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短歌・詩・俳句

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短歌・詩・猫を中心とした川柳などを掲載しています。
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2021年1月の記事一覧

第168話:捨てられないもの

第168話:捨てられないもの

定時制に勤めていた時、生徒と話すのは新鮮だった。
僕の常識にはない新鮮な感覚を彼らが持っていたからである。荒くれから引きこもりまで彼らの生き方は千差万別、多種多様、波乱万丈に満ちていて、思わず「そんな生き方もあるのか」と思わされたことも少なくない。

例えばほんの一例、小さなことなのであるが、ある生徒がこんなことを言ったことがあった。彼は朝の5時から午後の4時まで、毎日コンビニのバイトをし、夕方か

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▲親友の死に→29話

▲親友の死に→29話

克彦が死んだ日
僕は妻と芝居を見に出掛けた

訃報を受け取った時泣きじゃくっていた妻は
芝居に行く道の車の中では
明るく 
芝居の粗筋など僕に聞かせたりした

妻が僕の気持ちをどう考えているのか
僕にはよく解らなかったが
話題に克彦をのせない妻にすべてをまかせたまま
芝居を観てそれなりに笑い
それなりに拍手などして
帰る車の中でも
流行の歌など聞きながら
お互い
克彦のことには
一言も触れずにしま

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🟢オリオンの下:短歌

🟢オリオンの下:短歌

やや温くきオリオンの下われありてニーチェのこともかなしかりけり

第296話:🟡置き手紙:詩

第296話:🟡置き手紙:詩

「置き手紙」

家に帰ると
灯りが消えていた
鍵で玄関を開けるが
中には人気がない

とりあえず俺をさがす

と言っても
2DKの小さなアパートだ
こっちの部屋にいなければ
あっちの部屋しかない

だが、あっちの部屋にも
俺はいない

トイレかもしれない

しかしトイレには白い便座が鎮座しているだけで
俺がいた形跡はない

こたつの中か?
押し入れか?
まさか冷蔵庫?

せっかく帰ってきたのに

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🟢あしたを見に行く:短歌→286話

🟢あしたを見に行く:短歌→286話

月の地図リュックサックに押し込んで僕と「あした」を見に行かないか

二人で月を見上げながら、こんな言葉で愛をささやいてみる・・。 

「プロポーズに使いたければ、1000円でこの歌を貸してあげる」
という馬鹿な冗談を授業で言ってみたのですが、何の反応もありませんでした。

当然とは思いますが・・。

第285話🟡(詩):傘クマ

第285話🟡(詩):傘クマ

今日も雨。

学校の校門に、シロクマのぬいぐるみが落ちていました。
水たまりにうつぶせになって。

ランニングに来た野球部の生徒が、
可愛そうに思ったのでしょう。
拾って校門の柱の上に座らせて行きました。

でも、しょぼしょぼと雨は降り、
シロクマはしょぼしょぼと濡れていました。

すると、
通りかかったテニス部の女子部員が
校門の鉄扉に傘を括り付け、
雨が当たらないようにしてあげました。

「笠

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🟢なくしちまったこと:短歌

🟢なくしちまったこと:短歌


飛行機雲まっすぐに引く空があり なくしちまったことがいっぱい

空にまっすぐ尾を引く飛行機雲。

美しいものは悲しく、
まっすぐであることは寂しく感じられたりします。

空を見ると、
ふと、「あのころ」がよみがえり、
どこかに何か忘れ物をしてきてしまったように思うのです。

傘もなく濡れそぼちゆく少年の姿 なにかが妬くてならず

でもそれは、
「なくしてしまった」のではなく、ひょっとしたら、それ

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第213話:捨てられない気質

第213話:捨てられない気質

子供の頃は「あてつぎ」というのがあって、服やズボンが破れると別の布を当てて糸で縫い付けた。「あてつぎ」と僕らは言っていたが、一般には「つぎあて(継当)」と言うらしい。

若い世代にとっては「死語」なのかもしれない。

昔は貧乏だったので、衣服など次から次へと買えるわけではなく、三男坊の僕は兄貴の「おさがり」、いわゆる「お古」を着ていた。セーターとかズボンとかが破けると、オフクロやオバアチャンは、こ

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🟢僕は僕であらねばならぬ:短歌

🟢僕は僕であらねばならぬ:短歌

くぬぎの葉 踏みゆきながら ざくざくと 僕は僕であらねばならぬ

僕は僕である。

▲湯たんぽと猫→194話

▲湯たんぽと猫→194話

【猫川柳】

湯たんぽと猫とまるまる 星の夜 ここ数年、寄る年波に、夜はカミさんが湯たんぽを入れてくれるようになりました。温かいのですが、酒を飲んで正体なく眠る僕は、低温火傷で病院通いとなりました。

そう言えば体に傷を発見しても、いつどこでつけたものやら分からぬことが多くなり、毎日会っている部活の部員を前にその名前を失念することもしばしばです。心優しい部員たちは心得ていて、指をさすと「○○です」

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第225話🟡(詩)100円ショップ

第225話🟡(詩)100円ショップ

なんとなく寂しくなってしまった日には
百円ショップに行くといい

いかにもちゃちで
いかにも安物なんだが

圧倒的な物の数
ごちゃごちゃと賑やかに
いかにも楽しそうに並んでいる

ほうきや洗濯バサミ
ペットフードに文房具
鼻めがねとかパンツとか
茶碗、スプーン、手品の道具
お菓子におもちゃ、植木鉢・・

「おお、こんなものがあったのか」とか
「おお、こんなものが百円か」とか
そんな些細な感動に

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🟢一本の楡:短歌

🟢一本の楡:短歌

     

ある時は一本の楡 どうしても どうしても 譲れないことがある

🟢教室という四角い箱:短歌

🟢教室という四角い箱:短歌

教室といふ 四角い箱は ごとごとと  ごとごとと 煮らるるおでん

教室には実にさまざまな生徒がいます。
ゆえに、毎日、実にさまざまなことが起こります。

40人の個性と、感情と、あふれ出るエネルギーも矛盾も。
笑いも哀しみも、たまには怒りも。
みんなごちゃごちゃになって
ひとつの四角い「教室」という空間に雑居しています。

コンビニのレジ横の「おでん」を見ながら「似ている」と思ってみました。