本編⑱のところで見たように、Dums and Mintzberg(1989)やCooper, Junginger and Lockwood(2009)は、デザイン思考にとっての理想的な組織文化とは「組織全体にデザインの考え方が浸透した状態である」と述べているが、これは言い換えると、デザイン思考がロジカルシンキングのように当たり前のノウハウとして組織内で広く認識され、多くの人々がそれを使いこなすためのスキルを持ち、職種を越えてそれを共有することができるような状態にあることであ
今回からは最後のテーマとして、デザイン思考と組織文化との関係について考えてみたい。本編⑧のところで述べたように、欧州ではデザイン思考とは、クリエイティブ・コンフィデンス(creative confidence)のことであるとの論調があるが、そのような理解の仕方は本当に正しいのであろうか。
そもそもクリエイティブ・コンフィデンスとは、個人が持つ創造的なマインドセットや思考パターン、あるいはそれらを共有した組織文化のことなどを指す(Kelley and Kelley,201
前回はデザイン思考の概念拡張に伴い、その理論的な性格も従来の問題解決から学習プロセスへと変質する可能性があることを述べた。ただ、先行研究の中には、狭義のデザイン思考をイノベーションのプロセスに埋め込むことで、それを学習プロセスに変換することができると主張するものもある。Backman and Barry(2007)は、デザインと学習は共に「経験」を鍵概念とし、親和性が高いと述べている。また、デザイン思考を実行することは、問題解決のプロセスを回すというよりも、むしろ失敗した経