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読書のお部屋

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本の世界から始まる物語
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#秋

ルリユールおじさん

ルリユールおじさん

秋の夕暮れ、ウサギは窓辺に腰掛け、降り続く雨音に耳を澄ませていた。ティーカップに熱いお湯を注ぎながら、ふと誰かに呼ばれた気がして、小さな本棚に目を向けた。そして一冊の絵本を手に取ると、その表紙をじっと見つめた。

「この淡い色彩の絵が、優しい物語にぴったりなのよね…」と、つぶやきながら、紅茶の香りに誘われて、そっとひとくち口に含む。静かな時間が流れる中、ウサギはゆっくりとページをめくり始めた。

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スマイルショップ

スマイルショップ

その夜、ウサギはベランダから月を見上げていた。膝を立て、胸の前で指を絡めたまま、瞳は薄く潤んでいる。その姿は、まるで懺悔する告解者のように見えた。

「お月様、ごめんなさい…。今月はまだ何日も残っているのに、食欲に負けて、お金を全部使い果たしてしまいました。こんな私を、どうか許してください…」

どうしても、自分の無計画さを責めずにはいられなかった。途中で何度も「気をつけよう」と誓ったはずなのに、

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おまえうまそうだな

おまえうまそうだな

枯れ葉がひらひらと舞う、静かな秋の昼下がり。ウサギは紅茶専門店のテラス席に腰を下ろし、アールグレイのカップを両手でそっと包み込んだ。

空に向かって広がるパラソルは、夏の鋭い陽射しが過ぎ去り、ほっと息をついているかのようにみえた。少し寂しげでありながら、どこか心地よい秋の空気が、ウサギをそっと包み込んでいた。

紅茶をひと口含むと、そっとカップを置き、一冊の本を取り出した。細い指先でページをめくる

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ぼく モグラ キツネ 馬

ぼく モグラ キツネ 馬

秋の澄んだ空気の中、ウサギとカメは広い草原に座り、ぼんやりと空を見上げていた。どこまでも広がる青い空には、白くふんわりとした雲が、遠く高く、静かに浮かんでいた。

ウサギは、読み終えたばかりの本を胸に抱き、思いにふけっていた。物語の中の「ぼく」が、旅の途中でモグラたちと出会い、少しずつ成長していく姿が、彼女の心に小さな灯りをともしていた。

「私、ハッとしたの。『成功するってどういうことかな?』っ

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きみの行く道

きみの行く道

ほのかに秋の気配が漂う公園のベンチで、ウサギは静かに空を見上げていた。雲がゆっくりと気まぐれに流れ、その自由な動きが、彼女の瞳にそっと映り込んでいた。

「私、この先どうなっちゃうんだろう」
季節の変わり目が彼女の心にそっと忍び寄り、普段よりも繊細な感情を静かに揺さぶっていた。彼女は手元の絵本に視線を落とすと、ため息をつくように静かにページをめくり始めた。

「おめでとう。今日という日は、きみのた

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