臨床心理学から見る現代の心―悩まない時代の心理相談のあり方


はじめに:臨床心理学という学問の特性

こんにちは、皆さん。今回は京都大学こころの未来研究センターの畑中千紘先生による「臨床心理学からみたこころの現在と未来」という講義の内容をもとに、現代の心の特徴と心理相談の新しい形について詳しく掘り下げていきたいと思います。

臨床心理学という学問は、理論と実践が相互に支え合う関係にあります。理論に基づいて臨床実践(心理療法)を行うという位置づけであると同時に、実践に基づいて「心とは何か」を研究する学問でもあるのです。この二つの側面は切り離せません。なぜなら、心は日々変化していくものだからです。

私たちは普段、自分の心が変化していることをあまり意識していないかもしれません。しかし、例えば何十年も前のテレビ映像を見たときに「古くさいな」と感じるのは、私たちの感覚が知らないうちに変わっていることの証拠と言えるでしょう。

このように絶えず変化する心を相手にする臨床心理学では、既存の理論だけに基づいていては現実の臨床に対応することはできません。だからこそ、理論と実践の両方を行き来しながら、常に学び続ける姿勢が求められるのです。

現在は公認心理師という国家資格ができましたが、これまでも臨床心理士という資格がありました(今も存続しています)。どちらの資格も、更新するためには継続的に研修を受け、最新の知見を学び続けることが求められています。これは、心をめぐる状況が常に変化しているからこそ必要なことなのです。

もちろん、心のすべてが時代とともに変わるわけではありません。時代や文化の影響を受けやすい「上層」と、より普遍的でほとんど変わらない「深層」があると考えられます。

心の上層と深層:箱庭療法から見える心の変化

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