On The Groove

「新しい情報」ではなく「新しい世界の見方」を求めて日々是好日。時評、書評、備忘録。ジャンルを問わず、読書や映画鑑賞などを通じて、自分なりに視界が開けたことについて綴っています。

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マガジン

  • 図解で読み解く「本と世界」

    本を読みながら、考えながら、ついつい物事や概念の関係性を頭のなかで立体的に構造化してしまいます。それらを図解して、文章として紡ぎだしたものたちです。

  • 「本・映画・漫画」批評

    思わず何かを書きたくなった作品たちのご紹介です。

最近の記事

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【書評】『ミシェル・フーコー講義集成 ~ 安全・領土・人口 』

「哲学すること」を一度知ってしまうと、もはやそれ以前の自分には後戻りできない。それは、新しい「情報」や「知識」を得ることではない。また、何かについての「やり方」(to do) を変えることでもない。では、何が変わるのか。 「哲学すること」によって、自分が慣れ親しんでよく知っていたはずの世界は、ガラガラと音を立てて崩れ去り、まったく新しい姿に変容してしまう。もちろん現実の世界が変わるわけではない。世界に対する「ものの見方」、もっといえば自分自身の「あり方」(to be) が、

    • 何かに「駆り立てられる」ことから決別するために…

      『子供は自分の中に二十二の襞を持って生まれ、それらの襞を一つ一つ拡げることが、その人にとって最も重要なのだ』と書いたのは、フランスの詩人アンリ・ミショーでした。その襞はいたずらに露顕されることもなく、人目に触れずおごそかに秘蔵されているのでしょう。 この言葉を思い起こすとき、僕の脳裏には何故かいつも【自由】についての考えがよぎります。そこで今日は、ハーマン・メルヴィルの小説『バートルビー』を敷衍しながら、そのことについて少し書いてみようと思います。 主人公(バートルビー)

      • 【図解】『関係性の構造』で考える人類史 ~EP4「定住革命から農耕国家へ」~

        気候変動と定住革命 ここで一度、人類がどのようなタイムスパンで集団生活の有り様を変化させてきたかを確認しておこう。霊長類である人類の祖先がチンパンジーと進化の袂を分かったのが、およそ600万年前。そして現生人類(ホモ・サピエンス)が登場したのは約30万年前といわれている。 現在分かっている限りで言えば、人類はおよそ紀元前1万2千年に定住を始めだし、農耕集落の最も古い証拠が見つかったのが定住からずいぶん経った紀元前5千年頃。文字を使用し、城壁を備えた最初の都市国家となると紀元

        • 刺激的、あまりにも刺激的な刻印 :ニーチェ/デリダにおける《尖鋭筆鋒style》

          Stimulus Stigma一九七八年七月にフランスで開かれた「ニーチェは、今日?」と題された討論会で、哲学者のジャック・デリダは、ニーチェにおける《尖鋭筆鋒の問題》をテーマに取り上げている。その劈頭、デリダは自らの標題を「それは常に尖った物体の問題」であると簡潔に定義した後で、尖鋭筆鋒(style)の多義性を例示してみせている。 すなわち、それは時として「ペン」であり「短剣」であり「匕首」である(これらは一瞥しただけでニーチェの箴言がもつ攻撃性を想起させる)。ここで直接

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        【書評】『ミシェル・フーコー講義集成 ~ 安全・領土・人口 』

        • 何かに「駆り立てられる」ことから決別するために…

        • 【図解】『関係性の構造』で考える人類史 ~EP4「定住革命から農耕国家へ」~

        • 刺激的、あまりにも刺激的な刻印 :ニーチェ/デリダにおける《尖鋭筆鋒style》

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          9本
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          10本

        記事

          【図解】『関係性の構造』で考える人類史 ~EP3「脳の進化と<神>の発明」~

          我考える、ゆえに我なし!?「即今・当処・自己」という禅語をご存知だろうか?簡単に言えば「いま・ここ・じぶん」。つまり「いまこの瞬間に、他ならぬこの場所で、自分が為していることに目(思考)を向けよ」という教えだ(と私は解釈している)が、逆に言えばそれだけ人間は「いつかの、どこかの、誰かとの、ことについて考えてばかりいる」ということだ。 もちろん、自分に関係する出来事が中心ではあるのだが、それにしてももう過ぎ去ってどうしようもないことを悔いたり、あるいは思い出し笑いしたり、まだ

          【図解】『関係性の構造』で考える人類史 ~EP3「脳の進化と<神>の発明」~

          【図解】『関係性の構造』で考える人類史 ~EP2「人間の自然状態」~

          「立って歩く」⇒「共同保育」?各自いろいろと答えはあるだろうが、実は道具が出現したのは600万年の長い人類史のなかで比較的最近のことのようだ(といっても250万年前だが)。 では、直立二足歩行で何がもたらされたのか? ひとつは「共同保育」である。 人類は食物が豊富にあった森林からサバンナに出たことで、大型獣による捕食リスクや採食が困難なことによる飢餓とつねに背中合わせだった。そこで集団規模を拡大し、同じ血縁関係にない他者とも積極的な協力関係を築かなければ、厳しい生存環境を

          【図解】『関係性の構造』で考える人類史 ~EP2「人間の自然状態」~

          【図解】『関係性の構造』で考える人類史 ~EP1「生物の自然状態」~

          社会秩序はいかにして可能か2020年8月、コロナ禍における日本人のマスク利用に関する意識調査について衝撃的(!?)な研究結果が発表された。「あなたがマスクをしている理由はなぜですか?」という問いに対して、最も多い回答が「誰かを感染させないため」でも、「自分が感染したくないから」でもなく、「皆がマスクをしているから」だったのだ。それも圧倒的な比率で。【1】 実感として、同意できる方も大勢いるのではないだろうか。正直に言えば、この結果については「あぁ、やっぱりな」という納得感の

          【図解】『関係性の構造』で考える人類史 ~EP1「生物の自然状態」~

          【図解】私的『人新世の資本論』~来るべき〇〇社会編~

          マルクスが晩年に関心をもったという原始的な協同体における「生活様式」から「資本制生産様式」はどのように発展してきたのだろうか?現在では人類学や考古学の成果により、彼が生きていた頃よりもその変遷を素描することができるようになってきている。今回、自分なりに図解したことを整理してみた。今回は最終回だ。 私の『人新世の資本論』についての書評はこちら 1回目はこちら 2回目はこちら 3回目はこちら 4回目はこちら 資本制システムの黄金時代集権化された国家権力によって大規模な財政基盤

          【図解】私的『人新世の資本論』~来るべき〇〇社会編~

          【図解】私的『人新世の資本論』~資本制生産様式の誕生編~

          マルクスが晩年に関心をもったという原始的な協同体における「生活様式」から「資本制生産様式」はどのように発展してきたのだろうか?現在では人類学や考古学の成果により、彼が生きていた頃よりもその変遷を素描することができるようになってきている。今回、自分なりに図解したことを整理してみた。今回は全5回のうちの4回目だ。 私の『人新世の資本論』についての書評はこちら 1回目はこちら 2回目はこちら 3回目はこちら 効率的なエネルギー(石炭)の発見にともなう技術革新により、西欧の国内で

          【図解】私的『人新世の資本論』~資本制生産様式の誕生編~

          【図解】私的『人新世の資本論』~臣民から国民へ編~

          マルクスが晩年に関心をもったという原始的な協同体における「生活様式」から「資本制生産様式」はどのように発展してきたのだろうか?現在では人類学や考古学の成果により、彼が生きていた頃よりもその変遷を素描することができるようになってきている。今回、自分なりに図解したことを整理してみた。今回は全5回のうちの3回目だ。 私の『人新世の資本論』についての書評はこちら 1回目はこちら 2回目はこちら メソポタミア、インダス、ナイル、黄河のような上流から運ばれる地味多い肥沃な土地は、穀物

          【図解】私的『人新世の資本論』~臣民から国民へ編~

          【図解】私的『人新世の資本論』~定住型農耕国家編~

          マルクスが晩年に関心をもったという原始的な協同体における「生活様式」から「資本制生産様式」はどのように発展してきたのだろうか?現在では人類学や考古学の成果により、彼が生きていた頃よりもその変遷を素描することができるようになってきている。今回、自分なりに図解したことを整理してみた。今回は全5回のうちの2回目だ。 私の『人新世の資本論』についての書評はこちら 1回目はこちら 人類にとって大きな転機となるのは、食料が豊富にとれる湿地帯などの肥沃な土地で定住化をはじめ、増えた人口

          【図解】私的『人新世の資本論』~定住型農耕国家編~

          【図解】私的『人新世の資本論』~長い黎明期編~

          マルクスが晩年に関心をもったという原始的な協同体における「生活様式」から「資本制生産様式」はどのように発展してきたのだろうか?現在では人類学や考古学の成果により、彼が生きていた頃よりもその変遷を素描することができるようになってきている。今回、自分なりに図解したことを整理してみた。今回は全5回のうちの1回目だ。 私の『人新世の資本論』についての書評はこちら まず押さえておきたいのは、人類がどのようなタイムスパンで「集団生活のあり様」を変化させてきたかだ。霊長類である人類の祖

          【図解】私的『人新世の資本論』~長い黎明期編~

          【漫画評】諸星大二郎自選短編集

          ときに異端と評される諸星大二郎の作品には、独特の画風もさることながら、他の作家にはない「世界観」がある。本書に収録された諸作品も「諸星ワールド」が全快だ。 物語の舞台設定は「古代・神話モノ」から「近未来・惑星モノ」など実に多様。ただ、本作に限らずどの諸星作品にも共通しているテーマがある。 それは、人間が理性で把握できる世界には限界があり、そのすぐ向こう側では「人智を超えたものの力」がつねに働いているということ。こちらとあちら、このふたつの世界をいかにつなぐのかが、作者の腕

          【漫画評】諸星大二郎自選短編集

          【書評】『歪んだ正義~「普通の人」がなぜ過激化するのか 』:大治 朋子

          昨今の過激な政治的・宗教的・反社会的言論や暴力行為の背景には、いったいどのような社会的・心理的メカニズムが働いており、また実際にどのようなプロセスで「普通の個人」がこの陥穽に嵌まり込み、過激な言動に至るのか? 本書『歪んだ正義』の醍醐味は、著者本来のジャーナリストとしての立場から、現場の「生の声」を取り上げることにとどまらず、アカデミズムの世界に入り込み、この問いへの解答を理論的に構築していく過程を追体験できるところにある。 しかも読書を通じて著者と同伴することで、こちら

          【書評】『歪んだ正義~「普通の人」がなぜ過激化するのか 』:大治 朋子

          【書評】『人新世の資本論』:斎藤幸平

          本書『人新世の資本論』は、地球環境汚染や途上国・非正規労働者からの不当な搾取を告発する“ありがちな”経済開発批判にとどまらず、マルクスに遡行することで、資本主義が要請する「成長神話」を根本から解体し、さらにその先の社会のあり方を具体的に模索しようとする、非常に野心的かつ魅力的な本である。 資本制生産様式が回転し続けるための前提条件(=無限の利潤追求と価値増殖)を維持するために、ありとあらゆる事物(惨事ですら!!)をビジネスターゲットとする「歯止めなき商品化」がもたらす地球規

          【書評】『人新世の資本論』:斎藤幸平

          【映画評】『桜桃の味』~無意味さを知る意味~

          最近、パソコンを買い替えてフォルダのお引越しをしていたら、或る映画について学生時代に書いた文章を「発掘」した。いま読み返してみると、文章はごつごつと硬くて読みにくいが、これはこれで当時の自分らしい。何かを書かずにはいられなかった、あの衝撃を思い出し、他の方にもこの映画をぜひ味わってもらいたくて投稿することにした。 「映画を観る」とはどのような体験なのか?  いかなる映画であれ、観る者に対して、冒頭からその中で前提となっている「世界観」を一気に共有させることは難しい。物語の

          【映画評】『桜桃の味』~無意味さを知る意味~