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第四回 ブランドとデザイン(3)      「らしさ」がもたらすメリット

 個性的で統一感や一貫性のあるデザインによって「らしさ」を構築できれば、企業は次の3つのメリットを享受することができる。

 1つ目は、長期にわたる競争優位と模倣困難性である(会田,2009)。複数のデザインが一丸となって醸し出す「らしさ」は、他にはない独特なものであるため、それを好きになった消費者にとっては、それ以外の選択肢は考えにくくなる。さらに、単一製品のデザインの模倣とは異なり、それを模倣するには時間がかかる。「らしさ」を模倣するには、製品間や世代間でデザインを調節する必要があるからである。

https://www.amazon.co.jp/デザインで視せる企業価値-会田-一郎/dp/4344996739

 2つ目は、消費者の中にリピーターを作り出すことができる点である。前述したように、「らしさ」は、他にはない独特なものであるため、それを好きになった消費者にとっては、それ以外の選択肢は考えにくくなる。かつ、それは模倣困難であるため、長期にわたりライバルの登場を阻害する。その結果、当該企業の製品を長年にわたって買い続けてくれるリピーターが誕生する。
 デザインには、物事のカテゴリー化(分類)を容易にし、人間の情報処理を軽減させる効果がある。つまり、消費者は、デザインを手掛かりに企業や製品を分類するだけでなく、製品の性格やスタイルまでも分類しているのである。これをデザインによる「カテゴリー化効果」と呼ぶが(Kreuzbauer and Malter,2005)、一貫性のあるデザインはそれを強化し、企業にメリットをもたらす。特徴的なデザインを繰り返すことで特定のイメージを浸透させ、それに惹かれた消費者の囲い込みを可能にするのである。

 3つ目は、消費者の中にコレクターを作り出すことができる点である。「らしさ」は、他にはない独特なものであるため、それを好きになった消費者は、あらゆる製品を当該企業のもので揃えてみたくなる。元来、人間には、自身が所有する物の間に調和を保とうとする強い気持ちがある(Block, 1995)(注)。これを「シークエンス効果」と呼ぶが、統一感のあるデザインは、それを刺激する。
 Forty(1986)やBell, Holbrook and Solomon(1991)をはじめ、様々な先行研究において、消費者は個々の製品を独立したものとして評価しているのではなく、自分が所有する他の製品とのアンサンブルを評価して購買に及んでいることが明らかにされてきた。つまり、製品間のデザインに統一感を持たせることで、シークエンス効果を刺激し、消費者の中にコレクターを作り出すことが可能になるのである。

注) これは、文化人類学にいう「ディドロ効果(Diderot Effect)」と似ている。ディドロは18世紀のフランスの哲学者であり、彼のエッセイを基に名付けられたのがディドロ効果である(McKracken,1988)。そのエッセイの内容とは、古いガウンを捨て、新しいガウンを使い始めたところ、書斎にある他の物のみすぼらしさが気になり始め、(新しいガウンに似合うように)次々と物を買い替える羽目に陥ったと嘆くものである。


参考文献
会田一郎(2009)『デザインで視せる企業価値』幻冬舎。 
Bell, S., M. Holbrook and M. Solomon (1991)"Combining Esthetic and
 Social Value to Explain Preferences for Product Styles with the
 Incorporation of Personality and Ensemble Effects," Journal of Social
 Behavior and Personality, Vol.6, No.6, pp.243-274.
Bloch, P. (1995) "Seeking the Ideal Form: Product Design and Consumer  
 Response," Journal of Marketing, Vol.59, No.3, pp.16-29.
Forty, A. (1986) Objects of Desire: Design and Society since 1750.
 Thames and Hudson Ltd (高島平吾訳『欲望のオブジェ:デザインと社会
 1750年以降』鹿島出版会,2010)
Kreuzbauer , R. and A. J. Malter(2005) “ Embodied Cognition and New   
 Product Design: Changing Product form to Influence Brand
 Categorization,” Journal of Product Innovation Management, Vol.22,
 Issue 2, pp.165–176.
McCracken, G.(1988) Culture and Consumption: New Approach to the   
 Symbolic Character of Consumer Goods and Activities, Indiana
 University Press. (小池和子訳『文化と消費とシンボルと』勁草書房,1990)
森永泰史(2016)『経営学者が書いたデザインマネジメントの教科書』同文舘
 出版。


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