とてとて
創作した全ての短編小説を綴じています。1000文字以上の少し長めの短編です。
1000文字未満の小説です(140字小説は除きます)
梅雨の雨が止むことを知らない6月30日の夕刻、佐藤健一は初めて訪れた取引先から帰路につこうとしていた。健一は40代半ばの独身サラリーマン。会社での日々に慣れ切っていたが、今日ばかりは違った。 「くそっ、道順をプリントした紙を取引先に忘れるなんて・・・」 健一は傘を握りしめ、薄暗くなりゆく街を歩きながら呟いた。スマートフォンも会社に置き忘れた彼には、頼るべきものが何もなかった。 時計は18時を回り、街灯が次々と灯り始める。健一は見知らぬ街角を右に左に曲がりながら、自分の向
蝉の鳴き声が校庭に響き渡る7月初旬の午後、佐藤美咲は窓際の席で数学の授業を聞いていた。肩まで伸びた黒髪を耳にかけながら、彼女は黒板に向かって説明する先生の声が遠くに感じられるのを意識していた。その瞳は自然と隣の席に座る田中大輔に向かっていった。 大輔は真剣な表情で黒板を見つめ、ときおりノートに何かを書き込んでいた。スポーツで鍛えられた背筋をピンと伸ばし、濃い眉の下で輝く目は知的な光を放っていた。その横顔を見ていると、美咲の胸の中で何かが軽くはずむような気がした。 2年生の
こんばんは。とてとてです。いつも私の拙い小説を読んでくださりありがとうございます。 4月1日付けで多忙な部署に異動になり、創作にかける時間がかなり短くなってしまいました。それでもちょっとした隙間時間を見つけて創作してきたのですが、そろそろその時間も取れなくなる時期になってしまったようです。少なくとも秋から冬になる頃までは不定期になりそうです。毎日創作するというのは、私的にはとても楽しかったので、ちょっと残念です。 これから先、また私の小説を目にされることがあったら、よろし
結婚を約束していた私の彼が、不慮の事故で亡くなって3か月が過ぎた。 3か月過ぎても私の悲しみは癒えない。日に日に深まっていくように感じる。 毎日が涙で始まり、涙で終わる。心の穴は大きすぎて、もう二度と埋まることはないように思う。 私の中から生きていく希望さえ失われていくようだった。 そんなある日曜日の朝。 珍しく雲一つない晴天に恵まれた。 部屋にこもりがちだった私は、久しぶりに外出することにした。 何となく、彼とよく訪れていた街に足が向いた。 馴染みの駅で降り
僕は中学校2年生。僕には毎朝の日課がある。 8時15分、いつもの交差点で自転車に乗った彼女を見送ることだ。 凛としたショートヘアに、スラリとした手足。 グリーンのブレザーに身を包んだ彼女は、まるで風を切って走るかのように颯爽と自転車を漕いでいく。 白樺学園高校1年の浅川美咲さん。 僕の住む団地の隣に住む、幼馴染だ。 小学校の頃は学年が離れていても、駄菓子屋に行ったり公園で遊んだりとよく一緒に過ごしていた。 でも、美咲さんは中学から私立の白樺学園に進学し、僕とは違
夜の闇が街を包み込むと、彼は現れる。どんな扉も、どんな錠前も、彼の前では無力だ。彼の名はアリオス。魔法の力を巧みに操り、宝物を盗み出す彼は、誰もが恐れる存在だった。 アリオスは静かに屋根から屋根へと移動し、街の中心にある大邸宅に目を向けた。その屋敷には、伝説の魔法の宝石「ルミナリエ」が隠されていると噂されていた。アリオスはその宝石を手に入れるために、何週間も準備を重ねていた。 屋敷の前に立つと、アリオスは深呼吸し、手のひらを広げた。彼の指先から淡い青い光が放たれ、錠前に触
会社帰りの男が、突然の雨に傘もなく途方に暮れていた。人通りの少ない通りを歩きながら、濡れたスーツを気にする。 そこへ、1本の傘が差しかけられた。 「よかったら、どうぞ」 振り向くと、そこには1人の女性が立っていた。 「ありがとうございます。でも、そちらが濡れてしまいますよ」 「いいんです。私、もうすぐ家なので。こんな雨の日は、助け合わないとね」 そう言って、女性は微笑んだ。「 「私、井上聡子といいます」 「私は、田中肇といいます」 自己紹介をした後、2人は肩
俺には、微妙な関係の女性の友達がいる。大学の友人たちからは仲が良い二人だと言われている。人によっては付き合っていると誤解している。 実際、二人は特に付き合っているわけではない。そういう雰囲気になったこともない。 しかし、LINEはほとんど毎日やり取りをしているし、LINEでは姓ではなく名前で呼び合っている。おはようとおやすみのLINEを欠かしたことがない。ただ、毎回、最初にLINEを送るのは俺だ。 (おはよう。まゆ😊) (うん。おはよう健太) たったこれだけのやり取
(これで自由だ!) 会社勤めが今日で終わった。心が軽くなり、体が幸福感で包まれた。これでストレスからも解放される。 ※ 2週間を超える頃、私は、次第に自由が重荷になってきた。誰とも話さない生活もきつい。 ※ 1か月が経った。自由がこんなに不自由で神経を蝕むものとは・・・。 決めた。働こう!!
「母さん。『母の日』は何がいい?」 「うーん、カーネーションはいらないわ」 「他の花?」 「60過ぎて花の世話も面倒。実用的な物がいいわね」 「実用的な物かぁ」 「よろしくね」 ※ 「母さん母の日だね。はい、これ」 「封筒?」 「開けてみて」 「これ何?」 「老人ホームのパンフ。かなり実用的でしょ?」
私は速水樹。探偵だ。事務所の机から窓の外見る。今日は一日中雨だ。しかし、何もない平穏な1日だった。こんな日が毎日続くことが市民にとっては理想的なことだ。私は失業の危険を伴うことだが。 私は、事務所で、深夜の雨音に耳を傾けながらバーボンを飲っていた。助手の佐藤は事務所のソファで眠っている。佐藤は住み込みで働いているようなものだ。 そろそろ私も別室で眠ろうかと思っていたとき、事務所の電話が夜の静寂を切り裂いた。 受話器を取ると、財界の大物、黒田源三郎からの依頼だった。 「
真夏かと思うような気温になったかと思えば、一気に寒くなる。おかしな天気が続く中、今日は春らしい一日になった。湿度もなく気温もちょうど良い。心地良い風が吹き抜ける公園のベンチに座る一人の女性がいた。彼女の名前は理恵、28歳の会社員だ。 理恵は目を閉じ、春の香りを深く吸い込んだ。 ふと、理恵は、隣に誰かが座ったことに気づいた。 理恵は目を開けた。そこには懐かしい顔があった。 「隼人・・・。どうしてここに?」 突然のことに理恵はかなり驚いていた。 「この辺りが懐かしくな
「今日の研修に参加されている方は・・・高校の先生が多いようですね。どうでしょう、学校のお仕事で『生成AI』を使うことはありますか?」 杉浦美波は、40名程度の受講生に問いかけた。 美波は25歳。IT系の中堅会社に就職して3年目。普段はシステム開発のプロジェクトの一員として働いている美波だが、今日は自治体の研修講師だ。自治体から講師の派遣依頼を受けた会社が美波を講師に選んだ。 美波からの問いかけに答える受講生はいない。自治体の研修ではありがちな光景だ。 「じゃあ・・・」
「お先に失礼します」 4月に入社したばかりの社員が帰っていく。 (そうか。もう定時か・・・) 私は、今日も山のような仕事を一心不乱に処理していた。それでもまだまだやるべき仕事は残っている。 (残業やらないとだめだな) 1日が仕事で終わっていく。家に帰ったら風呂に入って寝るだけだ。趣味で書いていた小説も最近は手をつけられていない。起きたらまた会社で仕事。体がだる重い。 定時に気づいたことで、私の集中が切れてしまったようだ。 目の奥から疲れている気がする。私は、少し
「お疲れ様です」 16時50分。美雪は、自動ドアからコンビニの店内に入り、レジで端末を叩いている早紀に声をかけた。 「お疲れ〜」 早紀が美雪に手を振った。早紀は17時までのシフトだ。美雪がその後を引き継ぐ。 「あと10分。我慢だよ。私は着替えてくるね」 そう言って、美雪はスタッフルームに入っていった。 「うん。わかった」 そう言ったあと、早紀は、バイトを引き継ぐために必要な処理を行うため、レジの液晶端末に表示されているボタンを押した。 「早紀。さっき本部からメ
今日も小説はお休み。その代わり、慣れない詩を作ってみました。俳句ではないと思うので、現代詩ということで。間違ってたらすみません。