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美術せんにんの記録

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#展覧会

シンプルだからといって無我ではない~「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」

シンプルだからといって無我ではない~「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」

東京ステーションギャラリーで開催中の「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」に行ってきた。

「コンランショップ」という言葉は聞いたことあったけど、その実態は特段知っていたわけではなく。楽しめるかどうか、少々心配だったのだが。。

テレンス・コンランは、単なるセレクトショップの創立者なわけではなく、インテリアデザイン・建築・レストラン・書籍などの壮大なる「コンラン帝国」を築き上げたマ

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殿様やるじゃん~根津美術館「百草蒔絵薬箪笥と飯塚桃葉」

殿様やるじゃん~根津美術館「百草蒔絵薬箪笥と飯塚桃葉」

ピンポイントでマニアなテーマな展覧会だと思っていたが、足を運んでみると意外や意外、新たな発見があったりして面白い、ということがあるのでなかなか見逃せないものである。今回もまさにそんな展覧会。

蜂須賀家に仕えたという蒔絵師・飯塚桃葉。
この人のことは知らなったが、その蒔絵の技術は確かなものであることは、素人目にもよくわかる。件の薬箪笥だけでなく、笛や印籠なども多く展示されていてそれだけでも見応え十

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最後にまた教えられた~出光美術館「トプカプ宮殿博物館 名宝の競演」

最後にまた教えられた~出光美術館「トプカプ宮殿博物館 名宝の競演」

出光美術館が年内の展覧会を最後に長期休館に入る。
今の美術館での最後の展覧会が「トプカプ宮殿博物館名宝の競演」である。

オスマン帝国は言わずと知れたイスラム教の国家。宗教国家とはいえ、その宝物はかなりゴージャス。まあキリスト教も同じようなものだから、それとこれとは別ものか。
かの国のキラキラ(ギラギラ?)した宝石をちりばめた工芸品を観ていて、そういえば日本の工芸品は金箔や螺鈿はふんだんに使われる

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常連さんいらっしゃい~「改組 新 第11回日展」

常連さんいらっしゃい~「改組 新 第11回日展」

自分としては通い出して5回目の日展。
眼にとまる作品が、だいぶ固定化されつつあるのだが、新たな作家の作品に出会えるだろうか。。

こうしてみるとチラシも微妙に変わってきているのが分かる・・・

日本画部門

桜と柳を対峙させた、古典的なモチーフを画面いっぱいに描きこんだ作品。一見清々しさを感じるのではあるが、よくよく見ると柳の枝のうねりがなんとも禍々しくも映る。

こう見えても日本画だという。。改

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点描画が増えてきた!?「改組 新 第10回日展」

点描画が増えてきた!?「改組 新 第10回日展」

芸術の秋ということで、今年も日展の季節になった。
さて、今回はどんな素晴らしい作品に出会えるか。

日本画部門

この方は3回連続。特徴的な画風なので、すぐ目に留まってしまう。もはや殿堂入りか。加山又造っぽいところがあるので、琳派のように金箔・銀箔をふんだんに使った作品も見てみたい。

花の絵は、日本画の伝統を踏襲しているのだが、色の重ね方で奥行きを出しているところが印象的。色も重くならずに軽さが

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線が躍動している~五島美術館「古今和歌集を愛でる」

線が躍動している~五島美術館「古今和歌集を愛でる」

大型連休中はちょいと都心から離れた美術館へ。二子玉川にある五島美術館に訪れた。でもここもそこそこ混んでいたけれど。

ここが所蔵する書の作品は実に名品揃いなのだ。
まず出迎えてくれたのがこちら。

線は全体的に細めでところどころ太い箇所がアクセント。うねりも乏しいがそれが故に上品でまとまった印象を与えてくれる。このまとまり加減がとても好きなのである。

そして自分が一番好きなのが、三蹟の一人である

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淡い色彩の裏には強い信念あり?~Bunkamuraザ・ミュージアム「マリー・ローランサンとモード」

淡い色彩の裏には強い信念あり?~Bunkamuraザ・ミュージアム「マリー・ローランサンとモード」

マリー・ローランサンというと、ずいぶん昔まだ美術鑑賞し始めたころによく目にした画家のひとりというのが自分の印象。その後はあまり展覧会では目にすることが多くなかったのはなぜだろう。狂乱の時代のパリで活躍した画家たちの一人なのだが、フジタ、ピカソ、モディリアーニなどと比べるとなぜか影が薄い気がする。

あの特徴的な淡い色彩が、なんとなく乙女趣味で当時のパリの雰囲気にもそぐわない気がして、自分の中でもど

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疲れた頭を癒す眼福~東京国立近代美術館「MOMATコレクション」

疲れた頭を癒す眼福~東京国立近代美術館「MOMATコレクション」

ゲルハルト・リヒター展鑑賞後、もう一つの楽しみが常設展であるMOMATコレクション。
今回出会えた、お気に入りを紹介していきたい。

国吉康雄、好きなんだよなあ。
若くしてアメリカに渡り、一時はアメリカの美術界の第一人者にも昇り詰めるが、太平洋戦争勃発が彼の活動に影を落とす。本作はそんな頃の作品なのだが、彼の心情が投影されて物語性に富んだ見ごたえのある仕上がりとなっている。

国吉が苦悩していた数

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ただ「見る」そして「己に問う」~東京国立近代美術館「ゲルハルト・リヒター展」

ただ「見る」そして「己に問う」~東京国立近代美術館「ゲルハルト・リヒター展」

東京国立近代美術館で開催している「ゲルハルト・リヒター展」へ行ってきた。当人のリヒターは御年90歳、いまだ現役の現代美術の巨匠である。
自分自身、苦手な現代美術であるが、現代美術のポイントを以前学んだこともあり、作品に向き合ったときにどう受け止められるかを確認する意味でも足を運んだ。

↑でも紹介したとおり、現代美術(の多く)は、描き出されたものがら自体に意味はない。それは一切の具体性を排除し線や

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日常に潜む不安定さ~「牧歌礼讃/楽園憧憬」

日常に潜む不安定さ~「牧歌礼讃/楽園憧憬」

5月も半ばを過ぎ、バラでも愛でに行こうと思った矢先の大雨。
急遽行先を変更して訪れたのが、東京ステーションギャラリー。正直あまり期待していなかったのだが。
「牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児」

いやいや、ここの美術館の学芸員の眼力には恐れ入る。危うくこんな素晴らしい展覧会を見逃すところであった。

もともとは海外美術館からの借り入れを想定していた展覧会が、コロナ禍で見送りとなっ

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自分の絵画鑑賞の(ほぼ)原点~松岡美術館「松岡コレクションの真髄」

自分の絵画鑑賞の(ほぼ)原点~松岡美術館「松岡コレクションの真髄」

この度約2年半の改修期間を終えて、再開館した松岡美術館に行ってきた。

展示の様子はこちらの動画でよく分かるだろう。

自分にとって松岡美術館はとても思い出深い美術館である。
美術鑑賞を始めるようになったばかりでまだ鑑賞のポイントも全く分かっていなかった頃、よくこの美術館に足繫く通ったものだ。

今回の展示にはなかったが、西洋美術のコレクションも充実しているのでだ。特に印象派とエコールドパリと言わ

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言われてみればセザンヌらしさも~山種美術館「奥村土牛」

言われてみればセザンヌらしさも~山種美術館「奥村土牛」



山種美術館ファンであれば誰もがその作品を目にしたことのある奥村土牛。
今回彼の個展であったが、改めてみるととても新鮮な発見があった。

彼は若いころ当時の師匠に買い与えられたセザンヌの画集を見て、強く影響を受けたという。
そう言われてみると、特に若いころの作品に色濃く表れているように見えた。

「雨趣」(1928年・39歳)
建物と緑とが、とても堅牢に画面を構築している。雨を主題としていること

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この画家を知れた喜び~平塚市美術館「物語る 遠藤彰子展」

この画家を知れた喜び~平塚市美術館「物語る 遠藤彰子展」



同時代にこんなスケールの大きな日本人作家がいたとは。
ほんとに「オラ、わくわくすっぞ!」である。
なんのこっちゃ。。

遠藤彰子という画家をご存じだろうか。

ご本人のサイト、とても親切で過去の作品を多くアーカイブして下さっている。これはこれで眼福なのだが、彼女の作品はこれだけでは足りない。
最大1500号!という巨大な作品を目の前にして、文字通り平衡感覚が揺らぐ体験をしてこそ

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出品作の傾向が変わった?~「改組 新 第8回日展」

出品作の傾向が変わった?~「改組 新 第8回日展」

毎年の楽しみにしている展覧会。数えると今回で5回目の訪問。
特に親戚・友人で出品しているわけではないけど。
さあ、今年はどんな優品に出会えるか。

昨年の記事はこちら。

まずは個人的殿堂入りの方から。

福田季生「春爛漫」(日本画)
昨年は残念ながら出品されていなかったのだが、今年はお目見えできた。
他の作品と比べるとその完成度に目を瞠るばかり。惜しむらくはこの方の個展が関西中心のため、普段見に

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