マガジンのカバー画像

本・映画・美術

98
運営しているクリエイター

#小説

林芙美子のケアと気遣い(とオースティン)

 初めてケアと文学についての議論を読んだのは富山太佳夫の『英文学への挑戦』だったと思う。…

劣等感と自己啓発の本、『愛と幻想のファシズム』(あとハーヴェイ)

 加藤諦三『劣等感がなくなる方法』を読んで、スクショを上げたら村上龍の大ファンに「村上龍…

バンジャマン・ペレ『サン=ジェルマン大通り一二五番地で』

 「ペレのテクストは常に、それが持っている形式の必然性を奪われ続けなくてはならないのであ…

フラナリー・オコナー『すべて上昇するものは一点に集まる』~親がネトウヨの私たちの…

 絶対望ましい受け取り方じゃないんだけど、体の半分が抱腹絶倒してもう半分が強めのマッサー…

ジョーゼフ・ヘラー『キャッチ=22』

 戦争の荒唐無稽さをこれでもかと提示した戦争文学の傑作のように言われる本作。しかし、上官…

ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』米川和夫訳

 苦悩の袋小路に至ったとき、ギュポンと筒状のものの内と外がひっくり返るように道化になる作…

大江健三郎『万延元年のフットボール』

 大江の小説からはペニスの臭いがする…というのは似非共感覚者の妄言なのだが、でもなにかがある。それは過去の再演、兄弟の対立、都合良く順繰りに新事実を明るみに出す狂言回し、循環しつつ再生へと向かうプロットという構成の巧緻を横溢する。苦悩と恥がふうわりと臭うのかもしれない。ペニスは暴力でないから。  暴力、と書いてそれから。暴力を突き詰めようとするこの小説で、暴力は何層にも渡り展開される。子供が戯れに投げた石が当たって視力を失うこと、デモのときに頭を殴られて頭蓋骨が割れること、

高橋源一郎『ジョン・レノン対火星人』

 何も葬り去ってはいない。厚みや深みといったものへの拒絶には、宇能鴻一郎みたいな韜晦があ…

ジュンパ・ラヒリ『その名にちなんで』

 教科書か、みたいな、こういういい小説を読むのは耐えがたいんですが、この小説がなぜこれだ…

岡崎弘明という幻視者

 一昔前の小説アンソロジーで思いがけず出会った作家に全部持って行かれることがある。椿實も…

やっと『罪と罰』読んだ

 かなりとりとめのないことを書くんだけど、やっぱり信仰の問題が中心にあって、なんかそうい…

ブルガーゴフ『巨匠とマルガリータ』水野忠夫訳

 小説を読むときにその小説がどう位置付くのかを考えずに、考えずに済むことに甘んじながら読…

黒田夏子『abさんご』

 表紙の袖のところに 「昭和」の家庭で育ったひとり児の運命 と書いてあってあんまりだと思…

顔の美醜、および自然の鏡について

 顔について色々思うところもあって読んだTed Chiang "Liking What You See: A Documentary"とDavid Foster Wallace "Philosophy and the Mirror of Nature"について書くんですが、書きます。  映画の『メッセージ』を見た後で原作となった「あなたの人生の物語」の作者であるテッド・チャンについて少し見ていたら「顔の美醜について」という短編があることを知り、タダで読めそうだったので、読ん