【長編小説】(58)青く沈んだ夜明けの向こう
迎えなんていらないと何度伝えたかわからない。それでも自分の就業時間に合わせて閉まった図書館の正面玄関に現れる黒川玄に、青海瑠璃はもう何も言わないことにした。
自分の荷物くらい自分で持てると言っているのに、彼は彼女の肩からリュックを掠め取っていく。以前は生成りのトートバッグを使っていたが彼が最も容易く取り上げるのでリュックに変えたというのに、結局彼はそれさえ自分の肩にかけてしまう。もしも彼がこの国が凄惨な敗戦を迎えた”あの時代”に生きていたなら、ひったくりで生計を立てられたかも