笛のテスト (1分ショートショート)
【一学期】
6年3組、ソプラノリコーダーのテストの日。
宮本春斗の番になった時に、クラス中に旋律が走った。
どれだけ、宮本が「ド」の音を鳴らしても、皆の耳には「フェー」にしか聞こえないのだ。
「ド」だけの問題ではなかった。全音階、風が漏れているような音がする。
「ピアノや打楽器の演奏は、とても上手いのにね」
このままでは、いい点数はあげられない。音楽教師の私は、笛の掃除をするよう指示し、再度、テストを受けさせた。
しかし、「フェー」は「フェー」のままだった。
「今日から『宮本フェー』だな」
ヤンチャな生徒から揶揄され、彼は、しょげてしまった。
笛の掃除をさせたのは、行き過ぎた教育だったわ。
授業後、宮本を呼んで、彼の笛の口元のパーツを、私の口元のパーツに変え、代わりに吹いてみたが、どの音もちゃんと出た。
「息づかいが悪いのかしらね」
それから、粘り強くブレスの方法を指導したが、まともな音は出せなかった。
私は、宮本の母親に連絡を取り、病院に行かせるように言った。
「息子さんは、呼吸器系に問題があるのかもしれません」
数日後、母親から電話が入った。
「肺に、小さな穴が12個も空いていました。手術を受けさせます」
【ニ学期】
ソプラノリコーダーのテストの日。
宮本春斗の番になり、クラスに再び緊張が走った。
しかし、彼は課題曲「茶色の小瓶」を見事に吹ききった。
拍手喝采を浴びた顔は、興奮で高揚しているようにも見えた。
放課後、私は彼を音楽室へ呼んだ。
「素晴らしかったわ。音色は、オカリナに近かったけれど」
「肺の穴に、ひとつづつ、弁を付けたんです」
宮本は、穴が全部ふさがった、ソプラノリコーダーを見せた。
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