#短編小説
あけました【短編小説】
※本文は1,772字。
自宅近くの寺社に一人で参拝していたら、大学時代の友人であるアキラと偶然に会った。会ったと言うか、遭遇だから遭ったと言うほうが正しいか。
アキラは4人の子供を引き連れていた。2人は自分の実子で、残り2人は嫁さんの連れ子なのだという。独り者の俺とは大違いだ。
「明けましておめでとうございます!」
両親と妹夫婦子がごった返す実家は久しぶりに賑やかだった。父は孫の顔を眺め
ラストダンス【エンタメ小説】
※本文は1,840字数です。
生まれてはじめてのアダルトレビュー⭐︎は最悪だった。結局、世の中の誰も求めてやしない代物なのだから。煮ても焼いても炙っても、アダルトレビュー⭐︎はアダルトレビュー⭐︎にしかならない。
冒頭から「シンジ君!シンジ君!」と逆突っ張り棒をひたすら掲げながら一晩中踊り続けた。俺は明らかに赤面して、まるで自分自身があのハギワラシンジになったつもりでいた。
兎にも角にも
盛夏に何を想う【掌編小説】
DVDには「昭和-戦禍の記憶-」というタイトルが付されていた。去年99歳で亡くなった祖父から受け継いだものだ。
一人灯りを消して祖父の記憶に初めて触れてみる。画面にはテレビニュースで観たような人殺し合いが映し出されていた。僕は思わず目を背けた。でもやっぱり観なくてはいけないような気がした。フト「責任」という赤字で書かれた二文字が頭に浮かんだ。
先達から受け継ぐ責任。誰かが語り継がなくてはな
初夏に帰りたくなる僕ら_2【ショートストーリー】
やっぱり恋ができない
そう呟いたX(エックス)に見知らぬイイネが星の数ほどついた
僕の不幸を嗤う1万イイネは悲しみを増長させる
つぶやきの裏にある声にならない叫び
--見知らぬ姉に逢いたい
大人になればあえるよ、と言った母に姉のことを訊いてみたくなった
気がつけば朝一の飛行機に勢いよく飛び乗っていた
例年より暑い夏の札幌のせいで到着後は少し気分が悪くなった
いや、亡き姉のことを思い過ぎたせいか
無
母の夕焼け【ショートストーリー】
あんな夕焼けは見たことがない。
恐ろしいほど包み込まれそうだった。
思わずそう叫んでしまいそうな聖母のような優しさがそこには広がっていて、沈む間はずっと亡き母を思い出していた。
母は看護師の仕事をして僕を女手一つで育ててくれた。
「拓也くん、いい? ここでおとなしく待っているんだよ」
その日も僕は母の勤務する都内の病院に来ていた。学校が終わってから、毎日こうやって母の近くに来ていた。