古賀菜美子

不思議系小説が好きです。 2023年掛川百鬼紀行第二幕入選「しちくな商店街」

古賀菜美子

不思議系小説が好きです。 2023年掛川百鬼紀行第二幕入選「しちくな商店街」

最近の記事

【短編ホラー】Speaker

 午前二時をお伝えします。深夜放送のお時間です。  タイトルコールも音楽も無いと調子狂うな……。えーっと、気を取り直して、本日のお相手は私、ヤギサワアキラ。  さて日増しに暑くなってきていますが、夏といえば真っ先に思い浮かぶものは何ですか?   人によっていろいろあるでしょう。でも、私とリスナーの皆さんが共有できるものといったらこれしかありませんよね。怪談。  怪談と一口に言っても、いろんなのがあるんですね。最近ではご当地怪談なんてのもあるようです。  ここでリスナーの

    • 【掛川百鬼紀行第二幕入選作】しちくな商店街

      掛川百鬼紀行第二幕 小説部門 入選作 運営の方の対応が真摯かつ丁寧で、素敵なコンテストでした! 当日のハロウィンイベントには参加できませんでしたが、貴重な経験でした。 「あの、ちょっといいですか」  背後から声がかかった時、私は密かに待ってました、と思った。 「ええ、なんでしょう」  振り返ると予想通り三人の女の子が立っていた。 「ななきゅうのうだい? にはどう行けばいいんですか? マップだとこの先真っすぐってなってるんですけど」 「それ、しちくなって読むの。七久納台。地図

      • 【サイコサスペンス】誰がための死に花(1/3)

        あらすじ  SNSで集められた自殺志願者十七人が毒を飲まされた上、刺し殺された。犯人は占い師の女、椿。彼女もまた生きたまま斬首という方法で凄惨な自殺を遂げた。  何が一人の女を大量殺人鬼へと変えたのか? そこには一人の男の姿が──  副業として占い喫茶で働いていた椿は、客として訪れた片桐という男と出会う。真面目で軽薄で鋭くて危うい彼に惹かれていく椿。椿を気に入ってひいきにする片桐。  しかし、ある日突然片桐が自殺。調べ始めた椿は状況や理由に不審を覚える。片桐の影を追い求め

        • 【サイコサスペンス】誰がための死に花(2/3)

          二、椿死亡一年半前から    結局、貸したカードが返ってくることはなかった。借りた本人が死んだのだ。自殺だという。椿はあれから二週間後の朝、適当に流していた情報番組で知った。倒れたコップから流れ出た牛乳がテーブルに広がり、床へ滴るのも構わず画面に食い入った。  死者の名前もテロップの地名も、彼のデータと一致していた。死んだのは数日前、発見者は連絡がつかないのを不審に思った交際相手。現場には「疲れました。もう耐えられません」のような短いメモが残っていた。アナウンサーが淡々と告げ

        【短編ホラー】Speaker

          【サイコサスペンス】誰がための死に花(3/3)

          四、椿死亡三か月前から    死に深く関わった者には、特別な匂いが染みつくのだろうか。SNSで見つけた死にたがりにメッセージを送ると、彼らの多くはすぐに心を開いた。おつらいですね、という椿の片手間のコメントに、長文の泣き言が返ってくる。ユーザー名は本名を一文字変えて〈ツバサ〉。  また、ひとたび一線を越えてしまうと、初めて程抵抗を覚えなくなるのだろうか。あれから椿はさらに二人を死に追いやっていた。  一人目は中年の女。塞ぎ込んだ様子で大切な人を失ったと言った女は、相手の詳細

          【サイコサスペンス】誰がための死に花(3/3)

          【ホラーミステリー】僕らと祭壇の夏(1/3)

          あらすじ  前世の記憶を持つ中学二年生の彰吾には二人の従兄がいる。優秀だが女運のない遼一と、気さくで変わり者の恭二。   親戚で集まった帰り道、ひょんなことから彰吾は幼い頃自宅に奇妙な祭壇があったことを思い出す。だが両親を問いただしてもはぐらかされるばかり。不審に感じた彰吾は恭二に知恵を求める。それが自身の出生と、親や従兄たちのおぞましい秘密につながっているとも知らず……。  祭壇に宿る力と因縁を知った彰吾は、従兄とある取引をする。ほどなく一つの死が。  悔恨と怨恨にまみ

          【ホラーミステリー】僕らと祭壇の夏(1/3)

          【ホラーミステリー】僕らと祭壇の夏(2/3)

          「端的に言うとね、彰吾の『前世の記憶』は、実は元君の記憶なんだよ。そう考えると辻褄の合うことも多いでしょ。死因とか、享年とか」 「合うけどさ、どうやって『はじめ』の記憶をこっちに移すっていうのさ」 「どうやると思う?」  恭二はすっかりこちらの反応を楽しんでいるようだった。だが、その表情から真意や意図のようなものは読み取れない。僕は苛立った。自然とそれは口調に現れていた。 「知らねえよ。脳移植とか? っていうか、祭壇の話は?」 「ここで祭壇が出てくるんだよ。あの祭壇は確か

          【ホラーミステリー】僕らと祭壇の夏(2/3)

          【ホラーミステリー】僕らと祭壇の夏(3/3)

           あの日、恭二(中身は遼一)はこう言った。 「遼一、まあ中身は恭二なんだけど。とにかくあいつが死んだら、母はきっと俺とあいつを入れ替えようとする。だから、もしそうなったら元に戻してほしい」  そして、細かい手順を紙にまとめつつ教えてくれた。やや回りくどい方法だったし、そもそも伯母さんがまた息子の入れ替えを企むかも怪しかった。でも、僕は昨晩、今日とそれに沿って行動してきた。結局、伯母さんは祭壇を取りに来たし、入れ替えも行われた。  通夜で会った恭二が「家族同士で集まった日以来会

          【ホラーミステリー】僕らと祭壇の夏(3/3)

          【短編小説】初恋葬送

          あらすじ 中学三年生の初夏、私は初恋を知った── 「私」は塾で他校の同級生に一目惚れをする。話しかけたりアプローチしたりする勇気はなく、ひっそり見つめて情報を集める日々。彼の新しい一面に触れたり、自分の心の揺れに気づいたりするたびに膜がはがれていくような濃密な時間。しかしささやかな幸せは卒業とともに断ち切られる。 彼と離れた後もふとした瞬間にその面影を探してしまう。そうして十年が経ち、人生の岐路を迎えた「私」は始まりすらしなかった初恋を終わらせるためにある決意をする。 一

          【短編小説】初恋葬送