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デザイン経営

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これまでnoteで執筆した「デザイン経営」関連の記事を集めています。
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#ブランド

補論 観念のデザインを巡るブランドとイノベーションの境界線

補論 観念のデザインを巡るブランドとイノベーションの境界線

 第十回では、デザインを、ブランドの構築に深く関わる「網膜のデザイン」と、イノベーションの実現に深く関わる「観念のデザイン」とに大別したが、厳密には、両者はそのような1対1のシンプルな関係で成り立っているわけではない。強弱の違いはあるものの、それぞれがそれぞれと関連性を有していると考えられる(下図参照)。

 例えば、第一回で述べたように、製品の形に代表される「網膜のデザイン」もイノベーションの実

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第十回 まとめ             網膜のデザインと観念のデザインの両立

第十回 まとめ             網膜のデザインと観念のデザインの両立

 これまで見てきたように、デザインやデザイナーとブランドやイノベーションは切っても切れない関係にある。デザインを無視して、ブランドを構築することはほとんど不可能であり、デザインはブランドそのものであるといえる。また、デザイナーは古くから様々な形でイノベーションの実現にも携わってきた。
 ただ、近年では、デザイン思考をはじめとするデザイナーのイノベーション寄りのスキルに関心が集中したことで、審美性や

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第四回 ブランドとデザイン(3)      「らしさ」がもたらすメリット

第四回 ブランドとデザイン(3)      「らしさ」がもたらすメリット

 個性的で統一感や一貫性のあるデザインによって「らしさ」を構築できれば、企業は次の3つのメリットを享受することができる。

 1つ目は、長期にわたる競争優位と模倣困難性である(会田,2009)。複数のデザインが一丸となって醸し出す「らしさ」は、他にはない独特なものであるため、それを好きになった消費者にとっては、それ以外の選択肢は考えにくくなる。さらに、単一製品のデザインの模倣とは異なり、それを模倣

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第三回 ブランドとデザイン(2)      デザインをむやみに変えないことが大事

第三回 ブランドとデザイン(2)      デザインをむやみに変えないことが大事

 Underwood(2003)は、デザインは消費者の記憶を喚起し、ブランド連想を引き起こすとしているが、消費者がデザインを見て、特定のブランドを連想するようになるには、反復学習が必要になる。つまり、何度も同じようなデザインに遭遇しなければならないのである。また、長崎(2003)は、デザインの特徴が部分的にでも維持されていれば、ブランドは認知されるとしているが、こちらも、時間や製品の枠を超えてデザ

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補論 情報の非対称性を巡る新たな動き

補論 情報の非対称性を巡る新たな動き

 第二回では、ブランドとは企業と消費者の間にある情報の非対称性を上手く活用する方法であると述べた。しかし、近年では、そのギャップをイメージで補うのではなく、ギャップそのものを積極的に減らし、「ありのままの姿」を見せることで消費者との信頼関係を築こうとする新しい動きが見られる。

 その代表が、米国のサンフランシスコに本拠を構える「エバーレーン(Everlane)」である(Forbes)。同社は、2

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第二回 ブランドとデザイン(1)      「らしさ」は視覚情報によって作られる

第二回 ブランドとデザイン(1)      「らしさ」は視覚情報によって作られる

 今回からは4回にわたって、ブランドとデザインの関係を見ていく。ブランドとは、消費者の側がその企業や製品に対して感じる「らしさ」のことをいう。ここでいう「らしさ」とは、他社や他の製品からでは感じられない、その企業や製品のみから感じる独特のイメージのことである。したがって、そのような独特のイメージが消費者に認識されていない場合は、本当の意味でのブランドとはいえない。
 このように、ブランドの主導権は

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第一回 デザイン経営とは、経営の王道の話

第一回 デザイン経営とは、経営の王道の話

 まず、デザイン経営の定義から始めよう。個人的には、デザイン経営を「デザインやデザイナー(あるいは、デザイナー的思考や手法)を企業経営に最大限に活用すること」と定義してきた。
 しかし、そのような定義では話が少し抽象的になってしまうので、ここでは、2018年5月に経済産業省および特許庁から発表された『「デザイン経営」宣言』に従って、対象をブランドとイノベーションに絞って考えてみたい。つまり、ブラン

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