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誰よりふしぎなpのこと

pと仲良くなってから、まだ丸一年も経っていない。おかしい。私の体感と全然合わない。もう五年くらい前から友だったような気がするのに。

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私の日常にpが入ってきたのは、寒さが少しばかり和らいできた春先のことだった。最初はSNSのフォロワーさんとして。前年の秋、私は十年くらい使っていた前のSNSアカウントとお別れして、現在のアカウントを新たに作っていた。言葉の感覚の合いそうな人をまとめてフォローさせてもらっていて、フォローバックしてくれた人の中のひとり。それがp。

その秋頃に、ほんのときどきのリプライのやりとり。我が家と同じく、pの家には白文鳥が一羽いた。普段はそういう話題も写真もまったく投稿していない人だったので、小鳥の話題に反応されたのは意外だった。

どうしてなのかはわからないが、pは私と仲良くなりたいと思ってくれたようだった。その後しばらくの経緯は省略する。pはこういうプライベートに属する話について、人目に触れさせるのを嫌う人だと思うから。きっと怒られる。とにかく、秋と冬と春が過ぎるくらいの頃には、私にとってのpは「フォロワーさん」ではなく、友達というカテゴリに入る相手になっていた。

私は書き物をしているし、pも普段のお仕事とは別に小説や詩歌といった文芸方面の活動をしている人だから、私の書く文章を読んで気に入ってくれたのかなと思った。ところが、別にそれほどでもないらしかった。pはこういうときにお世辞を言わないのだ。

たまに電話で話すときには、私の個人的な事柄についてあれこれ質問してくるし、それが恋愛観みたいな話も多かったから、最初は異性的なアレなのかと思ってしまった。これも違っていた。

今の私にとって、なんでもないような日々のLINEの相手をしてくれるのは、他でもないpである割合が圧倒的に高い。そもそもpと出会うまで、どうでもいいようなLINEを頻繁にする習慣なんて私にはなかったはずだ。私の長電話の最長記録もpが相手である。6時間くらいだったはず。当然日付は変わっている。お互いの部屋の文鳥たちも、すっかり寝静まっている。

pと話しているとめちゃくちゃ笑ってしまう。私という人物を「ゲラだ」と認識しているのは、おそらくこの世でpだけだと思う。

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pは理屈を立てない。何かの主張に「○○だから」という理由がついてこない。というか、何も主張しようとしていない。

だいたいの人は理屈を立ててしまう。理屈のあとには、決まって正当化がくっついてくる。「……ゆえに自分が正しい」と考えるし、「……だから相手がおかしい、間違っている」と言ってしまう。いずれもロジックによる正当化だ。pの口からこのようなことを聞いたことは一度もない。たぶんpは、正しいとか正しくないとかいう小ざかしい基準では生きていない。自己の感覚に信を置いているのだ。

pの文面の印象は柔らかい。しかし、曖昧な弱々しさはどこにもない。私の想像では、pの考え方を変えたり、その行動をねじ曲げたりすることは、この世の誰にもできないのではないかと思う。人の和を乱すようなタイプではまったくないが、もっと根本的な意味での話。私と同じく、pには少し頑固者っぽいところがあって、それが垣間見えると私は笑ってしまう。

以前、pのことを「やさしい」と表現したら、すぐに「やさしくないよ」と返ってきた。pらしいと思う。でも、いつもは気まぐれなペースで返信してくるのに、私が悩みを口にしたような場面で適当な応答をされたことは一度もない。むしろ真面目なモードに一段切り替わっているのがわかる。何かあれば気にかけてくれる。声をかけてくれる。私はpはやさしいと思う。

pは美学の人である。とても審美眼が厳しい。私が芯を外したことを言うと、決まって「えー」という猫のスタンプが送られてくる。手ごわい。やっぱりこの人の感覚は揺るぎない。

こうやってpのことを書こうとすると、その半分以上が「……ない」という否定形の記述になってしまう。私の見るところ、pは定義可能な概念のようなちっぽけなレベルで生きてはいないからだ。

pはありがとうとごめんなさいをすごくストレートに言う。誰よりも率直に。とても素敵だと思う。pに似たような人間を、私は他に思い浮かべることができない。

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普段は意識されていないが、pは私よりもけっこう年下だ。一般的な兄弟姉妹の距離よりもずっと。でも、内面において、その大きさには全然敵わないものがあると感じる。

pがどうして私と仲良くなりたいと思ってくれたのか、今でもわからない。最初からずっとわかってない。何かの寓話か神話のように、「ついに理由がわかったとき、それは砂となって崩れて消えてしまう」みたいな光景をふと思い浮かべる。

それなら一生わからなくていい、と思った。

(essay 7 - 2024.12.13)

 

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