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短編小説

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記事一覧

聖なる愛

「マリアを聖母たらしめた要素はなんだと思う」  晩秋の風のようにその声は冷え、微かに怒り…

股山
2年前
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追悼

 奈々ちゃんの夫が死んだ。十月の、空気が一段と冷えた日だった。  中学校からの友達の奈々…

股山
2年前
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喫茶店にて

 蓮水さんに出会ったのは蝉の声が降り注ぐ昼下がり、街角の小さな喫茶店だった。高松市の平均…

股山
2年前
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温室で育つ

 優子ちゃんがその言葉を発したとき、あまりに自然でなんでもないような口調だから「天気がい…

股山
2年前
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処女の幽霊

  部屋の中にはジョン・コルトレーンのインディアが流れていて、黄色めいた間接照明の光の中…

股山
3年前
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急ぐ

わたしは常に急いでいる。それはとてもつまらなくて、人によっては不快ですらあることだ。かつ…

股山
3年前
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優子ちゃん

「男の子に生まれたかったな」 優子ちゃんはそう言うと、頬を膨らませた。 「どうして?」 「だって、男の子ってずるいんだもん。わたし、男の子になったらしたいこと沢山あるの」 「何をするの?」 「まず、女の子を抱くの。柔らかいねって言いながら、優しく抱くの。もちろんたくさん触って、キスもするわ」 優子ちゃんの目はキラキラしていた。わたしは優子ちゃんの制服のスカートからのぞく白い太ももを見つめて、また視線を戻した。 「わたしだって、映画館でLサイズのコーラを頼んだり、夜にビールを飲

ふいに

 ふいに、という言葉がある。意味としては急に、突然に、といった具合で、脈略のない思いつき…

股山
3年前
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わたしの男

「ねえ」  高い女の声がした。鈴の鳴るような、か弱い女の声だ。恐れとも怒りともとれる微か…

股山
3年前
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可哀想な女

「持ちうる一番大きな武器で戦いなさい」というのは母の教えであった。  母は常に大きな槍を…

股山
3年前
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空っぽの彼氏

「わたしの彼氏、空っぽなの」  キコちゃんはアイスティーのグラスを揺らしながらそう言った…

股山
3年前
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