歳時記を旅する44〔時雨〕中*秋時雨頁に二句の新句集
佐野 聰
(平成六年作、『春日』)
日本海側が時雨、雪しぐれの日は、関東平野など太平洋側は空っ風が吹いて雲ひとつない「冬晴れ」になる。そして冬の雨は主として南岸低気圧によって降り、時雨と違って地雨になることが多い。(倉嶋厚・原田稔編著『雨のことば辞典』講談社学術文庫)
関東の初冬に降る雨は、時雨ではないとも言われる。
芭蕉が監修し去来・凡兆が編集した撰集『猿蓑』は、芭蕉の「初時雨猿も小蓑をほしげ也」を先頭に、十三名十三句の時雨の句が巻頭を占めている。
各句の詠まれた場所を見ても、洛北(凡兆)、洛南(乙州)、伊賀盆地西部の国境の山中(芭蕉・曾良)、近江盆地の湖西の比良山地の麓(其角・千那・丈草・正秀・史邦・尚白・昌房・去来)と、どれも京都周辺の山間部で、江戸など太平洋側で詠まれたものはない。
句の秋時雨とは、秋の終わりに降る時雨。新しく白い頁にぱらりと二つ、初めての時雨のように句が置かれている。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和五年十一月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)
☆俳句選集『猿蓑』は、松尾芭蕉が京都嵯峨の去来の別邸である落柿舎に滞在して編集の指揮を執ったという。その落柿舎をMana(まな)旅と日々。 さんが紹介されています。
写真/岡田耕(落柿舎)