マガジンのカバー画像

#小説 記事まとめ

522
note内に投稿された小説をまとめていきます。
運営しているクリエイター

#毎日note

メロンソーダの味、あの夏の微笑み【ショートショート】

その夏、僕らはメロンソーダの味を覚えた。思い出すのは、あの青空と君の微笑み。緑色の泡に、冷たい氷の感触。そんな些細なことが、僕らの心に深く刻まれている。 君と出会ったのは、昼下がりのラムネ売りの店。太陽は煌々と輝き、街はまばゆい光で溢れていた。店の棚に並んだ瓶詰めのラムネを見つめていた君の視線は、まるで小鳥が虹色の羽根を眺めるようだった。 そして、君はメロンソーダを選んだ。僕も同じものを選び、君と並んでベンチに座った。 初めて君がその瓶を開けた瞬間、ソーダが泡立つ音が静

赤い金魚と僕の物語り

風が止み、夕焼けが空を染める頃、静かな町の一角に佇む古びた家。 早くに両親を亡くし、姉は嫁ぎ、広い家にただ一人。生きるために生きている。三十路を目前にし、僕は考えることを諦めていたそんな人生について向き合っていた。金魚鉢の前に座り、水槽の中で穏やかに泳ぐ「金魚」に話しかけて。それは、投影していたのかもしれない。金魚鉢で飼いならされる金魚と僕を。 姪っ子がお祭りで手に入れたその金魚は、飼い猫を理由に僕のもとへと託された。とても小柄で泳ぎ方が少しだけ変な真っ赤な金魚。定期的に水

雨音のメロディー

美玲は窓辺に立ち、雨粒が窓ガラスを伝って流れる様子を眺めながら、心の中で小さなため息をついた。外は灰色に染まった空に、重たい雲が低く垂れ込めている。雨の匂いが鼻をくすぐり、部屋に静かな落ち着きをもたらしていた。 彼女は机に向かって座り、ペンを手に取った。雨の日には、いつも感じるあの特別な何かが彼女の心を揺さぶった。彼女はキャラクターの顔や情景を思い描きながら、物語の糸口を探った。 物語は、美玲が通う女子高校の校舎の前で始まる。雨の日の朝、彼女はいつものように傘をさして校門

ほどよく傲慢なあなたへ|小説|エイプリルフール

新着メッセージ 1件 from:小錦「死ぬほど困ってます😭😭😭」 またかよ。 クソ上司のパワハラに耐えながら、なんとか終業時間を迎えて駆け込んだシャトルバスの中、ため息がこぼれる。 冷え切ったスマートフォンの新着メッセージを目にした瞬間、疲労がどっと押し寄せたように感じた。 しかめっ面を隠そうと、思わずマフラーに顔をうずめてなんとか取り繕う。だけど抑えきれず、隠しきれない目元に苦虫を噛み潰したようなシワが寄った。 まだ救いだったのは、このメッセージが私個人ではなく、グルー

『行けたら行く』#ショートショート

「行けたら行くみたいなこと大喜利を開催します」 「空けられたら空けとく」 「ほぼ同じだ」 「脱げたら脱ぐ」 「シチュエーションが気になる」 「解けたら解く」 「解いちゃうタイプのやつ」 「話せたら話す」 「絶妙。話しそうだけど話さないかもしれん」 「付き合えたら付き合う」 「付き合おう」 「え、うん」 「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 【あとがき】「行けたら行く」の実行確率。 「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 【自己紹介】「ふくふ

小説 〜人型高校〜

小説を書いてみてはどうかとリクエストを頂きました。なので本日の投稿は初めてなりに頑張って書いたオリジナル小説です。 今日は僕の高校の入学式。新しい仲間に会うことがとても楽しみだ。だって僕は15歳までのあらゆる情報は持っていても、実際にこの目で外の世界を見たことがないからね。だから全てが未知だ。この開けた世界で一体どれだけの情報を手に入れ、僕の思考を進化させられるだろうか。。。! おっと、深部コアの思考が外部に漏れてしまったようだ。こんな失態、学校の中で起こす訳にはいかない

【短編小説】それから

ファーストフード店でのバイトの帰り、雅史は、同じ店で働く響子がコンビニから出てくるところを見かけた。雅史の前方10メートルほど前に歩く女性が響子だ。顔は確認できないが、体全体、雰囲気から響子に間違いないと雅史は確信した。雅史は走り出した。 「響子さん」 雅史は、響子を追い抜いたあと振り返り、響子と相対するように立ち止まった。 「うわ。びっくりした」 「やっぱり響子さんだ。後ろからでもすぐわかりました」 「ふふ。バイトの帰り?」 響子が嬉しそうに雅史を見つめる。

傘を差さない彼女

「いいよ。濡れちゃうじゃん」 彼女は可愛らしい顔とは裏腹にさっぱりと答えた。 隣のクラスの、話したことのない女の子。 僕は一方的に彼女のことをしばらく前から知っていた。 あれは高校受験の日。 雨が強く降っていて、しんとした会場の中、ざぁざぁと降り注ぐ音だけが響いていた。 ペンが走る音と、時々紙がめくられる音。 あの時の空気を、僕は今でも鮮明に覚えている。 そしてその帰り道に見た彼女のことも。 試験が終わり、傘を差してぞろぞろと駅へ向かう受験生たち。 その中で僕の目に止ま

短編小説「線路の上」

 ——あなたは信じないかもしれないわね、こんな話。  私が祖母の部屋を訪れたのは、穏やかな陽光が梅の香りを連れてくる春先の昼下がりのことだ。雨戸は開かれ、軒先で跳ねる小鳥たちの姿がよく見える。時折吹く強い春風に乗ってやって来たのであろう梅の花弁が、一枚だけ畳の上で揺れていた。  私は膝を抱えたまま、目の前で出掛ける準備に勤しむ祖母の姿をジッと見ていた。祖母が荷物を詰めているキャリーケースは少し古びた私の御下がりだ。丁寧に詰められる荷物と祖母の皺だらけの手を交互に見つめながら

短編小説「流れ星の願い」

 虹色の若草が果てしなく広がる草原で、星々の母は、微笑みを浮かべつつ遠く美しい空を見上げていた。そこには幾つもの流れ星が舞い降りて来て、止めどなく光の雨を降らせている。ある流れ星の一団が、星々の母の前に降り立つと、それらは小さな子供達に姿を変え、一斉に「ただいま!」と母の胸に飛び込んでいった。星々の母も両手をいっぱいに広げ、優しく子供達を抱きしめる。 「おかえり、私の可愛い子供達。地球への旅はどうだった?」  星々の母が子供達にそう訊ねると、「楽しかったよ」と皆が同時に答

試着室で思い出せなくなったら、もう本気の恋じゃないんだと思う

尾形真理子さんの「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う」という言葉を試着室でふと思い出した。試着室の中で、誰も思い出せなくなった私は、もう恋愛をしていないのかもしれない。恋人と一緒にいるのは、そこに愛があるからではなく、別れの決め手がなかっただけに過ぎない。感情論だけの皆無に等しいセンスに飽き飽きした私は、明日あなたとさよならをする。 別れの決め手を探し続け、怠惰な気持ちで恋人と一緒にいる私は、誰がどう見ても残酷な女だ。たしかに少し前までは、あなたを思い出していた。そこに

死神

「残念ながら、あなたは死にました。」 黒い服を着た男は、にこやかにそう言い放った。 死神と名乗る男が死神という肩書きの書かれた名刺を持って来て死亡宣告をして来た日から今日で一週間。 驚くほどに何もない日々を送っている。 いつもと同じ時間に起きて、バイトへ向かって、仕事をこなす。 死んだと言われてはいそうですか。なんてなる訳もなく、本当に死んだのなら何かしら日常が変わってもいいはずなのにそれもなく、代わり映えのしない七日間は一瞬で過ぎた。 「あなたが死を受け入れないと天界に

窓際席のアリス様 #1

 悟の隣の席には「アリス様」が座っていた。  これは彼が名付けたものではなく、周りの生徒たちが名付けたものだ。  ブロンドヘアの長髪に、白い肌と青い瞳。  日本人の幼さと、妖精のような美しさを持った少女は、その容貌から「アリス様」と呼ばれていた。  どこかのお嬢様じゃないかと噂が囁かれるほどに、彼女からは品格がにじみ出ていて、少女らしからぬ落ち着きがあった。  それは入学式から生徒内で話題となり、その話題を悟は幼馴染の神木 慎之介と星野 恵から聞いていた。  悟は「僕

歴史の証明

てりやきバーガーで満たされた口内、危うい活舌で彼女は言った。 「時たま食べるマックって何でこんな美味しいんだろ?」 「それは、それが僕等にとっての原初的記憶の味だからじゃないかな。帰り道に友人と連れ添って食べたポテトのⅬサイズ、母親が持ち帰ってきたハッピーセット、学生時代おやつに食べたバーベキューソースをでっぷり付けたチキンナゲット。思い出の味は何だって美味しい。上の世代にとってのそれは駄菓子屋の小さなヨーグルトだったり、色鮮やかな金平糖だったり……僕等にとってのそれは、マ