マルセル・モースの『贈与論』:贈与交換の社会学
こんにちは!
「noteの本屋さん」を目指している、おすすめの本を紹介しまくる人です!
今日はいつもと形を変えて、マルセル・モースの贈与論をリサーチ風に徹底考察してみました!
ですます調だと長すぎるので、論文のように「である」で徹底的に執筆しました。
では、はじめます。
はじめに
贈与は、人間社会における普遍的な現象である。
誕生日プレゼント、結婚祝い、お中元やお歳暮など、私たちは様々な場面で贈り物をする。
しかし、贈与とは単なる物のやり取りではない。そこには、社会的な関係性や文化的な意味が深く関わっている。
フランスの社会学者・人類学者であるマルセル・モースは、1925年に発表した論文『贈与論』の中で、贈与交換のメカニズムを分析し、それが社会の秩序や連帯にどのように貢献しているのかを明らかにした。
この記事では、モースの『贈与論』の内容を紹介し、その現代社会における意義について考察する。
マルセル・モースと『贈与論』
マルセル・モースとは
マルセル・モース(1872-1950)は、「フランス民族学の父」として知られるフランスの社会学者・人類学者である 。
エミール・デュルケムの甥であり、社会学と人類学の境界を越えた学際的な研究を行ったことで知られる。
モースは、世界中の異なる文化における魔法、生け贄、贈与交換といったトピックを分析し、特に構造人類学の創始者であるクロード・レヴィ=ストロースに大きな影響を与えた。
モースの民族誌的アプローチと歴史学的、社会学的、心理学的な文脈づけを組み合わせた研究方法は、レヴィ=ストロースの構造主義的な分析に大きな影響を与えたのである 。
『贈与論』とは
『贈与論』は、モースが1925年に発表した論文である。
この論文は、金銭を含む物の贈与やサービスの贈与などを中心とした給付という行為と、それに対する返礼としての反対給付という行為を主題としている。
モースは、ポリネシア、メラネシア、北米大陸北西沿岸地域などのいわゆる未開社会における贈与交換の事例を分析し、贈与交換が社会の秩序や連帯にどのように貢献しているのかを明らかにした。
モースが『贈与論』を執筆した背景には、当時の社会状況が大きく関わっている。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパでは資本主義経済が発展し、市場経済が社会のあらゆる領域に浸透していった。
こうした状況の中で、モースは、市場経済とは異なる原理に基づく社会のあり方に関心を抱き、贈与交換という現象に着目したのである 。
モースは、『贈与論』において、古代社会や未開社会における贈与交換の事例を分析することで、市場経済中心の社会とは異なる社会のあり方、そして人間関係のあり方を示そうとしたのである。
『贈与論』の主要な概念
モースは、『贈与論』の中で、贈与交換を成立させる3つの義務として、
(1) 与える義務、(2) 受け取る義務、(3) 返す義務
を挙げている 。これらの義務は、相互に関連し合い、贈与交換の循環を促すことで社会的な関係性を維持・強化する役割を果たしている。
贈与
モースは、贈与を「外見上は任意で打算のない自由意志による性格のものでありながら、実は拘束的で打算的な性格のもの」と定義している。つまり、贈与は一見自由な行為に見えるが、実際には社会的な義務や期待によって拘束されている。
贈与をすることは、社会的な関係性を構築し、維持するための手段なのである。
返礼
返礼は、贈与に対するお返しをする義務である。
モースは、贈与には贈与者の自己が込められており、その自己が返礼によって贈与者に戻ってくるという考え方を示している。
返礼をすることで、贈与者と受贈者の間の関係性が強化され、社会的な均衡が保たれる。
モースは、贈与交換における返礼の機能について、特に「返すこと」の重要性を強調している。
贈与は、返礼によってはじめて完結し、贈与と返礼の連鎖が社会的なつながりを生み出す。
これは、現代社会における市場経済的な交換とは異なり、贈与交換が社会関係の構築と維持に重要な役割を果たしていることを示している。
義務
モースは、贈与交換には3つの義務が伴うと述べているが、特に「返すこと」を重要視している。
返礼によって贈与の連鎖が生まれ、社会的な秩序が構成されていく。一方、「受け取ること」については、与え手に対して「負い目」や「負債」を抱くことになるというネガティブな面が強調されている。
贈与を受け取ることは、同時に負債を負うことを意味し、その負債を返済するために返礼をする義務が生じる。
この義務感は、社会的な関係性を維持するための重要なメカニズムであるが、同時に、過剰な義務感や不平等な関係を生み出す可能性も孕んでいる 。
全体的な社会的事実
モースは、贈与交換を「全体的な社会的事実」と捉えている。
これは、贈与交換が単なる経済的な行為ではなく、社会の様々な側面、すなわち政治、法律、宗教、道徳、審美など、が複雑に絡み合った現象であることを意味する。
贈与交換を通して、人々は社会的な関係性を構築し、社会的な秩序を維持するだけでなく、文化的な価値観や世界観を共有するのである。
『贈与論』の具体的な事例
モースは、『贈与論』の中で、様々な社会における贈与交換の事例を紹介している。
ここでは、その中でも特に重要な事例であるマオリ族のハウと北西海岸インディアンのポトラッチについて説明する。
マオリ族→ハウ
贈り物に宿る霊「ハウ」が、贈与と返礼の義務を生み出す。ハウは、元の所有者のところに戻りたがるため、贈り物を受け取った者は、それを他者に贈り、ハウを循環させる義務を負う。
北西海岸インディアン→ポトラッチ
部族の首長や有力者が、他の部族の人々を招待し、盛大な饗宴を催したり、貴重な財宝を贈ったりする儀式。競争的な贈与交換であり、より多くの財宝を贈ることで、権威や名声を高めることができる。
マオリ族のハウ
マオリ族は、ニュージーランドの先住民族である。
彼らは、贈り物に「ハウ」と呼ばれる霊が宿ると考えている 10。ハウは、贈られた物に宿り、元の所有者のところに戻りたがる性質を持つ。
そのため、贈り物を受け取った者は、それを他者に贈り、ハウを循環させる義務を負う。
ハウの循環は、マオリ族の社会における社会的な関係性や秩序を維持するために重要な役割を果たしている。
マオリ族のハウの概念は、贈与交換における霊的な側面を強調するものである。贈与は単なる物のやり取りではなく、霊的な力によって媒介され、社会的なつながりを生み出すという考え方は、現代社会においても重要なヒントを与えている。
北西海岸インディアンのポトラッチ
ポトラッチは、北アメリカ北西海岸の先住民が行う儀式である。
ポトラッチでは、部族の首長や有力者が、他の部族の人々を招待し、盛大な饗宴を催したり、貴重な財宝を贈ったりする。
ポトラッチは、競争的な贈与交換であり、より多くの財宝を贈ることで、首長や有力者は自らの権威を高めることができる。
ポトラッチは、贈与交換が社会的な階層や権力構造とどのように関わっているのかを示す好例である。
『贈与論』が現代社会に与える大切なヒント
モースの『贈与論』は、現代社会においても重要なヒントを与えている。
現代社会は、資本主義経済が支配的であり、貨幣による交換が中心となっている。
しかし、モースは、贈与交換は貨幣経済とは異なる原理に基づいており、人間社会における重要な要素であることを示した。
現代社会における贈与と社会の連帯性
現代社会においても、贈与は様々な形で行われている。
誕生日プレゼント、結婚祝い、お中元やお歳暮などの個人的な贈与だけでなく、ボランティア活動、寄付、慈善事業など、社会的な贈与も広く行われている 。
これらの贈与は、社会的なつながりを強化し、人々の幸福に貢献している。モースは、贈与交換が社会の連帯性を維持するための重要なメカニズムであることを示唆している。
現代社会においても、贈与交換の精神は、人々の相互扶助や社会的な結束を促進する上で重要な役割を果たしている。
贈与の重要性の再認識と現代社会の問題点
モースの『贈与論』は、現代社会において忘れられがちな贈与の重要性を再認識させてくれる。
贈与は、単なる物のやり取りではなく、社会的な関係性を構築し、維持するための重要な手段である。
現代社会においても、贈与交換の精神を取り戻すことで、より人間的な社会を築くことができるだろう。
しかし、現代社会における贈与交換は、必ずしも긍정的な側面だけを持っているわけではない。
モースの理論は、互酬性や義務を強調するあまり、社会的な格差や不平等を固定化してしまう可能性も孕んでいるという批判もある 。
結論
マルセル・モースの『贈与論』は、贈与交換という社会現象を分析し、それが社会の秩序や連帯にどのように貢献しているのかを明らかにした重要な著作である。
モースは、贈与交換には与える義務、受け取る義務、返す義務の3つの義務が伴い、これらの義務が相互に関連し合い、贈与交換の循環を促すことで社会的な関係性を維持・強化する役割を果たしていると論じた。
現代社会は、資本主義経済が支配的であり、貨幣による交換が中心となっているが、モースの『贈与論』は、贈与交換が貨幣経済とは異なる原理に基づいており、人間社会における重要な要素であることを示している。
贈与交換は、社会的なつながりを生み出し、人々の相互扶助や社会的な結束を促進する上で重要な役割を果たしている。
しかし、現代社会における贈与交換は、必ずしも肯定的な側面だけを持っているわけではない。モースの理論は、互酬性や義務を強調するあまり、社会的な格差や不平等を固定化してしまう可能性も孕んでいる。
モースの『贈与論』は、伝統的な経済学では捉えきれない、人間行動の社会学的・文化的な側面を明らかにした点で、大きな意義を持つと言える。
贈与交換という、一見非合理的な行動の中に、社会的な秩序や連帯を維持するためのメカニズムを見出したモースの洞察は、現代社会における人間関係や社会構造を理解する上でも重要なヒントを与えてくれる。
【編集後記】
本を全く読まない人が国民の6割を超え、本屋が倒産しまくっている現状を踏まえて、このnoteは「ひとりでも多くの人に本を読んでもらうこと」を目的として運営されています。ですので、全ての記事を無料で誰にでも読めるようにしており、有料記事は一切公開していません。
現状、記事のリンクから何かしらの商品を購入していただいたときの利益と、チップを送るからの投げ銭のみが制作費の収入源となっており、執筆者の自費で赤字運営している状態で、閉鎖するか悩んでいるのが現状です。もし次回の記事も読みたいという方がいたら、どちらかの方法で応援していただきますと幸いです。