マガジンのカバー画像

月ふたつ

36
嬉しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと。生きてたら、みんなそれなりに何かある。それを全部ひっくるめて私という人間ができあがる。もちろん、あなたも。日常と、想…
運営しているクリエイター

2020年9月の記事一覧

秋の訪れ

秋の訪れ

あのうだるような暑さがようやくなりをひそめ、透明感を増した、淡い水色の空があらわれはじめた。

涼やかな風が爽やかに通り抜けていく。私の頬をなでながら。澄んだ空気を大きく吸い込むと、わたしの身体が秋で充たされていくのがわかる。

金木犀についた蕾たちが、あと数日後の花開く瞬間を待っている。そのまえを通りすぎれば、すでにあの甘い香りが漂いはじめていた。

美しく、物悲しい季節のはじまり。
移ろう季節

もっとみる
書くことの意味

書くことの意味

笑えるふうには書けない。
あまりユーモアがないから。
いつの間にか、こころのなかに黒くてドロッとしたものが入り込んでいた。
本当は楽天的でけっこう明るいキャラだし、いまもその部分は変わらない。けれど幼い頃の経験が、わたしにそのままだけでいることを許さなかった。

ユーモアを織りまぜて文章を書ける人がうらやましい。
けれどどうにもそうできそうにないから、今日もそんなに明るくはない文章を書いている。

もっとみる
夏の終わり

夏の終わり

肌を焦がすような、あの痛いくらいの日差しも、まるで永遠に続くかのように感じられたねっとりと濃い闇夜も、そのすべてに纏わりついていたあのドキドキやワクワクも、全部、ぜんぶ過ぎ去ってしまう。

あっという間に駆け抜けていく。
気づくともうおしまいの時がきてしまっている。
暑さに意識は朦朧とし、正常な判断もままならない。でもそれは言い訳にすぎなくて、本当はすこし道がそれたことを楽しんでいた。

でもそれ

もっとみる
夏の日

夏の日

水面に太陽の光が反射している。
ギラギラと照りつけるその光は強烈で、あまりの眩さに目を開けていられないほどだ。

海水の温度はちょうどよく生ぬるく、ふわふわと何時間でも漂っていられそうだった。

私は海中に浸した手をひきあげ、両指を組んで一枚の面を作った。そしてその手のひらを煌めく海面へかざす。

そうするとその眩い光が、私の手のひらについた海水の滴に反射して、キラキラと輝きだす。
波の揺らめきが

もっとみる