
「光る君へ」第39回「とだえぬ絆」親子の物語

「光る君へ」第39回「とだえぬ絆」親子の物語

彰子さまに第二皇子誕生から始まった第39回。

まひろは、源氏物語の構想を練っているのか、宿世とつぶやく。
「宿世」ということばは。源氏物語に何度も出てくるのである。

場面は、藤原為時邸へ。道長から正月用の賜り物に加えて、賢子の裳着の祝いの品も届いている。
ここで惟規によって、為時に賢子の父が道長であることが伝えられる。

そうか、気づいていなかったのか。
気づいていないと言えば、道長もまた気づ

もっとみる
「光る君へ」第38回「まぶしき闇」「美しき父と子、悲劇の予感」

「光る君へ」第38回「まぶしき闇」「美しき父と子、悲劇の予感」

ききょうとの久々の対面。
というか、ききょうからしてみれば対決しにきたのだった。

さすがききょう。すべてお見通しだった。

源氏物語を密かに胎内に宿したこの夜、まひろと道長はともに月を見上げていた。

二人が月を見ている時、私の脳内には綾香のこの曲が流れていた。
ドラマでは、三日月ではなく、満月だったけれど。
月を見上げて離れた人を思うという発想は実は古典の世界に多く見られるのだ。

さて、話が

もっとみる
「光る君へ」第37回「波紋」〜教科書に載っている紫式部日記って?

「光る君へ」第37回「波紋」〜教科書に載っている紫式部日記って?

第37回は紫式部日記の記述に従って進んでいく。
「紫式部日記」で教科書に載っているのは、
・「秋のけはひ入りたつままに」で始まる冒頭
・前回描かれた一条天皇が敦成親王に会うために土御門邸に行幸する日に向けた準備をする場面。
・清少納言を始めとする女房達への批評
この三つがほとんどである。
今回のドラマで描かれた、大晦日に盗人が入る場面もたまに載っていることがある。

まずはこの盗人が入る場面から。

もっとみる
「光る君へ」第36回「待ち望まれた日」〜波乱の予感

「光る君へ」第36回「待ち望まれた日」〜波乱の予感

いよいよ中宮彰子さま、出産の場面。
「秋のけはひ入りたつままに、土御門(道長の邸宅)のありさま…」という書き出しで始まる紫式部日記とドラマがリンクしていく。
道長が依頼したように、紫式部日記の中にはこの出産の様子が描かれており、まひろのナレーションや描写はこの日記の通り進められていった。

「寄坐」といって物怪を寄り付かせる女たちが登場したが、あれは「寄坐《よりまし》」に悪霊を取り憑かせることで僧

もっとみる
「光る君へ」第35回「中宮の涙」自分の恋も苦しみもすべて物語の中に閉じ込めた

「光る君へ」第35回「中宮の涙」自分の恋も苦しみもすべて物語の中に閉じ込めた

今週はまず、藤原伊周(三浦翔平)から。
どんどん悪人顔になっていく伊周。
初登場の時はあんなにキラキラとした美少年だったのに、もはや面影なし。

古典の教科書や問題集でお見かけする伊周は、ザ・平安貴族。
雅やかに漢詩を詠み、少し気の弱いところもありそれがまた貴族らしい、そんなイメージ。
これはやはり枕草子のおかげである。
決して「子を産め」なんて叫んだりしない。
まして伊周が長徳の変(花山院に矢を

もっとみる
「光る君へ」第34回「目覚め」現実世界では叶わないことでも、物語の中なら叶えられる。

「光る君へ」第34回「目覚め」現実世界では叶わないことでも、物語の中なら叶えられる。

1007年、まひろは宮中で源氏物語を書き進めている。
前回、里に下がって書いたのが巻二「帚木」。
今回、公任(町田啓太)や行成(渡辺大知)、斉信(金田哲)、女房たちが読んでいたのは、「人違い」・「方違え」という言葉から「帚木」の後半から巻三「空蝉」だとわかる。

さて、いつもの
【ざっくりあらすじ】
巻二「帚木」の雨夜の品定めの翌日、光源氏(この時17歳)は方違え(陰陽道の方角占いで、目的地の方角

もっとみる
「光る君へ」第33回「式部誕生」 まひろの人生の中に源氏物語のモチーフがある

「光る君へ」第33回「式部誕生」 まひろの人生の中に源氏物語のモチーフがある

いきなりラストのところからで申し訳ないが、道長から贈られた檜扇に感動。まさか二人の出会いの場面が描かれているとは!
「鳥が逃げてしまったの」と、幼いまひろが言うあの場面、源氏物語の若紫の巻によく似た場面がある。
「雀の子を犬君(召使いの女の子)がかごから逃してしまったの」と言って泣く少女を18歳の光源氏が垣間見(今風に言うと垣根の向こうから覗き見ですね)する場面である。これは教科書では定番の教材。

もっとみる
「光る君へ」登場人物考〜安倍晴明 第32回

「光る君へ」登場人物考〜安倍晴明 第32回

安倍晴明が死んだ。

私にとって、初めての安倍晴明との出会いは、稲垣吾郎演じる晴明であった。
NHKのドラマ「陰陽師」。2001年、原作は夢枕獏氏の『陰陽師』シリーズ。
私はすっかり夢中になった。
以来、私の中の安倍晴明は稲垣吾郎なのであった。
(残念ながら、山崎賢人君はまだ見ていない。)

若く美しい安倍晴明から、おっさん安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)へ。

最初はかなり戸惑ったが、いやこれ

もっとみる
「光る君へ」登場人物考〜藤原道長 第31回

「光る君へ」登場人物考〜藤原道長 第31回

とうとうまひろが源氏物語を執筆し始めた。

源氏物語の成立には諸説あり、若紫の巻からではないかというのが最近の定説のようだが、ドラマでは桐壺の巻から、つまり源氏物語冒頭から執筆している。

これは、道長が実は中宮彰子様をなくさめるためではなく、一条帝に読ませるためにという目的があったのだとすれば、まさに納得。

源氏物語のはじまりは次のような話から始まる。

とある御代、帝が桐壺更衣という女性だけ

もっとみる