
『七十二候』紅花栄‥べにばなさかう
『紅花栄』‥べにばなさかう
5月26日から30日頃
紅花の花言葉には「化粧」「装い」とありますがその言葉通り、古くから染料や着色料として、また養命酒などに含まれる生薬であったり
紅花油(サフラワー油)、マーガリンなど
幅広く私たちの暮らしに関わってきました。
紅花は、咲き始めの頃は鮮やかな黄色、オレンジですが、成長するに従い赤色を増していきます。
そんな風にひとつの花が変身するように
色を変えたり姿を変えたり‥
二度三度楽しめてお得な気がしますよね。

他にも、たとえば初夏から秋口まで咲く
ランタナはオレンジ、赤、黄色、紫、ピンク
白など徐々に変化していくので
七変化と別名があるほど。




七変化とは言わずともそんな風にいろんな面があることは人としても魅力的だと思うのです。
きっと誰にでもいろんな側面があり
片側からだけでは計りきれず
もう片方から見てみたり、後ろ側から見てみたり‥。そんな風に、人と関わっていく中で
こんな一面もある‥こんな顔もある‥と
少しずつ知っていく過程が好きだったりします。
時には意外すぎてびっくりしたり‥。
少しがっかりしてしまうこともありますが‥。
でもそのどの一面もその人であり
ひとつひとつを繋ぎ合わせていくことは
ちょっぴり難しいパズルのようでもあります。
しかし、どんなに長く一緒に居たとしても
心近くに感じている相手だとしても
そのパズルが完成することはないのかも
しれません。
きっと自分自身のパズルさえも
その答え合わせはできず、ピースも揃わず永遠に未完成のまま‥。

でも、それでいいと思うのです。
以前は、相手のすべてを知りたいと思う気持ちもありましたが
今は知らない面があるからこそ
適度な関係で居られるのかもしれないと。
誰にも見せない顔、誰にも語らない言葉
そんな部分があるから
魅力的に見えたりするのかもしれません。
自分自身のことも、どんな人なのか
説明することは難しく
歳を重ねていく中で
ひとつ、またひとつと‥知っていけたら
それでいいように思うのです。

さて。話が逸れてしまいましたが
紅花には他にも「特別な人」「包容力」「愛する力」などの花言葉もあります。
そのせいか恋愛を歌った和歌も
多く残されているのです。
その中で好きな和歌をひとつ。

紅の初花染めの色深く思ひし心我忘れめや
(現代語訳)
紅花の、初花で染めた色のように心に深く染められたこの恋を私が忘れることがあるでしょうか。(いいえ、忘れられるわけないのです。)
紅花染めの紅の色は
染めるまでに重ね染めを繰り返し、そして深い深い色へとなっていく。
そこから強い想いが感じられます。
心から愛した相手との、痛く悲しいお別れだったのでしょうか。
忘れることがあるのでしょうか‥
の疑問の後に
(いいえ、忘れられるわけがないのです。)
と反語が隠されています。
「 忘れられるわけがないのです。」
この後に続く言葉があるとしたならば
どんな言葉を添えるでしょうか。
(忘れられるわけないのです。)
もう二度とあなたにお会いすることが
なかったとしても‥。
(忘れられるわけがないのです。)
あなたがわたしを忘れてしまったとしても‥。
どれだけ深く染まった想いも
相手の気持ちが離れてしまえば
終わってしまう恋もある。
それでも自分の心から消すことは難しく
どんなに関係性が変わってしまったとしても
本当に大切に想っていた人を
簡単に忘れることなどできないのです。
そして忘れる必要もないのです。

五月も終わりに近づいていますね。
一日一日‥本当にあっという間に
過ぎてしまい
そして忙しい日々の中では
この時間が無限に続くような気がしてしまう。
でも時間は決して無限ではなく
有限なのです。
限りあるこの時を‥
この毎日をどうか皆さま
そしてわたし自身も
大切に‥大切に‥。

七十二候の記事に使用している
写真はすべてphotoACからのものになります。