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雨奈川ひるる | 短編小説
2024年5月21日 11:17
コトッ、昼食のタンパクサンドを食べ終え、庭でくつろいでいると、芝生に金属製の球体カプセルが降ってきた。見上げるといつもの赤い空が見え、飽きもせず太陽が輝いていた。僕が産まれる前は空は青かったらしい、とはいえ、金属が落ちてくるのは珍しいことだった。こういう時は、ダンの出番だ。ダンは僕の友達、そして、僕の家族。ダンは家の二階全フロアを自分の部屋として使っていた。僕の部屋は一階のこの庭に出入りしやす
なみきかずし
2019年6月10日 22:31
公園のしげみの裏に座りこんで、だんごむしをころして遊んでいた。それを父親に見つかったとき、彼は、「かみさまのところへ返してあげたんだ。えらいね。」とぼくの頭をなでて微笑んでくれた。「ぼく、えらいの?」「そうだ、きみはヒーローだ。」彼は、ぼくが小学生になるころには、もう家からいなくなっていた。 ***ある日、おなじ行為を目にした母親は、こわい顔をしてぼくに怒った。「そ
説那(せつな)
2024年2月12日 10:53
「それ、本気で言ってる?」女の言葉に、男は肩をすくめる。「嘘みたいな話だけど、本当だし、本心から言ってる。」女は口を噤んで、考え込む仕草を見せた。「無理に、とは言わない。」「・・でも、このまま断ったら、私はあと3ヶ月、ずっと気になってしまうし、張元くんが嘘を言うとも思えないんだよね。」女は、はぁっと深く息を吐く。張元と呼ばれた男は、その様子を見て、心配そうに「すまない。」と
秋
2024年2月13日 19:18
今日はありがとう。楽しかったです。 書いているのは前日だけど、楽しかったに決まっているので。貴重な休日を私にくれてありがとう。 いまね、大学のカフェでこの手紙を書いているの。あと少しで卒業かと思うと、時の流れの速さにびっくりしてしまいます。あなたと出会ってからもうすぐ4年。あっという間でしたね。 あなたがこれを読んでいるということは、もう会わないと私から伝えることができたのでしょう。そのつ
寝袋男
2024年1月31日 18:02
それは、中年の痩せた男が大木に背中を預け、立っている様な絵だった。何故"立っている"ではなく、立っている"様"なのかと言えば、その男が既に死んでいるからだ。題名は『遺体』。その男の胸にはナイフが深く突き刺さっており、そこから赤い筋が白いシャツの裾に向かって流れ、ズボンにまで伸びている。シャツの上に描かれた顔には絶望からの弛緩が見て取れた。静的だが、インパクトのある絵だ。嫌に生々しく、リアリティ
並木 一史
2021年12月10日 07:00
せまいアパートの一室で。瞳から成って、頬を伝い、顎の先から、透きとおったようなその一粒が、落ちる。あの時、瑞葉が言ったとおりの方法で、いま、ぼくは精神と生活から解き放たれようとしている。神さまなんて信じていなかった、あの時。***「辛いことがあった時はね、自分のためではなくて他人のために哀しんで、他人の幸せを祈るようにして涙を流すの」「なんで、そんなことを?」瑞葉は、こうして不意に