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読了した作品の感想記事を書きます。作家が作品に込める哲学、思想、主義などを出来る限り汲み取ろうと努めています。ご覧になる方にとって、作品と出会う切っ掛けになれば幸いです。

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  • シェイクスピア作品感想リスト

    シェイクスピア作品の感想をまとめました。気になる作品があれば、ぜひご覧ください。

  • 名刺がわりの小説10選

    「名刺がわりの小説10選」の感想記事をまとめたページです。気になる作品を選んで読んでみてください。

最近の記事

『黄金の壺』エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 1789年、フランスの封建社会に確立したアンシャン・レジーム(旧制度)に締め付けられていた市民階級は、「自由、平等、平和」を掲げて王権や貴族などの支配者層に対して、武装蜂起して市民革命を起こしました。このフランスで起こった革命は、ナポレオン・ボナパルトという新たな支配者を確立して近隣諸国へと勢力を拡大していきました。ドイツはライン川の左岸から順にナポレオンに取り込まれていき、イギリスからフランスへと流入していた産業発展の

    • 『犬と独裁者』鈴木アツト 感想

      こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 1917年の十月革命より、ロシアではレーニンが導くボリシェヴィキが独裁を実現させ、世界最大の社会主義政権であるソヴィエト連邦が発足しました。このときにレーニンの片腕であったヨシフ・スターリンが書記長となり、その後、レーニンから権力を継承する形でソ連の独裁的権力を握りました。「一国社会主義論」を掲げるスターリンと、「世界革命論」を主張するレフ・トロツキーが、共産党の主導権を争って国政を不安定にさせていましたが、スターリンは

      • 『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ 感想

        こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 ジョゼ・サラマーゴ(1922-2010)は、ポルトガルのリスボン北東部にある寒村の農家の息子として生まれました。貧困に苦しむ一家は首都リスボンへ移住しますがそれでも苦しい生活には変わりなく、家を間借りするような暮らしでした。幼少期から文学を愛していたサラマーゴは、公立の図書館へ足繁く通い、古典文学を中心に読み続けて文芸性を養っていきます。幾つもの職を経てジャーナリストとして落ち着いた彼は、持ち前の文才で活躍し、日刊紙「デ

        • 『大衆の反逆』ホセ・オルテガ・イ・ガセット 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 第一次世界大戦争後、1920年のスペインでは、植民地として支配していたモロッコ北岸の反乱にあい、リーフ戦争が起こっていました。リーフの名家アブデル=クリムが率いる被支配者たちの軍勢は、スペイン軍を打ち破って独立を勝ち取ります。しかし、フランスの将軍フィリップ・ペタンとスペインは手を結び、大軍で攻め寄せてリーフを奪回します。この戦いで大きく名を揚げたのがスペインの将軍フランシスコ・フランコです。スペインではブルボン朝の立憲

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        • シェイクスピア作品感想リスト
          26本
        • 名刺がわりの小説10選
          10本

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          『白鳥の首のエディス』「ルパンの告白」モーリス・ルブラン 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 モーリス・ルブラン(1864-1941)は海運通商で成功を収めた父親と、染色業で成功した家庭の娘である母親とのあいだに生まれました。幼いころより非常に裕福な生活にあり、不自由なく学業を進めて成長していきます。彼が生まれる分娩に立ち会ったのがルブラン家のかかりつけ医であるアシール・フローベールで、あの写実主義作家ギュスターヴ・フローベールの兄でした。また、彼には姉と妹がいましたが、妹はオペラ歌手のジョルジェット・ルブランで

          『白鳥の首のエディス』「ルパンの告白」モーリス・ルブラン 感想

          「春と修羅」宮沢賢治 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 明治から昭和にかけて、伝統的な「定型詩」では表現できない個人の感情を自由に表現するため、日常的に用いられる言葉を使用した「自由詩」が生み出され、世に多く広まりました。島崎藤村、北原白秋、石川啄木、高村光太郎など、多くの詩人が活躍し、現代でもその作品群は愛されています。『注文の多い料理店』、『銀河鉄道の夜』、『風の又三郎』などの作品を中心に童話作家として広く知られている宮沢賢治(1896-1933)も、この近代詩人と呼ばれ

          「春と修羅」宮沢賢治 感想

          『永遠平和のために』イマヌエル・カント 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十八世紀の啓蒙時代を代表する哲学者イマヌエル・カント(1724-1804)はプロイセン王国ケーニヒスベルクで生まれ、生涯のほとんどをその地で過ごしました。ルター派の敬虔主義的な家庭で育ち、その教えを基盤とした寄宿学校へと通います。ラテン語、宗教学、哲学などが基本の授業に組み込まれ、人生の早い段階で思想というものに触れることになりました。当時の西洋では「哲学」に関して現代ほどの理解が及んでおらず、政治や軍略を重視する国の姿

          『永遠平和のために』イマヌエル・カント 感想

          『園丁』ラドヤード・キプリング 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 キプリングはその短篇の多くにおいて超自然的なものに接近しているが、それはポーの短篇とはちがって、徐々に明らかになるといった底のものである。本巻のために選んだ短篇のうちで、おそらく私がいちばん心を動かされるのは『園丁』である。その特徴のひとつは作中で奇跡が起こることにある。主人公はそのことを知らないが、読者は知っている。状況はすべてリアリスティックなのに、語られる話はそうではないのだ。 J・L・ボルヘス「序文」より 英

          『園丁』ラドヤード・キプリング 感想

          『パルプ』チャールズ・ブコウスキー 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 バーと競馬場に入りびたり、ろくに仕事もしない史上最低の私立探偵ニック・ビレーンのもとに、死んだはずの作家セリーヌを探してくれという依頼が来る。早速調査に乗り出すビレーンだが、それを皮切りに、いくつもの奇妙な事件に巻き込まれていく。死神、浮気妻、宇宙人等が入り乱れ、物語は佳境に突入する。 チャールズ・ブコウスキー(1920-1994)は、ワイマール共和政時代のドイツで生まれました。父親はドイツ系アメリカ人で、第一次世界大

          『パルプ』チャールズ・ブコウスキー 感想

          『蟹工船』小林多喜二 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 秋田で貧しい小作農を営んでいた両親のもとで、小林多喜二(1903-1933)は生まれました。伯父が小樽で工場などの事業を成功させると、彼が苦労を掛けていた多喜二の両親に安定した生活を提供するために小樽へと招きます。移り住んだ四歳の多喜二は、伯父の工場に勤めながら商業学校へと進みます。この頃に志賀直哉の作品に触れて耽溺し、彼の持つ文芸性を大きく刺激して、多喜二は積極的に自ら執筆を行っていきます。傾倒していた志賀直哉の影響を

          『蟹工船』小林多喜二 感想

          『蜘蛛女のキス』マヌエル・プイグ 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 アルゼンチン国土の中心部、パンパの広がるブエノスアイレス州のヘネラル・ビジェガスという地で、作家マヌエル・プイグ(1932-1990)は生まれ育ちました。裕福ではありませんが中流階級に生まれた彼は、母親の趣味に合わせて幼少期から映画館へ足を運ぶようになります。わずか三歳にして映像のなかに見える「美」に目覚め、美しく着飾った銀幕の女優に憧れを持つようになります。この憧れは彼の持っていた性的なアイデンティティを強く刺激して、

          『蜘蛛女のキス』マヌエル・プイグ 感想

          『喪服の似合うエレクトラ』ユージン・オニール 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 ユージン・オニール(1888-1953)は、アイルランド系アメリカ人の舞台俳優ジェイムズ・オニールの子として生まれました。「モンテ・クリスト伯」で一世を風靡した父は、人気を保ちながらツアーを行い、実に六千回以上もの興行を成功させました。オニールはこの巡業に合わせて、各地をまわりながら幼少期を過ごします。カトリックの寄宿学校を経てプリンストン大学へと進学しましたが、勉学に熱は入らず、異性との交友と酒を呷ることが日常となり、

          『喪服の似合うエレクトラ』ユージン・オニール 感想

          『若草物語』ルイザ・メイ・オルコット 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 キリスト教プロテスタントにおいて、信者たちに最も読み継がれ、最も影響を与えてきた模範的信者が描かれている寓話『天路歴程』は、新大陸アメリカへと渡ったピューリタンたちによって新天地でも広められ、新たな社会でも強い影響を持っていました。ニューイングランドに移り住んだ貴族もまた、これを愛読し、家庭における思想の形成に役立てました。アメリカ独立戦争を経て、アメリカという国が成り立ち、広大な南部奴隷プランテーションによって利潤を得

          『若草物語』ルイザ・メイ・オルコット 感想

          『夏への扉』ロバート・アンスン・ハインライン 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 科学の進歩によって膨大な規模となった第二次世界大戦争は、空想でしか思い描くことがなかった恐ろしい荒廃の広がる戦禍を齎しました。人々に与えた恐怖は、その物理的被害だけではなく、戦禍を生み出した全体主義やファシズムそのものが持つ危険性も明るみにしました。このような現実は娯楽的存在であったサイエンス・フィクションという文学区分に強い影響を与え、「思想」を盛り込んだ濃度の高い文学作品を次々と世に発表していきます。非現実として切り

          『夏への扉』ロバート・アンスン・ハインライン 感想

          『アテネのタイモン』ウィリアム・シェイクスピア 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 アテネの繁栄に助力した資産家タイモンは寛大な心で人々に接し、毎日を盛大な晩餐で隣人を招き、多くの人々の望みを叶えて互いに満足していました。もてなすタイモンは、隣人として、または友人として多額の金を振る舞い、周囲には人情の人として知られて持て囃されていました。その行いが当たり前のように民衆には認知され、やがて見返りを求めて様々なものを売り付けようとする者が群がってきます。詩人は詩を、画家は絵画を、宝石商は首飾りをといった具

          『アテネのタイモン』ウィリアム・シェイクスピア 感想

          『シンベリン』ウィリアム・シェイクスピア 感想

          こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 古代ブリテンの国王シンベリンには二人の王子と一人の美しい娘がいましたが、後妻を迎えたころに幼い王子たちは失踪して行方不明になりました。世継ぎの問題もあり、一人娘のイノジェン(イモージェン)の婚姻に関しては後妻の息子クローテンと結び付けようと考えていましたが、彼女は密かに愛情を育んでいた紳士ポステュマスと既に契りを交わしていました。これを認めるわけにはいかないシンベリンはポステュマスを追放し、引き離したイノジェンとクローテ

          『シンベリン』ウィリアム・シェイクスピア 感想