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ショートエッセイ 全記事まとめ

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note上で公開したエッセイの全記事まとめです。
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誰よりふしぎなpのこと

誰よりふしぎなpのこと

pと仲良くなってから、まだ丸一年も経っていない。おかしい。私の体感と全然合わない。もう五年くらい前から友だったような気がするのに。

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私の日常にpが入ってきたのは、寒さが少しばかり和らいできた春先のことだった。最初はSNSのフォロワーさんとして。前年の秋、私は十年くらい使っていた前のSNSアカウントとお別れして、現在のアカウントを新たに作っていた。言葉の感覚の合いそうな人をまと

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思考は物事を前進させない

思考は物事を前進させない

コンピュータサイエンスの用語で、「Garbage in, garbage out」というものがある。日本語に直すと「ゴミを入れれば、ゴミが出てくる」という意味だ。

たとえばの話、友達同士の食事の席で「4人で割り勘にしようか」という話になって、伝票には「5,600円」と書かれていたとする。そこで誰かがスマホを取り出して、電卓機能を使って「5600÷4=」と計算しようとするが、画面をタップする指が少

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人間関係の空席と満席

人間関係の空席と満席

「あの子、彼氏できた途端に付き合いが悪くなったよね」

ありがちな話。特に、その友達付き合いが昔からのものであると「ぽっと出の男に……」という感じの深いモヤモヤが醸し出される。

この発言の例ですぐに連想されるのは、大学一年生とかそれくらいで、まだ忙しく仕事に追われているような身ではない。それでも、誰にとっても一日は24時間しかないし、身体はひとつしかない。何かに新しくエネルギーを割けば、他に向け

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変化と拡張の感覚について

変化と拡張の感覚について

以前どこかで読んだ話に「人は年齢を重ねると音楽的嗜好が固定化されて、10代の頃に聴いていたような音楽しか聴かなくなる」というのがある。

これはたぶん、本気の音楽好きには当てはまらない。すぐに思いつく理由はふたつある。

まず、どんなに素晴らしい作品であっても、人は同じ刺激を受け続けるとだんだん感覚が飽和してきて、そこから受け取れる感動は薄くなっていく。この「順応」というのは生き物の基本的な性質だ

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「あなたより苦しい人もいる」から何だというのか

「あなたより苦しい人もいる」から何だというのか

以前、インターネットの片隅に放流した投稿について。

原則として、人の苦しみを比較してはならない。

よく「世の中にはもっと苦しい人もいる」「あなたは恵まれてる」などと言いたがる人間がいる。もしその人が骨折して病院に搬送されるようなことがあったら、ぜひ「隣のベッドにはもっと派手に複雑骨折した人がいるぞ」と厳しい顔で言ってあげたい。

自分の身体が痛むとき、隣の人の感じている痛みの強さなどは何も関係

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仲良しあの子と非ユークリッド幾何学

仲良しあの子と非ユークリッド幾何学

人間同士の親密さを表したいとき、距離を表す語彙が普通に使われる。近いとか疎遠だとか言うし、そもそもそういうこと全体を「距離感」と呼ぶ。

演習。地図でも何でもいいので、平面上にA・B・Cの3点を置いたとする。ここで、AB間の距離が近くて、BC間の距離も近いのなら、AC間の距離もそれなりに近いと言うことができる。少なくとも、AC間の距離がAB+BCの値を超えることはないからだ。

これが成立しない空

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おばけと恋人

おばけと恋人

ある人との会話で、「自分の考えていることを何でも安心して話せる相手」についての話が出た。こんなことを言ったらどう思われるだろう、否定されるだろうか、おかしいと言われるだろうか、軽蔑されるだろうか……といったことを一切心配しなくていい相手の存在について。

そういう人と過去に出会ったことがあるという人もいるだろうし、今現在の身近な友達やパートナーの顔がすぐに思い浮かぶとしたら、それはおめでとう。そう

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