書店員 成生隆倫(なりうたかみち)。

新宿で働く書店員。 毎週水曜24時からゴールデン街『パノラマの夜』で店番を担当。 バーテンダー、舞台俳優、ユーチューバー、塾講師等を経て現在に至る。 酒と夢と華に溺れ、とっ散らかった人生の忘備録。 本に関することなどを書いているつもり。

書店員 成生隆倫(なりうたかみち)。

新宿で働く書店員。 毎週水曜24時からゴールデン街『パノラマの夜』で店番を担当。 バーテンダー、舞台俳優、ユーチューバー、塾講師等を経て現在に至る。 酒と夢と華に溺れ、とっ散らかった人生の忘備録。 本に関することなどを書いているつもり。

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【書店員の私が、2023年に読んだ本で最も衝撃的だった一冊を発表する〜成生賞2023〜】

【成生賞】 私がその年に読んだ本のなかで一番衝撃を受けた作品を発表する企画である。 本当に良かった!読んでよかった!と思う、忖度なしのベストな一冊を完全なる個人的趣向で選ばせていただく。 作品の発売年は不問であり、書店での売れ行きも選考材料とはならない。 「多くの人に本の素晴らしさを伝えたい、ゆくゆくはこの賞をメジャーにさせ、もっと多くの人に感激の輪が広がってほしい。」 という名目で作られた成生賞であるが、この企画によって「少しでも多くの種類の本が売れる世の中になってほしい

    • 【元舞台俳優の書店員、酒の勢いで舞台復帰を決める、が・・・】

      役者になったきっかけは、とんでもなく胡散臭いものだった。 大阪のロックバーで働いていたときに出会った自称霊能師のおっさんから、「君は歌舞伎役者の霊が憑いているから役者を目指しなさい」と言われたことが始まりだったのだ。 今から考えれば「そんなわけあるか!」とツッコミたくなるものであったが、当時の俺はとある夢を諦めようとしていた若者。 まさしく、目の覚めるような天啓にしか聞こえなかったのである。 本当に歌舞伎役者の霊が憑いていたかどうかはわからない。 ただ、体感的に間違いなく憑

      • 【書店員をしていれば、本好きの彼女が作れるのか】

        いよいよ五年目に突入である。 書店員経験の年数ではない。 ゴールデン街に通っている年数でもない。 もうタイトルからわかるだろう、 成生の彼女不在年数である。 二十一歳のときに初めて彼女ができて、基本的には二十六歳まで途切れることはなかった。 別れの予感を察したらすぐさま他の恋へ移行していたし、唐突の別れに対してもなんとか一、二ヶ月で新たな関係を構築できていた。あれッ!俺、意外とイケるんじゃね!? そう錯覚するには充分すぎる年月を過ごしていたように思う。 しかし現実は甘く

        • 【稲葉浩志が教えてくれた、どん底の敗北から抜け出す方法について】〜anan表紙記念記事〜

          勝利へのゴールデンロードを頭の中で描き切ったなら、あとはひたすら愚直に進むだけ。だが、遥かなる勝利を疑わないこの生真面目さは、ときに凄惨な光景を生むこととなる。 〜第一の敗北〜 小学校六年生の頃、自分を取り囲むこわい大人たちによって『合格』という夢を植え付けられた。 「前の席の人を蹴落としなさい」 「太ももに鉛筆を刺して眠気を覚ませ」 今から思えばあれは狂育だったのだろう。 感情がすり替えられたことに気付かないまま、全ての娯楽を捨て勉強に打ち込んだ。 ゲロを吐きながら、腹

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        【書店員の私が、2023年に読んだ本で最も衝撃的だった一冊を発表する〜成生賞2023〜】

          【朝4時起き!書店員の開店前業務を大公開する!】

          「明日マジで早いから帰らなきゃ!」 まだ飲みたい遊びたい女探したいという気持ちを、酒と一緒に飲み下して店を後にする。艶やかに染まる23時。 酔っ払いたちの声を浴びながら、俺は唇をかみしめて駅へと向かう。 書店員の朝は早い。 厳密にはエキナカ書店員なので早い。 朝4時、成生は柔らかなアラーム音で目を覚ます。そしてのそのそとキッチンへ移動し、冷蔵庫から取り出した緑茶をマグカップへ注ぐ。それを電子レンジで1分半。きっかり10分かけて飲む。 歯を磨き、髭を剃り、TBSの吉村恵里子ア

          【朝4時起き!書店員の開店前業務を大公開する!】

          【ツチノコハンターに命の保証はない】〜書店員のエッセイ&本紹介〜高野秀行『幻獣ムベンベを追え』

          小学生のときに『だいぼうけん!ツチノコハンターズ!』という小説を書いたことがある。 男の子三人組がツチノコを追って世界を旅するという壮大なアドベンチャー作品だ。 近所の空き地を捜索することから彼らの冒険は始まる(この時点でツチノコの牙を発見する)。 そこから富士山の樹海でツチノコの尻尾を発見し(トカゲみたいにちょん切れる設定)、中国、アメリカ、イギリスを巡って、最後はエジプトでツチノコを見つける。 思い返してみると、かなり残酷な話だった。 男子三人のうち一人はサソリに刺

          【ツチノコハンターに命の保証はない】〜書店員のエッセイ&本紹介〜高野秀行『幻獣ムベンベを追え』

          【書店員しか知らない"現場の歓び"を、本に関わった全ての人に伝えたいと思う】

          七連勤を終えた身体が、アルコールを求めて震え始めていた。 人員不足だったり、残業と早出を繰り返したり、書評の案件を頂戴したり、何気に大変な一週間だったと思う。 レッドブルなんかに頼らない!と言い聞かせながら飲みまくったリポビタンDの味が長く舌に残った。 疲れたァ~なんて布団に入った途端、SNSの通知が気になって眠れなくなった。 アンチヒーローの主題歌『hanataba』が耳にこびりついて離れなくなった。 連勤最終日には肌がカピカピになり、"がっつり飲まなきゃヤバイモード"に

          【書店員しか知らない"現場の歓び"を、本に関わった全ての人に伝えたいと思う】

          【友情のテキーラショットが繋いだ、遥かなる”おっぱい”への想い】 〜瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』〜

          「なり、俺の分までがんばってくれ。俺は吉祥寺に帰るわ」 蟹ヶ迫は、余ったテキーラチケットを俺の手に握らせると、リュックを背負って歩き出した。 遠くなっていく背中に比例するように、小さくなっていく我が心。彼の姿が完璧に見えなくなってしまうと、途端に感覚がクリアになり、身体に染み込んだテキーラがすっと薄まってしまったような気がした。 ジントニックを一気に飲みほす。 ライムの香りを鼻に残しながらバーカウンタへ向かい、テキーラチケットでショットを一杯、注文する。 「どうぞ」 差し出

          【友情のテキーラショットが繋いだ、遥かなる”おっぱい”への想い】 〜瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』〜

          【書店員が考えた!〜なぜ働いていると”小説”が読めなくなるのか〜】

          「すごい人はみんな、本を読んでいます。社長さんも、宇宙飛行士も、スポーツ選手もみんなです。校庭の二宮金次郎だって薪運びの仕事をしながら、一生懸命本を読んで勉強してえらい政治家になったんです。だからみんな、本をたくさん読みましょうね」 担任の先生は、小学生だった俺たちに読書を推奨した。 朝の読書タイムを設けたり頻繁に読書感想文を書かせたりして、彼は子どもたちが本と接する機会をたくさん作っていた。 本(ただし漫画以外)に関することであれば、先生は何でも褒めてくれた。学級文庫に

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          【森見登美彦作品はもう、俺の青春を呼び起こせない】 〜森見登美彦『シャーロック・ホームズの凱旋』〜

          『夜は短し歩けよ乙女』の衝撃的なオモチロさは、高校生だった成生を完全に虜にした。 その後デビュー作の『太陽の塔』を読んで森見ファンになり、『四畳半神話大系』は彼の絶対的青春となった。 阿呆な大学生が無益な思考と行動を繰り返す荒唐無稽な物語は、やがて十八歳となった成生を京都の地へ駆り立てる。 京都サイコー!モリミーサイコー! 出町柳に出現する猫ラーメンをはふはふ啜りながら、高瀬川を流れていく小津に手を振り、四富会館の怪しげな雰囲気に飲まれ、深夜の下鴨神社で失恋を叫ぶ。 まさに

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          【B'zに支配され続けた18年間で得た、勝利のマインドについて】

          受験勉強に明け暮れた小学生時代を抜け、ラジオやドラマや小説や音楽に多大な影響を受けるようになっていた頃のことである。 CDコンポのボリュームを絞って『桑田佳祐のやさしい夜遊び』を聞き、初代ドラゴン桜に出演していた長澤まさみの可愛さにメロメロになり、親から与えられた歴史小説を棚に戻して東野圭吾を読み漁る。 見たことも聞いたこともない新しい刺激たちに、無垢な中学一年生の心は踊った。五感を通り抜けていくものすべてが魅力的に思えた。 そのような数多くの刺激がある中、ある日私は圧倒的

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          【俺なら、有名書店員になって本屋の未来を照らせるとマジで思っている】

          神保町にできた新しい書店、『ほんまる』さんへ行ってきた。こちらは個人もしくは法人が棚主となり、POPを貼ったり電飾を付けたり等、棚の中であれば自由にカスタマイズできるシェア型書店である。 開店初日だったので全ての棚が埋まっている状態ではなかったが、それでも棚主たちの個性はじゃぶじゃぶと溢れていた。 好きな作家を詰め込んであったり、売り出したい本を並べてあったりと、まさに推し本たちのエンターテイメントパーク。 『歩く屍堂』さんのゾンビに関する書籍棚は成生的にかなりツボで、興奮

          【俺なら、有名書店員になって本屋の未来を照らせるとマジで思っている】

          【一気読み!とか徹夜本!とか、俺はナンセンスな宣伝文句だと思っている】〜書店員のエッセイ&本紹介〜桜木紫乃『砂上』

          夜の読書は優雅だ。 今日為すべきことのなにもかもが終わり、あとはだらりと体を横たえて睡魔を待つだけ。一日にわずかしかない、そのささやかな自由時間を読書に充てるというのは、なかなか気持ちがいいものである。 ベッドライトが照らすなか、ぱらりぺらりとページをめくる。静寂な夜の素晴らしいところは、圧倒的な没入感を味わえるところだ。みるみるうちに物語へと吸い込まれていく。感覚は文字の世界に溶け込み、感情はめくるめく動き回る。紙と指がこすれ合う音だけが響き、上質な時間を醸し出す。 ・・

          【一気読み!とか徹夜本!とか、俺はナンセンスな宣伝文句だと思っている】〜書店員のエッセイ&本紹介〜桜木紫乃『砂上』

          【一番好きなことは読書・・・ではないんだよ、本当は】

          「書店員やってます」と言うと 「へえ、本が好きなんだね」と言われる。 そうっすね、と答えるもののその声はなんだかフラフラしている気がしてならない。 満員電車で読書、家に帰って読書、風呂に浸かって読書、ベッドに寝ころんで読書。 そうやって『本と共に生活』している人はきっといるのだと思う。それは書店員かもしれないし、作家かもしれないし、出版社の人かもしれないし、どちらでもない人かもしれない。まあ少なくとも、彼らは無類の本好きであるということは断言できる。 だが私はそうではない。

          【一番好きなことは読書・・・ではないんだよ、本当は】

          【三年前まで本屋大賞の存在を知らなかった俺が、宮島未奈先生とツーショットを撮るなんて!?】 ~書店員のエッセイ&本紹介~ 花田菜々子 『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

          ぶっちゃけてしまうと、三年前の四月まで本屋大賞という存在を知らなかった。 本に関する話題にものすごく疎い人間だったのである。 芥川賞や直木賞くらいは聞いたことがあったけれど、又吉直樹さんの『火花』しか読んだことはなく。それも地元である吉祥寺の居酒屋・美舟が登場していたからで、「行きつけのお店だしな」とかいうちょっとした義理的読書であった。 本は好きだけど、待ち合わせの時間つぶしで本屋に寄ってテキトーな文庫本を買う程度のライト層。 そんな私が本屋大賞の壇上で写真を撮られている

          【三年前まで本屋大賞の存在を知らなかった俺が、宮島未奈先生とツーショットを撮るなんて!?】 ~書店員のエッセイ&本紹介~ 花田菜々子 『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

          【一番好きなことは読書・・・ではないんだよ、本当は】

          「書店員やってます」と言うと 「へえ、本が好きなんだね」と言われる。 そうっすね、と答えるもののその声はなんだかフラフラしている気がしてならない。 満員電車で読書、家に帰って読書、風呂に浸かって読書、ベッドに寝ころんで読書。 そうやって『本と共に生活』している人はきっといるのだと思う。それは書店員かもしれないし、作家かもしれないし、出版社の人かもしれないし、どちらでもない人かもしれない。まあ少なくとも、彼らは無類の本好きであるということは断言できる。 だが私はそうではない

          【一番好きなことは読書・・・ではないんだよ、本当は】