きみの行く道
ほのかに秋の気配が漂う公園のベンチで、ウサギは静かに空を見上げていた。雲がゆっくりと気まぐれに流れ、その自由な動きが、彼女の瞳にそっと映り込んでいた。
「私、この先どうなっちゃうんだろう」
季節の変わり目が彼女の心にそっと忍び寄り、普段よりも繊細な感情を静かに揺さぶっていた。彼女は手元の絵本に視線を落とすと、ため息をつくように静かにページをめくり始めた。
「おめでとう。今日という日は、きみのためにある」物語が彼女に語りかけてくる。
「つまらない道を選ぶことはない。行きたい道が見つからないなら、探しに行けばいい」その言葉に、彼女はふと手を止め、じっとページを見つめた。
物語の主人公である「きみ」は、広い世界へと一歩を踏み出していく。
「何が起こっても大丈夫。きみ自身も変わっていくのだから」と物語は語り、「きみ」をやさしく見守っていた。
「高く飛べる人に混じって、気球で空を飛ぶなんて素敵ね。みんなを追い越して、先頭に立つことができたら、きっと最高ね」彼女はいつの間にか、「きみ」になりきっていた。
思い通りにならない時もある。「きみ」は、恐ろしい「待つところ」に差し掛かった。電車が来るのを待ってる。雨が止むのを待ってる。金曜日の夜を待ってる…。待ってる人だけのいるところ。
「ちがう。そこは、きみの行く道じゃない」
ウサギの声が、気づけば物語の言葉に重なるように響いていた。
「大事なことは、自分の気持ちに素直になることなのね。あとは少しばかりの勇気と運。なんだか元気が湧いてきたわ。だって、絵本が保証してくれたんだもの。98と4分の3パーセントの確率でうまくいくって」彼女は晴れやかな顔で絵本を閉じた。
ウサギはもう一度空を見上げた。雲の隙間からこぼれる光が、まるで励ますように彼女の頬に触れてくる。ゆっくりと体を起こすと、彼女の足は確かに前へと動き出していた。
<きみの行く道>
ドクター・スース 作・絵/いとう ひろみ・訳/河出書房新社