辞書surfing の試み|「なつかしい💗」は難訳語。
もくじ
はじめに「なつかしい」
1.難訳・和英口語辞典
2.国語辞典
3.漢和辞典
4.和英辞典
むすび「なつかしい」英訳試論
はじめに「なつかしい」
毎年、年を重ねているせいか、日常会話の中で「なつかしい」と言う機会が増えてきた。
学生時代を思い出して「なつかしい」。
昔のドラマを見て「なつかしい」。
かつて読んだ本を再読して「なつかしい」。
2、3日前の雨の日を思い出して「なつかしい」。.....等々。
日本語の「なつかしい」は非常に便利なことば。よい思い出のときでも、かつてのやらかした失敗でも、「なつかしい」と言える。
日本語の「なつかしい」は便利な言葉だが、そのぶん英語に訳そうとすると、なかなか難しいものだ。
1.難訳・和英口語辞典
松本道弘「難訳・和英口語辞典」(さくら舎、2017)の「懐かしい。」の項目には次のように書かれている。
「懐かしい。」
Feels like old times
あの頃が懐かしい( I miss those
old days )でもよいが、ひとつの
形容詞で形容することは難しい。
it が省略されているfeels likeでも
seems likeでもよい。
ちょっと飛躍して、
Give me a home where the
buffalo roam.という「峠の我が家」
のラインが「懐かしさ」を伝えてくれる。
giveを使わざるをえないとなると、この「懐かしさ」がいかに難訳語であるかがよくわかる。(前掲書p148)
確かに、「なつかしい!」と私がつぶやくとき、それは自発的に「なつかしい」と思うのであって、他者や風景によって「give」されたと表現すると、違和感をもってしまう。
2.国語辞典
そもそも日本語の「なつかしい」とはどういう意味なのだろう?ここで「辞書surfing」してみる。
まず、国語辞典(山田俊雄・吉川泰雄[編]、「角川新国語辞典)から。
なつかしい[懐かしい]
思い出されて慕わしい。過去の物事に心がひかれる。
したわしい[慕わしい]
恋しい。懐かしい。
こいしい[恋しい]
慕わしい。懐かしい。
「故郷が恋しい」「恋しい人」
こいしたう[恋慕う]
あとを追いたくなるほど恋しく思う。
3.漢和辞典
次に漢和辞典(「旺文社漢字典」(第2版))から。
[懐]
①おもう。おもい。
「君子懐徳」(君子は徳をおもう)
<論語・里仁>
②なつかしむ。なつかしい。
「懐旧」
③なつく。なつける。
「懐柔」
④きたる(来)。きたす。
「来懐」
⑤いだく。
(ア)胸にいだく。ふところにする。
(イ)身にもつ。「懐疑」
(ウ)身ごもる。「懐妊」
⑥ふところ。
「父母之懐」<論語・陽貨>
⑦かねる。つつむ。おさめる。
「懐山襄陵」
(やまをかねおかにのぼる)
<書経・尭典>
4.和英辞典
「ウィズダム和英辞典(第2版)三省堂」から。
なつかしい 懐かしい(形)
[昔なつかしい] good old;
[いとしい] dear;
[見なれた、聞きなれた] familiar.
・懐かしい昔
the good old days.
・懐かしい故郷
one's dear old home(town).
・懐かしい歌を歌う
sing sone sweet old songs.
・祖母にまつわる懐かしい思い出がある。
I have good old [fond, sweet]
memories of my grandmother.
なつかしい 懐かしい(動)
(思い焦がれる)yearn for
(あこがれる)long for
(人がいなくて[ものがなくて]寂しい)
miss.
・学生時代を懐かしく(=懐古の情で)思い出す
miss one's student days;
look back on one's student days
with nostalgia.
・誰でも故郷を懐かしく思う。
Everyone longs [yearns] for his home.
・小学生の先生たちのことが懐かしい
I miss my elementary school
teachers.
むすび
「なつかしい」英訳試論
以上の辞書を参考にして「なつかしい」の英語表現を考えてみよう。
漢和辞典からヒントを受けたことが多かった。
こんな表現はどうだろう。いくつか考えてみた。◯◯には、自分が「なつかしい」と思ったものを「代入」する。
◯◯attracted me.
◯◯drew my attention.
I embraced my good old ◯◯.
I fell pregnant with◯◯.
I tamed my ◯◯.
◯◯came to my mind.
I felt happy to see◯◯.
The mere thought of ◯◯
made me happy( or sad).
英語に限ったことではないが、とっさに思い浮かばなそうな表現は「公式化」しておきたいと思ってしまう。
しかし、「公式化」を拒むような日本語は多い。「なつかしい」はその代表だろう。
英語と日本語は必ずしも「一対一対応」にはなっていないから、仕方のないことかもしれない。
普段から「あれっ!英語でなんて言うのだろう」と思ったら、考える癖をつけたいものだ。文献なども参考にしつつ。
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします