第4章<診断する>優れたフィードバック面談を構築する(付録4.2)
優れたフィードバックは、ガイド付きの自己発見のようなものである。フィードバック面談をうまく行えれば、学習者はどのようにしてビジネスに大きな変化をもたらせるのか、どのようにして昇進して職業人として成功できるのか、といった点のヒントを得て、思い切った行動を取る気になるだろう。
1.まずはビジネスと職務について話し合い、それから行動と性格パターンに移る
より影響力の強い職務に移行しようとしているリーダーにとって最も有益なのは、初めにビジネス状況について話し合った後に、特定のコンピテンシーや個人特性の洞察について話し合うことである。まずはビジネス上の最優先の課題の観点からフィードバックの内容を聞き、次に個人の職務に求められること、さらに個人のニーズへと移行していく。コーチが参加者から信頼を得るためには、ビジネスとその中での参加者の役割を一番に理解しようとしている姿勢を示すことだ。また、参加者が現職で重点を置いていること、差し迫ったビジネス課題、将来の願望、自覚している強みと弱みなどを早い段階で話し合っておくと、参加者は一人の人間として親身に話を聞いてもらっていると感じるだろう。これによって、フィードバックが個人仕様になり、コーチの側も、フィードバックに対する相手の反応や反論を予測できるようになる。さらにコーチは、洞察力と影響力のあるメッセージをどのように伝えるのがベストかを判断し、結果を将来の成否に係る要因と明確に結びつけることができるようになる。
2.フィードバックにおけるキーアクション(主要行動)の重要性
キーアクション(主要行動)を使って具体的に伝える。「変革リーダーシップ」や「戦略的影響力」といった概念を理解するのと、それをうまく実践するための行動について理解するのとでは大きな違いがある。コンピテンシーは関連する行動から構成されるが、あるコンピテンシーに優れているからと言って、すべての行動がうまくできているとは限らない。また、能力開発の必要があるからといって、すべての行動について改善しなければならないわけでもない。コンピテンシーの中から効果的な改善につながる行動を学習者が特定できたとき、成長の加速化が実現するのだ。残念ながら、この価値に気づかない人が多い。表4.2に例を示す。
コンピテンシーの中から効果性の改善につながる行動を学習者が特定できたとき、成長の加速化が実現するのだ。
マーティン(表に登場する学習者)は最初、戦略的影響力の開発が必要だと言われて、戸惑った。だが、コンピテンシー内の具体的な行動を示すキーアクションによって問題が明確になったばかりか、マーティンの能力開発の正当性も明らかになった。
行動に関する情報(キーアクション)に加え、性格やモチベーションといった個人特性データは、重要な具体的情報を提示してくれる。マーティンのデータの場合、彼の強い性格と、パートナーに影響を与えるときにぶっきらぼうな態度をとる彼の傾向が関連づけられた。多くの場合、このような関連づけは、どのような行動が成長に大きく影響するのかを特定する鍵となる。例えば、ビジネス計画立案のシミュレーションで、ビジネス手腕の欠如が明らかになった参加者の性格特性のデータが、数字に対する嫌悪感を示しているかもしれない。その結果、彼女が数字を避ける事を止めない限り、財務関係の見識を身につけるのに四苦八苦するという認識に達するだろう。
合意に満足してはいけない。優れたフィードバックコーチは、アセスメント・プロセスで得られた信頼性の高いデータや観察に基づいて、個人に対する見解をあらかじめしっかりと持っている。だが、優れたフィードバックコーチは、間違えたり、あるいは的外れになったりすることへの準備もしている。観察によって得られたことを洞察と行動に転換するのが目的なので、学習者はフィードバックのメッセージを完全に自分の言葉と状況に合わせて加工しなければならない。つまり、メッセージを理解すること、そしてそれを個人的に解釈することを学習者に求めるのだ。そのために、以下のような会話が交わされるだろう。
コーチの解釈をただ受け入れるだけでは足りない。やる気を起こさせるフィードバック・セッションとは、学習者がコーチの言葉や見解に挑んで、それらを自分のものにするよう仕向け、フィードバックのメッセージに対する当事者意識を持たせるものだ。これは面談の一環として健全で丁寧な話し合いが計画されている場合に実現する。
過去の失敗から学んだ未来のスターを思い描く。フィードバックが影響を与えられなくなるのは、過去の相手の行動を強調しすぎるためである。「あの理事会へのプレゼンテーションはくだけすぎていたし、めちゃくちゃだった。それで信用を失い、本当に正しい投資だったのか会長に疑問を持たせることになった。あなたには、プレゼンテーションの改善に取り組んでほしい」――。これは間違いなく重要なフィードバックであり、頼りになるリーダーなら、軽く受け流し、次回何か違う事をするかもしれない。しかし、だからと言って、このリーダーがどのように行動するかは未知数だし、そのようなフィードバックは、成長の加速化を喚起するものでもない。
やる気を起こさせる洞察を明らかにする際、過去の行動から生じたネガティブな影響に注目するよりも、別の新しい行動がいかに未来の状況に良い影響を与えるかに集中した方が、はるかにエネルギーを生み出す。過去の描写はやめろと言っているわけではない。理事会でのプレゼンテーションに関する指摘は伝えるべきだ。しかし、良い行動とはどんなものかについての具体的な説明や、行動を変える事で得られるポジティブな影響についての話し合いなどもバランス良く織り交ぜたほうが、能力開発にはるかに良い影響をおよぼすだろう。代わりにこう言えばよいのだ。
「理事会に影響を与えるのは大事なことだから、あなたのプレゼンテーションをもっと強力なものにするためにも、頑張ってもらいたい。次回は、あなたのくだけたスタイルが、もっと自信にあふれて事実に基づくものに変わっているのを見たい。あなたは影響力を強めることができると私は確信しているが、そのためにはもっと準備の整ったフォーマルなアプローチが必要だ。」
個人の振り返りを促す。フィードバックコーチは刺激役のようなものだ。多くの学習者は、内容が個人的になりすぎるのを恐れて、気乗りしないままフィードバック面談を受けに来る。だが、健全なフィードバック面談は、さほど深く立ち入らずとも振り返りを促すものだ。フィードバックコーチは、問題を別の経営幹部の話あるいは関連するベンチマークデータや調査結果に構成し直すと、洞察をもっと個人的なものにできる。
質問や内容の組み立て方も、振り返りを受け入れる姿勢にかなり影響を与える。質問による発見には限りがあり、見解の共有と質問のバランスを取る必要があることは認識しなければならない。深く掘り下げて、学習者に別の方法についてもっと細かく考えさせたいとき、コーチは「なぜ?」、「もし~だったらどうする?」といった質問で相手に自身の特性や傾向を説明させたり、それが意味するところを明らかにさせたりする。また、コーチは、変わるために必要な事を強く求める必要もある。「変化を起こすのが簡単なら、あなたはすでに、私の助けなしにそうしていたはずだ。あなたにとってそれを難しくしている原因はなんだろう?」――。フィードバック面談は、能力開発の解決策をコーチから授けるのではなく、学習者本人に考えさせる貴重な機会だ。例えば、「今日この課題に取り組むとしたらどんな方法があるか?2~3挙げてほしい」というように。そして、質問をするときは、コーチは黙って、相手に考える時間を与えなければならない。学習者を支援し、生産的な会話を進めながら、相手が振り返りをしやすい環境を作らなければならないのだ。
適切な緊張感に焦点を当て続ける。フィードバックは、コーチと学習者の双方に不安を持たせる場合がある。成功させるには努力が必要だ。すべてのデータと話し合いを整理して個人に関する真実を解き明かすことができれば双方にとって心強いだろう。しかし注意が必要だ。不安を軽減し、アセスメント結果の意味について完全に共通した結論に達したとしても、そのフィードバック・セッションは、まだ成功したとは言えない。セッションそのものに対する緊張感は解消しても、学習者と将来(学習者が目指すリーダーシップ階層のサクセス・プロフィール)の間の健全で前向きな緊張感には焦点を当て続けなければならない。学習者について明確になって穏やかな瞬間を過ぎたら、コーチはすぐに、成長がなぜ個人およびビジネスにとって重要であり価値があるのかについて、話題を向ける必要がある。忘れないでほしいのは、緊張感は自信とセットで作り出されるものだ。フィードバックコーチは、強みをいかに伸ばすことができるか、成長の余地がある分野に取り組むことでいかに望みが叶うかを強調しなければならない。
学習者について明確になったら、コーチはすぐに、成長がなぜ個人およびビジネスにとって重要であり価値があるのかについて、話題を向けなければならない。
3.おすすめ人材アセスメントソリューション
①コンサルティングソリューション
②オンラインシミュレーションアセスメント&アセスメントシステム
③オンライントレーニング&ディベロップメント
4.DDIとは
DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。
DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。
DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。
◆DDI社の4つの専門分野
DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。
5.会社概要
会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント
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