大江健三郎『万延元年のフットボール』
大江の小説からはペニスの臭いがする…というのは似非共感覚者の妄言なのだが、でもなにかがある。それは過去の再演、兄弟の対立、都合良く順繰りに新事実を明るみに出す狂言回し、循環しつつ再生へと向かうプロットという構成の巧緻を横溢する。苦悩と恥がふうわりと臭うのかもしれない。ペニスは暴力でないから。
暴力、と書いてそれから。暴力を突き詰めようとするこの小説で、暴力は何層にも渡り展開される。子供が戯れに投げた石が当たって視力を失うこと、デモのときに頭を殴られて頭蓋骨が割れること、