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福田恆存を読む

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『福田恆存全集』全八巻(文藝春秋社)を熟読して、私注を記録していきます。
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#職業

『職業としての批評家』他人の書いたものを読むといふのは、なみなみならぬ奉仕ではないか

『職業としての批評家』他人の書いたものを読むといふのは、なみなみならぬ奉仕ではないか

 この論文は昭和二十三年に発表された。冒頭の引用から始める。

福田が『職業としての作家』において提出した「近代人の宿命」とはなにか。一言で言うならば、人間的完成と職業との分離である。個人的自我と集団的自我との分離と言い換えてもよいだろう。要するに、近代以降、作家を職業とするためには、①専門化された技術を持つ職人になるか、②副業を持つか、このいずれかの道しかないということである。

ひとは他人の人

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『職業としての作家 — 作家志望者におくる』③恒産なきはむしろ有利な特権である

『職業としての作家 — 作家志望者におくる』③恒産なきはむしろ有利な特権である

 近代以降の「職業」は人間的成熟と分離した。その事実を嗅ぎつける点では、作家(芸術家)とディレッタントは同じである。しかしその後で両者は袂を分かつ。

ディレッタントは「職業」を軽蔑しあらゆる職業的技術を猜疑する。が、作家(芸術家)は「職業」を軽蔑しながらも自己の内なる職人を黙々と育てている。

前者は否定のための否定を旨としそこに甘んじ、後者は肯定のための否定を旨とし矛盾に耐える。たんに感受する

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『職業としての作家 ー 作家志望者におくる』②肯定のための否定ということ

『職業としての作家 ー 作家志望者におくる』②肯定のための否定ということ

 現代では「職業」というものは、人格的価値とは何ら無縁のものとなった。それは「職業」が専門化・純粋化するに従って、いささかも個人の自己主張を許さなくなっていった結果である。人間的成熟と職業は別物と考えられるようになった。

一般的に「職業」の性格はこのように変化していった。では、そこに芸術はどのように関わっていったのであろうか。一口に言えば、芸術はしだいにその職業的性格を希薄化させていったのである

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『職業としての作家 ー 作家志望者におくる』①落ち着きを失った現代人

『職業としての作家 ー 作家志望者におくる』①落ち着きを失った現代人

 この論文で福田は、作家(一般に芸術家)というものが、かつての「卑しい職業」から神聖なる天職へと昇格していった歴史的経過とその理由を問う。

そんな詩人や画家たちだが、フランス革命を一つの契機として、神聖視されるような特別な存在へと昇格していった。その理由はなんであろうか。

福田はまず初めに、封建的な秩序が確立されていた時代における「職業」の役割について考える。

封建的秩序の下で人々は、集団的

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