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霊能者と医者 (1分ショートショート)
「後ろから、先生に覆いかぶさっている霊が見える」
老人患者の岡田は、医者の背後を指さした。
「10年前の患者で、先生が安楽死させたと言ってる」
「また、ご冗談を。入院生活に疲れましたか」
「いや、霊が話しかけてくるんだ。……何?先生は、遺族から3億の報酬をもらった、だと?自宅の金庫にあるんだな。暗証番号は、564…3…89、564389」
医者は、憑依したかのように繰り返す岡田をなだめた。
それから数日後、岡田は容態が急変し、亡くなった。
医者は、よく見舞いに来ていた息子夫婦や孫たちに、ねぎらいの言葉を掛けた。
「認知症も発症されていましたが、本当に優しい、素敵な患者さんでした」
そして自宅へ帰り、金庫のある部屋へ行き、暗証番号564389にダイヤルを回した。
ガチャ、ギギギギィー。
ガランとした金庫の中。3億円の札束は消え、代わりに、印字された紙が一枚置かれていた。
「お互い、警察には黙っておきましょうね」
岡田の息子の顔が、浮かんだ。