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17. Ability, motivation and opportunity: managerial coaching in practic
Grace McCarthy, Julia Milner
Asia Pacific Journal of Human Resources, 2020, Volume 58, Pages 149–170
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要約
この論文は、オーストラリアの580名のマネージャーを対象とした調査を基に、マネージャーによるコーチング実践(Managerial Coaching)の現状と、その成果や課題を検証しています。調査は「能力(Ability)」「動機付け(Motivation)」「機会(Opportunity)」の3要素からなるAMOフレームワークを用いて実施されました。
AMOフレームワークについて
AMOフレームワークは、「能力(Ability)」「動機付け(Motivation)」「機会(Opportunity)」の3要素で構成され、HR管理や組織行動の研究で広く使われているモデルです。このフレームワークは、従業員が高いパフォーマンスを発揮するために、以下の3つの要因が満たされるべきであるとしています。
AMOフレームワークの各要素
能力(Ability)
個人が必要なスキルや知識を持ち、それを活用できるかどうか。
本論文では、マネージャーがコーチングを実践するために必要な観察力、傾聴力、質問力、目標設定、フィードバックといったスキルが重要であると強調されています。
例: コーチングトレーニングの提供や実務に即したスキル開発。
動機付け(Motivation)
個人がコーチングを実施する意欲を持っているかどうか。
本研究では、マネージャーが部下の成長を見る喜びや、部下のポジティブな変化を通じて得られる満足感が、コーチングへの強い動機付けになると指摘されています。
例: コーチングの効果を可視化し、成功事例を共有することでモチベーションを高める。
機会(Opportunity)
コーチングを実践するための環境や機会が整っているかどうか。
本論文では、マネージャーが時間的制約や組織のサポート不足によってコーチングの実践が妨げられることがあると指摘されています。
例: コーチングを行う時間の確保、コーチングを支援する文化やシステムの整備。
この論文では、マネージャーによるコーチングの実践状況を調査するために、オーストラリアの企業でオンライン調査が実施されました。以下に具体的な調査の内容を説明します。
調査の目的
調査は以下の3つの研究課題に焦点を当てました:
マネージャーが職場でどのようにコーチングを実践しているか(実践方法)。
マネージャーがコーチングを行う動機は何か(動機付け)。
マネージャーがコーチングの機会をどのように活用しているか、または活用しない理由は何か(機会の活用)。
調査対象
対象者:
オーストラリア国内の一般マネージャーとHRマネージャーを対象に実施。
調査対象は、少なくとも200名以上の従業員を雇用している企業に属する管理職者。
(規模の大きな企業でコーチングの実践が行われる可能性が高いため)回答者:
招待メールを送信した約8834名のうち、580名(6.6%)が回答を提出。
調査方法
調査形式:
オンライン調査を使用し、自由回答と選択式質問を組み合わせた形式。自由回答部分では、具体的な経験や感想を述べてもらう形式。
選択式では、コーチングの頻度や使用スキル、目的などを選ぶ形式。
質問例:
マネージャーとしてどの程度コーチングを行っていますか?(頻度)
コーチングスキルとしてどのような行動を取っていますか?
コーチングを行う際に直面する課題は何ですか?
コーチングを通じて経験したポジティブな成果について教えてください。
データ分析:
回答データはExcelおよび質的分析ツール(NVivo)を用いて解析されました。質的分析: テーマ別に回答を分類し、AMOフレームワーク(能力、動機付け、機会)に基づいて整理。
定量的分析: 頻度や傾向のパターンを抽出。
主な調査結果
コーチングの頻度:
回答者の94%が部下へのコーチングを実践していると回答。
73%のマネージャーは少なくとも週1回以上コーチングを行っている。
使用スキル:
マネージャーの90%以上が「傾聴」と「質問」を重要なスキルとして挙げた。
78%がコーチングを通じて目標設定を行っている。
動機:
部下の成長や成果を見ることが、マネージャーにとって大きな満足感を与えている。
「喜び」や「幸せ」という強い感情的な言葉が多く使われていた。
課題:
主な課題として「時間の不足」や「マネージャーの他の役割とのバランス」が挙げられた。
権限や信頼性に関する問題(例: 部下がコーチングを疑念視すること)が指摘された。
AMOフレームワークの適用におけるポイント
統合的なアプローチ:
単一の要素を強化するだけでは不十分であり、3要素をバランスよく満たすことが重要です。例えば、スキル(能力)を持っていても、動機付けや機会がなければコーチングは実践されません。HR部門の役割:
本論文では、HR部門がマネージャーにコーチングスキルを提供し、モチベーションを高める支援を行うと同時に、適切な機会を創出する役割を果たすべきだと提言されています。
実務への応用例
能力の開発:
定期的なトレーニングプログラムを提供し、マネージャーが実務で必要なスキルを習得する支援を行う。
動機付けの向上:
成功事例を共有するイベントや、コーチングを行ったマネージャーに対する評価・報酬を導入する。
機会の提供:
コーチングの時間を組織として確保し、優先順位を明確にする。
コーチング文化を育むために、全従業員にコーチングの意義を教育する。
AMOフレームワークは、マネージャーによるコーチングが効果的に実施され、組織全体のパフォーマンスが向上するための実践的なガイドラインを提供する重要なツールです。本論文では、このフレームワークを通じて、マネージャーのコーチングがいかに促進されるべきかについて具体的な洞察が示されています。
主な発見:
マネージャーは定期的に部下をコーチングし、その結果、個人の成長や信頼関係の強化といった成果が得られている。
コーチングを行うことで部下の革新性や変化への準備が向上する。
時間不足や役割の複雑さが、マネージャーによるコーチング実践の障害となることがある。
研究では、マネージャーが感じるコーチングの満足感や、従業員との関係改善が、コーチングを続ける強い動機付けとなることも明らかにしています。
要約のまとめ
この研究は、マネージャーによるコーチングが従業員と組織に与えるポジティブな影響を強調しています。同時に、コーチングの成功には、十分な時間、適切なトレーニング、および企業文化が重要であることが示されています。
大事なポイント
マネージャーによるコーチングの利点
部下の成長を見守ることで得られる「喜び」と個人的満足感。
部下の変化への対応力や革新性の向上。
信頼関係の強化と組織の生産性向上。
課題
時間的な制約や他の役割との兼務による負担。
マネージャーのスキル不足や役割の不明確さ。
実務への示唆
HR部門は、マネージャーにコーチングスキルを教えるトレーニングを提供する必要がある。
コーチングの実践を支える企業文化を醸成し、時間的・心理的サポートを確保することが重要。