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【ツチノコハンターに命の保証はない】〜書店員のエッセイ&本紹介〜高野秀行『幻獣ムベンベを追え』

小学生のときに『だいぼうけん!ツチノコハンターズ!』という小説を書いたことがある。
男の子三人組がツチノコを追って世界を旅するという壮大なアドベンチャー作品だ。

近所の空き地を捜索することから彼らの冒険は始まる(この時点でツチノコの牙を発見する)。
そこから富士山の樹海でツチノコの尻尾を発見し(トカゲみたいにちょん切れる設定)、中国、アメリカ、イギリスを巡って、最後はエジプトでツチノコを見つける。

思い返してみると、かなり残酷な話だった。

男子三人のうち一人はサソリに刺されて死に、もう一人は別のツチノコハンターに殺されてしまうのである。そして最後の一人はツチノコと戦い、右手を失ってしまうのだ。
「みんなの分まで、がんばったぞ!ぼくは、勝ったぞ!」
彼はツチノコの死骸を詰めたリュックを抱きながら砂漠を歩き出す。そして、日本へと帰還する飛行機で静かに息を引き取り、物語は幕引きとなる。

書き終えたとき、物凄くわくわくした。
出来上がった小説を片手に「これこそが男のロマンだぜ!」と同級生に見せて回った。
いつのまにかツチノコを倒す話に変わっていたことも気付かないくらい、俺は興奮していたのだった。

『幻獣ムベンベを追え』を閉じてホッとする。よかった、誰もムベンベに食べられたりしなくて。
クルーが病気になったり、不眠に苛まれたり等々はあったものの、『だいぼうけん!ツチノコハンターズ!』のように死者は出ていない。(出てたら書籍化できないよな)

っていうか、そもそもよ。
現実的に考えて、バリバリに目立つタイプの新種が存在しているなんてことはほぼありえない。
アマゾンの熱帯雨林に潜む全長2センチ程度の新種カナブンというのならわかるが、ビッグフットやプレシオサウルスなどの巨大生物は、現代の文明をもってすればすでに見つかっているはずである。
特殊な形状をしているツチノコでさえ、小さな蛇が鳩などを丸飲みすれば簡単に出来上がりそうなものだ。なんならその正体はアオジタトカゲであるという説もある(とか言っちゃうとハンターズの三人が報われない)。

アオジタトカゲさん

しかし、それらが存在しないという証拠は提示できていない。
あくまでも未確認なのである。いない可能性が高いというだけで、絶対にいないとは言い切れないのである。

誰も知らない、誰も見たことがないもの。
仮に発見することができたならば、それこそ世紀の大発見。人類の歴史に大きな足跡を残すことにもなる。
膨らんでいく想像と、抑えきれぬ好奇心が胸を覆い尽くす。不安も希望も通り越して、身体は未知を求め始める。

とてつもなく危険な場所に足を踏み入れることになるかもしれない、結果として金と時間をただ浪費しただけで終わるかもしれない。画面の向こうから笑われ、親族からは呆れられ、尊厳を少々失うかもしれない。

だが、そんなものなど関係ない!
これは己の極限に挑むことで得られる、最大級のロマンなのである!

『幻獣ムベンベ』の捜索を続けた高野秀行氏の汗と泥の珠は、俺の胸で美しく光り輝くのであった。

『メガロドンはまだ生きている!』
『ヒマラヤで発見された謎の足跡!』
いやいや、いるわけねーじゃんwと笑いつつも、そんな感じの番組がやっているとついつい箸を止めて見入ってしまう。
今、この瞬間にもヤツらは、人間たちの見えないところで優雅に生を謳歌しているのだろうか・・・。そう考えるだけでなんだかものすごくわくわくする。

もしツチノコハンターズを募集することがあるのなら、募集要項くらいは見てみたいものである。
もちろん、命の保証は何よりも大切だ。

〜本紹介〜

【ロマンを追うのが男ってもんよ!!!】

高野秀行 著『幻獣ムベンベを追え』。

あらすじ:モケーレ・ムベンベ。それは、コンゴのテレ湖に生息すると言われているUMA。
高野秀行率いる早稲田大学探検部は意気揚々と現地へ赴くが、そこで待ち受けていたのは、複雑な現地人、マラリア、暑さ、飢餓、不眠に苛まれる日々。彼らはムベンベを見つけ、78日間の過酷なサバイバルを無事に生き抜くことが出来るのか…!

未知なるものに挑むためならば、命を削ったって構わない。だってそれがロマンを追うということだから。
むさ苦しい男たちによる、壮大なノンフィクションアドベンチャー!!!


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