『「いいね!」戦争』を読む(15) 「アラブの春」が独裁に繋がった理由
▼「アラブの春」が、なぜ独裁主義に吸収されてしまったのか。『「いいね!」戦争』は、「確証バイアス」や「エコーチェンバー」現象などの知見を使って絵解きしている。
▼毎度おなじみ、カスタマーレビューはまだ0件だ。2019年7月10日10時現在。
▼以下の引用箇所を読めばわかるが、この経緯から引き出せる教訓は、「アラブの春」だけに限った話ではない。ジョージ・ワシントン大学公共外交・グローバルコミュニケーション研究所の、おもにエジプトを対象にした2016年の研究。適宜改行。
〈情報が手に入ることとオンラインでの組織化の容易さとが触媒(しょくばい)になって、共通点のない大勢の人びとに行動を起こさせた。
だがその後、分裂が生じた。
「時の経過とともに、ソーシャルメディアは、政治的な社会が自己隔離して似たような考えの人間ばかりのコミュニティに分かれていくのを奨励し、同じグループのメンバー同士の結びつきを強化する一方で、異なるグループとの距離を広げた」
共通の敵がいなくなると、的外れな主張がかつての味方を悪魔のように扱い、分裂を広げた。
研究者たちが説明したように、「ソーシャルメディア・コンテンツのスピード、情動強度、エコーチェンバー現象が、それに触れた人びとにさらに極端な反応を引き起こす。
ソーシャルメディアは政治的・社会的な分極化を強めるのにとくに適している。それは暴力的な画像や恐ろしい噂をきわめて強烈に拡散できるからだ」〉(202頁)
▼「同じグループのメンバー同士の結びつきを強化する一方で、異なるグループとの距離を広げた」という指摘が重要だ。似たような分析が、本書の196頁にあった。「フィルターバブルは人と人を引き離す遠心力なのだ」(イーライ・パリサー氏の指摘)
「アラブの春」の「民主化運動」が、いつの間にか「独裁主義」に絡めとられたのは、かりそめの団結が「分断」されたからだという。その原因として、
・ソーシャルメディア・コンテンツの「スピード」
・「情動強度」
・「エコーチェンバー現象」
が挙げられている。
一つずつ、いずれもこれまでの人類がまったく経験したことのない話であり、深い研究と対策が必要で、各地で研究されているのだと思う。
ここ数回はーーつまり「脳」を扱った第5章はーー、一つずつのキーワードが重く、中間報告としてまとめた著者2人の力量に感心する。
▼この箇所のまとめとしては、何度か引用してきた、
〈事実とは結局、合意の問題である。合意がなければ、「事実」は意見の一つにすぎない〉(203頁)
という指摘に尽きる。簡単にいうと、スマホでSNSばかりやっていると、社会の「合意」が壊され、修復できなくなる傾向があるわけだ。
どういう対応がありうるのか、について触れる前に、ひどい現実についてのレポートがまだまだ山盛りである。(つづく)
(2019年7月10日)
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