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『「いいね!」戦争』を読む(8) 国がネット対策に本気出した結果www

▼『「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』の第4章は、「帝国の逆襲 検閲、偽情報、葬り去られる真実」というタイトル。

なんだか恒例になっちゃったが、本書について、2019年7月2日現在でもカスタマーレビューがない。不思議だ。

▼第4章では、まず政府がインターネットの接続速度を遅くする「スロットリング」について紹介されている。

必要不可欠なオンライン機能は継続しつつ、大規模なつながりを難しくする。探知や証明もしにくい(政府の悪行をフェイスブックに投稿できないのは、ネットの接続速度が落ちているせいかもしれないし、あるいは単に隣人がビデオゲームをダウンロード中だからかもしれない)。

たとえば、ウェブ監視サービスはイランで抗議デモが計画されることを察知すると、そのたびに都合よく国内のネット接続速度が著しく落ちた。〉(146-147頁)

▼そのほか、実に多種多様な方法でもって、国家は「言論の自由」をジャック(乗っ取る)しようとして、実際にジャックしている。

▼タイの政府関係者のコメントが恐ろしい。「こちらから友だち申請をする」「友だち申請が認められたら、[違法な]情報を拡散している者がいないかチェックする。用心することだ。友だちになるのに時間はかからない」(153頁)

たしかに、インターネットの中では、「友だち」は急速に増やすことができる。このままだと、「友だち」の定義が歪(ゆが)んでくるだろう。つまり、「知っている」だけで「友だち」だ、という定義になる可能性がある。

もう、すでにそうなっている人も、いるかもしれない。友とは、何があっても守る相手だ、という定義が壊れる可能性がある。

▼第4章では、中国の有名な「社会信用システム」をはじめ、背筋も凍るシステム、ほかの国が嫉妬しているシステムが詳しく紹介されている。

中国の場合は比較的よく知られている話で、驚いたのはロシアの取り組みだ。ロシア連邦軍参謀総長だったヴァレリー・ゲラシモフという軍人が唱えた、

「政治的・戦略的な目標を達成するための非軍事的手段の役割は拡大してきた。多くの場合、こうした手段の有効性は兵器の威力を上回る」

という一文が、普遍的で、とても重要だ。戦争は、軍事手段だけで行うのではない、ということだ。むしろ非軍事手段のほうが、軍事手段よりも、はるかに重要なのだ。

〈欧米各国の政府が現代の情報戦の戦場を場当たり的に考えてきたのとは対照的に、ゲラシモフはロシアという国家を構成するさまざまな要素を再構築して、インターネットが提供する「広範囲の非対称の可能性」を有効活用すべきだと提案した。

「ゲラシモフ・ドクトリン」と呼ばれるこれらの所見はロシアの軍事理論に刻み込まれ、2014年には軍事戦略にも正式に明記されたほどだ。

重要なのは、ロシアの理論家たちがこれを基本的防衛戦略、いわば「ロシアに対する情報戦争の戦い」と見なしたことだった。〉(172頁)

▼ロシアの取り組みは、YouTubeで流行っているタイトル風に言えば、「ネット対策、国家が本気出してみたらこうなったw」的なことだ。ただし、現実はまったく笑えない。

この箇所は、これから生きる数十年の「インターネットと生活と戦争との関係」を知るために、とても重要な箇所だと思うので、次号も取り上げる。(つづく)

(2019年7月2日)

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