岡崎弘明という幻視者
一昔前の小説アンソロジーで思いがけず出会った作家に全部持って行かれることがある。椿實もそうだったし、岡崎弘明もそういう作家だ。『異形コレクション』という、アングラっぽい雰囲気を無邪気に希求していたときに買ったシリーズの1冊に「太陽に「太陽に恋する布団たち」という短編が載っていた。布団が太陽に照らされて空に跳び上がる、その布団に乗って人間もうまくいけば天国まで飛んでいけるというシラノ・ド・ベルジュラックみたいな奇想の短編で、その突き抜けた明るさに魅了されたのだった。
それから第1回ファンタジーノベル大賞で最終候補に残ったという『月のしずく100%ジュース』、第2回で優秀賞に選ばれた『英雄ラファシ伝』を読んだ。これはどちらもハイファンタジーと言える、今、ここ、とは全く異なる世界を描いた間違いなくファンタジー作品なのだけれど、そこで動員されている華々しいレトリックは寧ろマジックリアリズムと呼ばれるようなものだった。
今wikipediaを見ると、いつのまにか記述が充実している。かつてご本人が運営されていた公式サイトはもう見られなくなっているが、『21世紀の幻視者』そのホームページビルダー仕立ての不審極まるその空間には昔懐かしい、リンクをクリックしたりなどして進めていくゲームが置かれていて、何時間も、ひょっとしたら何日もかけてそれをクリアしたのだった。
クリアした人はサイトに名前を載せてもらえるというので、作品に打ちのめされたこととともにそのメールをした。まさか今頃このゲームを最後までする人がいるとは、という驚きと、そのサイトの管理にアクセスできず、もう更新ができないのだという返事があった。今見返すのは変に気後れがするけれど、そのメールにはGメールの★と重要マークをつけておいてあるはずだ。
そんなことを久し振りに思い出したので、読めていない他の作品も集めていこうかな、と思った次第。
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